第186話 昔話
「友達だって言ってたのに、ジャンヌは死を恐れるあまりどんどん変わっていってしまった。次々に狂気ともいえる研究に手を出して――」
「ジャンヌ……? 以前アドリアーノというアルカディア王国の研究者の記憶を垣間見た時にその名前を聞いたことがあります! 俺やレミアさんと同じ刻印を持っていて、“ともしび”の力を自在に操ったと――」
「――そう、知ってたのね。多分あなたが聞いたジャンヌは私の知っているジャンヌとは別の代の女王でしょうけど……ジャンヌ=エンライトは王国最後の女王なの」
「最後……ということは古代文明が――アルカディア王国がどうして滅んだのかレミアさんは知っているんですか!?」
その言葉にレミアさんは視線を伏せ、沈痛な面持ちで絞り出すように答える。
「知っているも何も、私が滅ぼしたのよ。
――魔力災害によって」
背中を冷や汗が流れ、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる――
レミアさんが魔力災害でアルカディア王国を滅ぼした!?
あまりの衝撃の事実に言葉を発することができないでいると、レミアさんが力なく微笑み静かに口を開く。
「ウロボロスによる精神汚染、狂気に身をゆだねていく無二の親友――私の心は限界だった。もう、全部無くなっちゃえばいいのにって思った瞬間、感情が抑えきれなくなって――気が付いたらすべてが無くなっていたわ。私は不死スキルのお陰で死ぬこともできず一人生き残ったの」
「アルカディア王国は大陸の西半分を治めた巨大な国だったと聞いています……そんな王国を消し飛ばすほどの魔力災害が起きたというんですか……!?」
「――魔力災害の大きさは感情の大きさで決まるの。激しい感情であればあるほどより多くの原初の力を刻印から引き出せる……私の場合はウロボロスによって極限まで精神を侵されていたから、文明を消し飛ばすほどの途方もない力を引き出してしまったんだと思うわ」
「レミアさんはその後……どうしたんですか? それに、女王はどうなったんですか!?――質問ばかりですみません」
「ジャンヌがどうなったかは分からないわ。私自身、わずかに残ったこの意識すら奥深くに飲み込まれて……ただひたすら刻印から魔力を放出し続ける意思のない存在になってしまったの」
レミアさんが寂しそうにともしびで覆われた空を見上げると、その目から一筋の涙が流れ落ちるのが見えた。
「私が暮らしていた研究所は広大な魔法空間の中にあったんだけど、魔力災害のせいで壊れてしまった。それから周囲の空間ごと地面に沈んでいって……辿り着いたのがこの場所ってわけ。今でも私の魔力でダンジョンは広がり続けているわ……」
言葉が出なかった――
誰も知らなった古代文明消失の真実がこんな形でもたらされたものだったなんて想像すらしていなかった。不死のスキルを追い求める意思が行き過ぎた実験につながり、結果として文明を崩壊させるほどの厄災となって降りかかってきたなんて……
「さあ、昔の話はこれでおしまい! 今度は“これから”の話をしよう。さっきも少し言ったけど、一つだけ私のお願いを聞いてほしいの……!」
レミアさんは両手でパンッと手を叩き、先ほどより幾分か明るい表情でこちらに話しかけてきた。
「――お願い、ですか?」
「そう、お願い。私は表層に出てこれない意識の“残りカス”だけど、ずっと……何千年も一つの事を考えてきたの。――どうやったら〈上位スキル〉である不死スキルを消すことができるのかって……」
上位スキルという言葉は初めて聞くが……そういえば闇の刻印や存在感知のように外したり付けたりできないスキルがあるのは前から不思議には思っていた。
ただ、自動回復(極)スキルがそれらと同じだとして、それを消すということは――
「レミアさんは……死を望んでいるんですか?」
「ええ、そうよ。もういい加減……楽になりたいの。
あなたなら――いえ、あなただけが私の無限に続く苦痛を終わらせることができる……! やり方なら見つけたわ!でも、それにはあなたの協力が必要なの」
「レミアさんが……何千年も考えて出した結論であれば協力は惜しみません。――ただ今の俺には時間がありません、禁忌の魔道具によって今地上は大変なことになっていて、俺はレミアさんの魔力を持ち帰らないといけないんです!」
「――そう、人はまた欲望に振り回されて過ちを繰り返しているのね……」
視線を伏せて悲しげな表情をするレミアさんだったが、しばらくして顔を上げてこちらに視線を向ける。
「手伝ってくれたら私の魔力をあげてもいいわ。――といってもこの場所以外で私は動けないから、あなたは私を無視して一方的に魔石を削って持ち帰ることはできちゃうけどね」
「事が済んだら必ずまた来るので、先に魔石を分けてもらえないでしょうか……多分、あと20分もすれば地上へ強制転移されてしまうんです」
「ダメ!何千年も待って――やっと、やっと巡ってきたチャンスなの! 時間は掛からないから今やってほしい!」
悲壮なその表情に、これ以上の問答は意味がないことを悟り、彼女の願いを聞き入れることにした。
「――分かりました、俺は何をしたらいいですか?」
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