18.事情聴取(2)

 楽しい事情聴取タイムの始まりだ。花実は端的に場の3人に対して、簡潔な質問を放つ。問いは簡潔であれば簡潔である程、真偽が見抜きやすい。


「それじゃあ、まず1つ目ね。結界に触ったり、穴を開けた神使はいる? はい、いいえで答えて欲しいな」


 白菫が酷く何か言いたそうな顔をしたが、そこはプレイヤーの顔を立ててくれたのだろうか。文句一つ言わず、先陣切って問いに応じた。


「結界には触っていないし、当然穴も開けていません。……この答えでよろしいですか? 召喚士様」

「ああうん、大丈夫、そんな感じで」


 白菫の言葉に嘘は無かった。続いて、白花と紫黒も前者に倣って返答する。


「私もお兄様と同じです、召喚士様」

「私も触ってないけど……」


 白花は嘘を吐いていない。が、紫黒は大嘘を吐いている。ここで躓く神使は前回もクロだったので、彼女が一枚噛んでいるのは確定と思っていいだろう。始まった時から失言が目立ったので新しい驚きはない。


「ありがとう。じゃあ次だけど、神使の中に裏切り者がいるんだけど、正体を知っていたりはする?」

「……申し訳ありません、召喚士様。この問答に意味が見出せないのですが、これも二択で答えてよろしいのですか?」


 とうとう質問という形で苦言を呈してきたのは白菫だ。現状はかなり通常時の性格と異なるらしいが、恐ろしく真面目な性格をしているのは確かなのだろう。主神代理でもある召喚士に対して質問を返すというやり取りに苦痛を感じているようだった。


「あー、ちゃんと意味はあるから大丈夫。ありのままに答えて貰って……」

「そうですか。貴方様がそう仰るのであれば、それに従いましょう。俺は裏切り者に関する情報は有していません」


 ――急に何でそんな嘘を……?

 指先がピクリと震える。この質問で嘘を吐くのも結構、致命的な失言だ。知っている事を知らないと、隠し通そうとしている事になる。

 ボーッとしてしまっていたからだろうか、ニヤニヤと場を見守っていた烏羽が久々に躙り寄って来て口を開く。


「おや、どうされましたかな? 召喚士殿」

「あ、いや、何でも……。それで、他の2人は?」


 気を取り直して質問を再開する。紫黒は黒幕だろうが、白菫もグレーを帯びてきた。であれば白花が一人だけピュアホワイトなんて事はあり得るのだろうか。どうしよう、全員怪しく思えてくる。

 そして、残り2人の返答はまさに予想通りだった。


「私も裏切り者に関しては存じ上げておりませんね。紫黒は?」

「わ、私も知らないよ」


 ――隠し事が出来ないのかな、紫黒。

 明らかに狼狽えている。少し哀れに思えてきたので、敢えて指摘はしなかったけれど。白花の発言にはやはり嘘はなかった。が、あまりにも清廉潔白でそれすらも怪しく思えてくるのだから不思議だ。

 月城町の時のように、灰梅のような枠ではないとも言い切れない。


 それにしても、現状で怪しい神使が2人。あまりにも無害過ぎて怪しい神使が1人、と誰も信用できない疑心暗鬼状態に陥っている。

 特に白菫の嘘は謎が深まるばかりだ。彼にはもう少し別の質問をしたい所だが、まずは率直に怪しい紫黒を詰めてみるのも一興。仲間であれば、紫黒を糾弾すれば一緒に白菫を釣り上げられるかもしれない。


「えぇっと、紫黒はどうしてさっきからその、若干、挙動不審なのかな?」

「へぁっ!? きょ、挙動不審だなんて。召喚士様とお話をして、緊張しているだけだよ!」


 横に立っていた烏羽が苦い顔をする。どういう感情なのかは分からないが、少なくとも演技ではなく本当に感情が表情に表れているようだった。


「いやでも、さっきから汗が凄いし……」

「き、緊張してるからだよ」


 周囲の反応を伺う。全く動じない白花のニコニコ笑顔も不気味だし、ぐったりとした溜息を吐く白菫の反応も正常とは言い難い。何か知っているのではないだろうか。

 ちょっと突いてみようと思い、完全に気を抜いている白菫その人へと声を掛ける。


「白菫も、何か知らない?」

「俺が? ……いえ、先程も申し上げた通り。裏切り者に関しては分かりません」

「本当に?」

「……ええ」


 シンプルに嘘だ。やはり何かを知っているし、普通に紫黒とグルなのかもしれない。今回は紫黒と白菫が黒幕、白花がグレーのセットで終わりのような気がしてきた。

 ただ、何の考えも無く発言してしまうと事態が急展開しかねないので一旦、考察の時間を挟もう。


「――大体分かったから、ちょっと情報を整理してみるね。一旦解散で」

「解散……? いえ、分かりました。また何かありましたら、お呼び下さい」


 ゾロゾロと花実の部屋を出て行こうとした神使一行、その背に烏羽が声を掛ける。


「紫黒」


 息を呑んだ彼女が足を止め、大兄と呼ぶ彼の方を振り返った。色々と花実が質問した時よりも酷い顔色をしている。対照的に笑っているのか笑っていないのか分からない、おざなりな微笑を湛えた烏羽。力関係を恐ろしい程に現している。


「――やらかしたのは、貴方だったのですね。ええ、把握致しました。何を立ち止まっているのです? 召喚士殿のお言葉を忘れたので? ええ、解散です。早く部屋から出て下さい」


 青を通り越して、白い顔になった紫黒は震えながら部屋を後にした。後味の悪い事をするな、と初期神使に注意をしたかったのだが、データであるはずなのに空恐ろしい気分が拭えない。結局、注意には至れなかった。

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