第196話 火柱
「くそっ、何て数だ……!倒しても倒してもキリがないぞ!!」
エサに群がる鳥の大群のように入れ替わり立ち替わりやって来る“天使”たちの猛攻をしのぎつつ、俺は黒龍のナイフに時空間属性の魔力を纏わせながら一体一体確実に仕留めていく。
「ああ全くだ! しかもそろそろコウジの強化付与魔法が解ける頃合いだ――今の威力を維持するとなると光属性の魔力を使うしか――」
「後の事を考えるとここで指輪の魔力を浪費するのは避けたい!――幸司の強化が残っている内に少しでも奴らを減らすぞ! 時空間魔法を発動するから5秒だけ持たせてくれ!」
「了解した!」
そう言ってアイラが数十本の魔法弓をズラリと構え、360度に一斉掃射するのを見ながら俺は刻印から魔力を引き出し、すぐさま魔法を発動する。
「――同時に複数発動するのは初めてだが、四の五の言っていられない……竜胆の〈魔導補助(極)〉スキルがあればできるはず――《
俺とアイラがいる場所を囲むようにして10個の魔法陣が出現し、刻印からありったけの魔力を引き出して注ぎ込むと、全ての魔法陣が同時に光り輝き時空間魔法が発動する――
俺たちに群がる“天使”達は一瞬たじろいだ後、慌てて翼を羽ばたかせて後ろへ下がるが、発生した時空のヒビに巻き込まれて次々とその身を裂かれて地面へと落ちていった。
アレナリアで《反復魔法》と呼ばれていた竜胆の得意技――魔法陣の再構築を省くことによって得られる魔法の連射能力を使って、俺は10個の魔法陣から魔法を発射し続ける。
しばらく撃ち続けると、周囲の空間に刻まれた黒い亀裂がどんどん深く広く根を張っていき、俺たちを取り囲む空間がグラグラと不穏な振動を始める。
「お、おいユウガ――! さすがにこれ以上はマズいんじゃないか!?」
「そうだな――どっちみちもう刻印から魔力が出せなくなってきた……! 攻撃が終わった後に隙ができるからフォローを頼むぞ!」
“燃料切れ”と共に取り囲んでいた魔法陣はガラスが割れるようにして砕けていき、崩壊寸前だった周囲の空間は少しずつ元の姿へと戻っていった。
こちらの攻撃が止めば一斉に天使たちがなだれ込んでくるものと思っていたが、代わりにこちらへ猛スピードで迫って来たのは――巨神から放たれた3つの火球だった。
頭上で今にも炸裂しそうに膨張するそれを見た瞬間、俺は致命的な判断ミスを犯したことに気付く――
恐らく今展開しているシールドでは火球の爆発に耐えることはできない……しかも一時的に刻印の魔力変換が使えなくなった状態ではシールドを補強することもできない。
横方向へ逃げるにしても、放たれた3つの火球が爆発すれば恐らくかなりの広範囲を巻き込んだものになるだろう。少なくとも今天使たちが遠巻きに取り囲んでいる場所までは走らなければならない。
上から強烈な閃光が降り注いだと思ったその時、火球は途方もないエネルギーを発散させながら爆発し、天を穿つ三本の灼熱の柱が形成される。
「「悠賀あああ!!!!」」
放射状に広がっていく爆発の衝撃波をシールドで防ぎながら信征と幸司は叫ぶように声を上げるが、爆風すら意に介さないアドルフが二人の首を狙って突っ込んできたため安否を確かめに行くこともできない。
「ちくしょう……!もっと俺に力があれば――!ここに辿り着いてからというもの、こいつに苦戦してばかりじゃないか……俺が不甲斐ないせいでどんどん事態が悪くなっていく……!」
「信征! 気持ちは分かるがまずはアドルフに集中だ!! 悠賀たちに“もしも”の事があった場合、俺たちがあの化け物を何とかしないといけないんだぞ!? 多分ダメージを負ってる今が最初で最後のチャンスだ、さっさとアドルフの野郎をぶっ飛ばして“神殺し”と行こうぜ!!」
幸司の言葉に信征はハッとしたように一瞬だけ目を見開き、すぐに口元に微かな笑みをたたえて答える。
「やっぱ幸司は何だかんだ言って“よく見てる”よな――お前の言葉で目が覚めた。俺に一つ考えがあるから、まずは強化魔法の更新から頼む……!」
「よっしゃ、任せろ!」
信征は幸司から身体強化と魔力強化の付与を受けると同時にアドルフの元へと走り、アドルフもまた信征に向かって一気に距離を詰めていく。
二人が交錯しようとするその刹那――
アドルフは信征の心臓を一突きにしようと右手に力を込め、信征の剣を躱しながら鋼のようになったその腕を鋭く突き出す。
辛うじて身をよじりながら心臓の串刺しは免れたものの、信征の胸に深々とアドルフの腕が突き刺さってしまった。
「
幸司の叫び声に、信征は口から血を吐きながら笑みを浮かべて答える。
「大丈夫だ!! これが俺の狙いだからな!――聖炎魔法《
そう言って信征はアドルフの右手を掴みながら自身の血を媒介に浄化の炎を燃え上がらせた。
アドルフはその身を聖なる炎で焦がされ絶叫に近い大声を上げながらも、ドス黒いオーラを全身から放出して激しく抵抗する。
そのオーラは常人が触れればあっという間に肉を腐らせ骨をも溶かしていく深淵の魔力を帯びているが、信征は常時再生魔法を自身にかけ続けることで肉体の崩壊を抑え、なおかつ聖炎の媒介となる血を供給し続けることでアドルフを消滅させるまで拘束することを選択したのだった。
光と闇魔法の極致である天聖魔法と深淵魔法――
相反するその二つがせめぎ合うように激しくぶつかりながら二人の周囲を渦巻いていく。
もはや誰も立ち入ることができないその領域を目の前にして、幸司は固唾を飲んで親友の勝利を祈り見守るのであった。
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