第191話 秘めたる覚悟
一連の惨状を目の当たりにしてガクリと膝を突いたのは教皇マルセル・スプリッツァーその人だった。
「馬鹿な……ウロボロスとタイタンを――無限の魔力と生命力を兼ね備えたというのに何故神の暴走が止まらないのだ……!」
「私には……分かり兼ねます。元々理性のない“獣”だったというのでしょうか――」
「いや、そうではない……!周囲に散らばる遺物を見ればその文明がいかに優れていたか分かるだろう? 我々より圧倒的に上位の存在であり、遥かに高度な文明を築く知能を有する存在――愚かな人間が指針とすべき、まさしく神と呼ぶべき存在なのだ! それが……こんな、こんな――」
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「――恐らく、教皇は禁忌の魔道具について勘違いしている。あれはただ魔力や生命力を供給するだけのモノじゃないんだ。俺はウロボロスの真の力について大迷宮にいたレミアという女性から教えてもらった」
「あの魔石の中にいた女性と意思疎通できたのか!?――いや、それより真の力っていうのはどういう事なんだ?」
「色々疑問があると思う。今から伝心魔法で俺が見聞きした内容を伝えるから、まずはこれを見てくれ」
俺はそう言って伝心魔法を発動し、大迷宮で出会った古代文明消滅の鍵を握る人物――レミアさんについて記憶を共有した。
「あ、相変わらずユウガの持ってくる情報はとんでもないな……! こんな気を張った状況でなければ腰を抜かしているところだ」
「能力に関する話は所々理解できない部分があったが、それは悠賀しか分からない事なんだろう。それでも流石にあれだな、少し頭を整理しないと情報量が……」
信征は考え込むように顎に手を当て、俺が見せた映像を思い返す。
「ウロボロスを接続すれば膨大な魔力が得られるのは確かだ。あれだけの肉体があれば接続後の負荷にも耐えられる可能性が高い――でも、魂は違う! あいつは今、何度も何度も魂の破壊と再生を繰り返しているはずだ! だからあんなに苦しんでいるんだと思う――!」
「理性を失う程の苦痛か――想像したくもないが……」
アイラは若干身震いをしながら言葉を続ける。
「多分、ウロボロスだけではなくタイタンにも同じような真の機能があるのかもしれないな。――なあユウガ、いくら理性がないとはいえ、私たちだけであの暴走する化け物を倒せると思うか?」
「倒せるか、じゃない。倒さなきゃならないんだ……!!」
「悠賀の言う通りだ。――今、こうしている間にも奴が“不死化”してしまう可能性があるんだろう?」
信征が放ったその言葉にアイラと幸司はぎょっとしたような表情を見せ、一気に血の気が引いていくのが分かった。
「――そういう事だ。どんな手を使ってでも、今ここで一秒でも早く奴を倒さなければならないんだ! 放っておけばナルヴィスさんの予言通りこの大陸は――世界は滅びるだろう」
俺は――
いや、俺達は“覚悟”を決めなければならないのかもしれない。
静かに……呼吸を整えるように胸の前に拳を当て巨神のいる方向を見つめていると、俺の想いを察したのか信征は静かに頷きながら口を開く。
「――絶対に、俺達で倒そう。俺達がこの世界でこれからも生きていくために」
「俺も付いていくぜ信征! ここまで来たら最後まで突っ走ってやるぜ!!」
「ユウガ――」
「ひとつ、俺に考えがある」
心配そうに俺の方を見つめるアイラの肩にポンと手を置き、信征と幸司の方を見て言葉を続ける。
「俺とアイラにしかできない方法があるんだ。多分それならあの化け物を倒せると思う――」
「おっ!何だ何だ、そんな必殺技みたいなの持ってるのか悠賀! どんな技なんだよ!」
「ふっ、時空間魔法だよ。一つとっておきのがあるんだ……それにアイラの光属性の魔力を乗せれば威力は倍増する」
「――なら信征を相方にして特攻した方が良くないか? 天聖魔法だっけか、それならより強力な威力が出ると思うぞ!」
「いや幸司、悠賀は多分俺達にアドルフの足止めを頼むつもりだ。――そうだろ?」
「話が早くて助かるよ。こんな状況でも奴は間違いなく俺達を止めに来るはずだ……! 信征たちにはアドルフをできる限り遠ざけてもらいたい」
「分かった、それじゃあすぐに準備をしよう。幸司、マナポーションは余ってるか? こっちは大迷宮帰りでストックがゼロなんだ」
「おう、まだあるぜ! しっかり回復しておいてくれよ!」
俺はそんな二人の様子を見ながらそっと背を向け、座禅を組むように座って静かに目を閉じ精神を落ち着ける。
二人が準備を整えている間に、俺もひとつやっておく事がある――
そんな事を考えていると、アイラが隣にちょこんと腰を掛け、後ろの二人に聞こえない位の声で話しかけてきた。
「また無茶をするつもりだな?」
「ふっ、いつもの事だろう? 本当は俺一人で行ってもいいんだけどな……成功率を少しでも上げるために、アイラに傍にいて欲しいんだ」
「皆まで言わなくていいさ、どうせユウガが駄目と言っても無理やり付いていくだろうしな」
「ははっ、確かに……! しっかりサポート頼んだぞ」
「ああ、任せておけ!」
「――あいつらが準備してる間に一つやっておきたいことがあるんだ。一旦始まりの地に行ってくるから俺の身体を頼む」
「今から行くのか!?――いつ攻撃がこっちに来るか分からないから早めに帰って来てくれ」
俺は小さく頷くと、再び目を閉じて始まりの地へと向かうのだった。
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