03.拠点を探索しましょう(1)
「どうか致しましたか、召喚士殿?」
ハッと我に返る。まるでプレイヤーが黙り込んだのを察したようなタイミングだったが、放置ボイスも実装されているのか。アルバイトなど雇わず、もう売り出せばいいのに。このゲーム。
ゲームの登場人物に対し発言を返すという発想が無かった花実はボンヤリと巨体を見上げる。身長差もしっかり作ってあるからか、自販機を見上げているような気分にさせられた。
と、烏羽が態とらしく「よよよ」、と泣き真似を披露する。
「無視だなんて寂しいではありませんか。私はこんなにも召喚士殿の事を思っていると言うのに……」
――凄い! 全部嘘!! 息をするように嘘を吐く!
あまりにも真実の情報がなさ過ぎて一歩後退る。こんなにポンポン嘘を吐く者なんて、現実世界にだっていないぞ。
神使の好感度以前に、自分の好感度が駄々下がりする。これチェンジは出来ないのだろうか?
端的に苦手な性格の相手だ。信用ならないと思っている上、嘘がバレバレなんて相手は気付かないもの。こちらから「嘘吐いているのが分かっている」と言わない限り、止めないだろう。尤も、ゲームのキャラクターに発言禁止を敷いても無駄でしかない訳だが。
それに、最悪なのはチュートリアルで彼を引き当てた所だ。花実は前述した通り、ガチャの運命論者である。最初に来てくれたキャラを無条件に愛し、育て、慈しむ。
しかし――このキャラクターはどうか。
ゲームを始めた者の責任として、愛し抜く事は出来るのだろうか。
悶々と考え込んでいる間に、やや身を屈めた烏羽の顔がすぐ間近に迫っていた。遠慮も何も無く、対象を観察するような目。大きすぎるタッパに加えて威圧感が凄まじい。
「ふむ、これ程までに無反応だと、きちんと接続されているのか心配になってくるものだ……。しかし、目は合っているので私の事は認識されているのでしょうねえ。まだ出会って数分しか経っていないと言うのに、もう嫌われてしまったようで。残念です。おかしいですねぇ、大抵の召喚士殿は私の事を――ええ、それはもう、チヤホヤとして下さるのに。ねえ?」
ニヤニヤと嗤う彼の発言には、もう述べるのも疲れる程度には嘘が散見される。指摘するのも億劫なくらいだ。
まるで本当に語りかけてきているような精巧さに舌を巻いている間に、烏羽は話を進める。
「それでは、召喚士殿の為にこの私が! ちゅーとりあるを開始しましょう! 初めての試みですので、粗には目を瞑って頂ければと思います。ええ、ちゅーとりあるの手順をしっかり覚えている私を天才と褒め称えて頂いて構いませんとも」
「……」
「ではまず、お手元の端末をご確認下さい。ええ、ぷろふぃーる画面の見方を教えなければなりません。開きましたか? 開きましたか?」
「……」
「よろしい」
――これ、一瞬間があるから受け答えをするプレイヤー前提に作られてるのかな?
そうだとしたら、擬似的に会話しているように遊ぶのが正しいのかもしれない。無視しても話は勝手に進んでいるが、キャラクターが一方的に喋っているだけの寂しい図が完成してしまっている。
――でもデータに話し掛けるのは少し抵抗が……。
「ところで……私からは召喚士殿の個人情報は見られないようになっているのですが。適応色は何色になっているか教えて頂いても? ええ。勿論、教えたくなければそれでも構いませんけれど。これはちょっとした好奇心、ですので」
「……」
「無視ですか。ええ、そうですか。まあ、状況的に適応色は『黒』になっている事でしょう。それ以外の色が表記されている場合は、運営に怒りの問い合わせをした方がよろしいですよ。ええ、貴方様の為に言っているのです」
プロフィール画面の見方は概ね、他ソシャゲと同じような物だ。烏羽が指摘した『適応色』は意味不明だが。なお、色は黒なので運営への問い合わせは不要のようだ。
「……適応色って……」
「おや。お話ができたんですねえ。我々神使は色の名前を与えられているのですが、聞いた話によると召喚士殿の適応している色に近しい神使が召喚されやすいそうですよ。まあ、私としても黒に適応する召喚士など、都市伝説の類いだと思っていたのですが。私と一番に出会ってしまうあたり大変な逸材のご様子ですねぇ」
裏のパラメーターのような物が存在するのか。他のプレイヤーと交流が出来ないので、どうなのか分からないのが辛い。もしかしたら、プレイヤーは全員そのパラメーターなのかも確認しようがない。
「では、召喚士殿。まずはこの建物……社を回りましょう。貴方の拠点ですから。ついでに色々と説明しておかないといけない事もありまして。ええ、やりがいのあるお仕事ですねえ」
――嘘を吐け!
気付いてしまったのだが、召喚士を労ったり肯定したりする台詞に嘘が多い気がする。実はプレイヤーの事をよく思っていない、とかいう闇の設定でも抱えているのか?
歩き出した烏羽の後に続く。背中を向けたまま、彼はチュートリアルを始めた。
「まずは我々、神使について説明せねばなりませんね。貴方が何の力を行使しているのか……まあ、どうせ貴方達にとってみれば神使などきゃらくたーを言い換えた言葉でしかないのでしょうが」
メタ的な発言があまりにも多い。道化っぽい感じがひしひしと漂っているし、第三の視点から物を述べるタイプのキャラクターなのか。
「神使は世界におわす唯一神でもある主神殿によって1体1体創られた存在です。主神が創った、世界で起こりうる事象を解決する為のお人形だと思って頂いて結構ですよ。まあ、この通り我々には不合理的な人格と意思が備わっている訳なのですが。ええ、長く存在しておりますので仕方の無い事ですね。はい」
「……」
「主神、及び神使は活動をしているだけで輪力を消費します。輪力と言うのは……げぇむ用語を用いれば魔力ですとか、霊力の類いになるのでしょう。ええ。この輪力は循環する物ですので……いえ、難しい話は止めましょう。貴方様にはまだ説明した所で理解出来ますまい」
「……」
「ともかく、全ての存在は活動をしているだけで輪力を消費します。そして、主神や神使は人間や他生物と比べてその消費量が文字通り桁違いです。我々が全て起きて活動していれば、たちまち世界の輪力は枯渇し、大地は荒れ果て海は荒れ狂う天変地異が起こる事でしょう。ええ。
なので、有事の際以外にはおよそ半数の神使及び主神は眠りについております。輪力の節約ですねぇ、はい。それら、眠ったまま有事によって葬り去られた神使を召喚し、使役するのが貴方様の役目で御座います。主神が残した有事解決の持ち札。ええ、かくいう私も貴方のご活躍に期待していますとも!」
全然期待していないんだろうな、嘘とか以前に自然とそう思った。烏羽はニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべるのみだ。
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