第185話 不死のスキル

「不死の……スキル……そんなものが存在するなんて……!」


「信じようと信じまいと、不死のスキルは存在するわ。――私があなたの目の前にいるのが何よりの証拠ね……」


「ちょっと待ってください! さっきレミアさんのスキルを見ましたが不死スキルなんてなかったですよ?――いや、もしかして……」


「気づいたかな? 確かに“不死”とは書いてないけど、実質的に肉体から死を奪い取るスキルがあるわ。――それが〈自動回復(極)〉というスキルなの」


――確か、以前会った6人目の召喚勇者……安藤拓真も同じスキルを持っていた。

ウロボロスによって魔人にされたと言っていたが、拓真は“本来の機能”によって不死のスキルを得ていたということか。


「まさかウロボロスが不死のスキルを付与するために作られたなんて思ってもみませんでした……!」


「――付与なんて生易しいものじゃないわ。本当は思い出したくもないけど、あなたには一つ“お願い”を聞いてほしいから正確な情報を教えてあげる」


レミアさんは意を決したように立ち上がり、言葉を選ぶようにしながらゆっくりと語り出す。



「ウロボロスはその内に無限の魔力を蓄えることができる……そして、蓄えられた魔力は一切減衰することなく――言い換えれば全く形を変えることなく内部を巡り続けるの。そんな魔道具と接続したら人間はどうなると思う?」


「す、少なくとも人間の身体では耐えられないと思います……その人の魔力操作のレベルによっては、下手したら爆発四散するかもしれない」


「いい線いってるね……! あなたの言う通り、魔力の無限循環の激流に取り込まれた肉体は膨大な魔力が流れ込むことであっという間に崩壊するわ……だからこそ最初に身体を魔物に作り変えるのよ。そして、魂は――」


言葉を詰まらせ目をかたく閉じるレミアさんだったが、少し間を置いて再びこちらを向いて話を再開する。



「ウロボロスに取り込まれた魂は一切摩耗することも形を変えることもない――でも壊れるのよ、ほんの一瞬だけ……確実に。壊れては瞬時に再生し、また壊れてはすぐに元の形を取り戻す――果てしなく破壊と再生が繰り返されるの。不死のスキルが刻まれるまで――」




「……いまいち理解が追い付かないんですが、魂を破壊して再生することで不死のスキルが刻まれるんですか?」


「半分正解、半分ハズレね」


レミアさんはそう言うとじっと俺の顔を見つめ、辺りを静寂が包み込む――

しばらくするとその顔にうっすらと微笑みを浮かべ、静かに口を開いた。



「少し見方を変えようか。――見た所あなたは〈自動回復(小)〉スキルを持っているみたいだけど、それって本来魔物固有のスキルだって知ってる?」



「――え!?」


衝撃の言葉に思わず大きな声を出してしまう。

確かに、今までこのスキルは拓真を除いて誰一人として持っていなかったが……そんな事考えてもみなかった。

でも、何で俺に魔物のスキルが――



「……まさか、俺も魔人に!?」


「ふふ、あなたは私と違って人間よ。――よく思い出してみて、最初はそんなスキル持ってなかったはず」



――思いだした、あの時だ。

魔力災害を起こした後……復活してから黒龍にスキルを教えてもらった時にはすでに自動回復スキルが増えていたんだった。



「確かに最初は持っていませんでした……! 刻印の暴走で魔力災害を起こしてこの場所に来て……生き返った時にはすでにこのスキルがありました!」



「魔力災害では魂は壊れないだろうし、多分あなたの場合この始まりの地で原初の光に触ったんじゃないかな?」


「原初の光っていうのはこの“ともしび”のことですよね? ――そういえば、確かに触りました……!」


「――あなたも存在感知を持っているなら分かると思うけど、魂には核と呼ばれる部位が存在するの。その核には生物の存在情報――あなたが“ともしび”と呼んでいる原初の光が宿っている。私たちがスキルと呼んでいる特殊な力は原初の力が魂の核に干渉して宿ったものなのよ」



「そうすると、あの時取り込んだ“ともしび”の中にたまたま自動回復スキルの情報があったということですか……?」



「そういうことになるわね。――話を戻すけどスキルを後天的に変化させるには、あなたのように原初の光を取り込む方法と、魂を破壊して再構築する方法があるの。魂を壊すということは魂の核も壊れるということ――再生する時には新たに原初の光が核に宿ることになるわ。当然スキルも全く別のものが刻まれるの」


「ちょ、ちょっと待ってください! さっき聞いた時も思ったんですが、魂はそんなに何度も壊したり再生したりして大丈夫なんですか!?」



「――大丈夫なわけないじゃない。身体は魔物化させられたことで何とか耐えられるかもしれないけど、精神は人間のまま――生きた状態で魂を壊されるのは地獄の苦しみなの……死よりも過酷な責め苦を不死スキルが出るまで延々と繰り返されるのよ?」


レミアさんは蒼白な顔面のまま、弱々しく悲痛な声で言葉を絞り出す。


「今のウロボロスには自動回復(極)スキルの情報を組み込まれていて、それが出るまで自動で破壊と再生を繰り返す機能があるでしょうけど、私の時はそもそも不死スキルなんてあるかどうかも分からない中で実験が進められたの。1回1回スキルを確認しながら、何千何万回も繰り返されて……見事に私の心は壊れてしまったわ」


「誰が……誰がそんなむごい実験を――」



「あなたに言っても分からないと思うけど、実験を指示した人物の名前はジャンヌ=エンライト――アルカディア王国の女王だった人物よ」

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