第184話 暗闇の大迷宮・再び
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カルヴァドス大迷宮 ―最下層―
俺は再び舞い戻ってきた、黒一色で埋め尽くされたこの場所に。
魔法陣が発する光はほんの一瞬だけ周囲を強く照らし、“懐かしい”岩と石ころで覆われた地面を浮かび上がらせたが、すぐに視界は漆黒に飲み込まれていってしまった。
以前より深い階層に来ているせいか、ひどく淀んだ魔力と瘴気が空間を満たしている――
「まさかこんな形でまたここに来るなんてな……」
用をなさなくなった目の代わりに存在感知スキルによって洞窟の姿が脳内に映し出される中、俺は周囲を見回しながらひとり静かに呟く。
あまり感傷に浸っている時間もないため、まずは辺りの様子を窺おうと徐々に感知の範囲を広げていくと、500mほど向こうに何か得体のしれないものが存在していることに気づく。
「信征が言ってたのは“これ”のことだな……! 急がないと――!」
周囲を警戒しながら可能な限り足を早めて洞窟内を進んで行くと、強烈な青白い魔力光が漏れ出す空間の入口が視界に入ってくる――
急いで入口まで駆け寄り中の様子を確認すると、そこには足元も天井も――空間全てが魔石で覆われた不思議な空間が広がっていた。
普通ならこの光景だけでも腰を抜かすほどの驚きを覚えただろうが、それを上回るほど一際目を引いたのは、空間の中心に圧倒的な存在感と魔力を宿しながら光り輝く巨大な魔石――そしてその中で眠るひとりの女性の姿だった。
あえて眠っていると表現したのは、まるで心臓の鼓動のように脈打ちながら空間を震わせる強力な魔力波動を感じたからである。
彼女が人間かどうかはさておき、生きている事だけは確かなようだ……
一体いつから、何故ここにいるのか、どうして魔石に取り込まれるようにして眠っているのか――様々な疑問が物凄いスピードで脳内を駆け巡っていく中、女性の肩に見慣れた刻印を発見する。
「これは――間違いない、闇の刻印だ……!」
信征が俺を大迷宮に送る時に言っていた意味深なセリフはこういう事だったのか――
混乱する頭の中を必死で整理しながら、どうするべきかしばしの間逡巡する。
まだ約束の時間まで30分以上ある……魔石を割って回収するだけなら10分も掛からない……と、すればやることは決まってるな。
結論を出した俺はそっと魔石に手を触れ、鑑定を発動する――
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レミア=シンクレア
職業:魔法使い
スキル:闇の刻印、存在感知、
自動回復(極)、魔力強化(中)、
状態異常耐性(小)、隠密
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「この人も存在感知スキルを持っている……!? ということは、まさか――!」
思わず言葉に詰まってしまうが、このスキルを持っているということは闇の刻印の力を使う事ができていたのかもしれない……!
彼女の正体について少しでも迫っておく必要がある――そう直感した俺は、このレミアという女性を“ともしび”の空間へ、始まりの地へと連れていくことにしたのだった。
刻印を発動し昏い空間を猛スピードで駆け抜けていくと、目の前には“ともしび”の空間が広がっていた。
「――うそ、信じられない……!」
声のする方へ視線を向けると、そこには目をぱちくりさせながらこちらをじっと見つめるレミアさんの姿があった。
「突然すみません、大迷宮の最下層でひとり眠るあなたの正体が気になってしまって……ここでなら意思の疎通ができるんじゃないかと思ったんです」
「ずっと……何千年も……“力”を持った人が来てくれるのを待ってたの。――あなたは、ただの冒険者ってわけじゃなさそうね。こんな地下深くまで一人でやって来るなんて、何かワケありかしら?」
目を潤ませながら弱々しく微笑むレミアさんは、どこかホッとしたような――肩の荷がおりたかのような表情を覗かせながら尋ねてくる。
「――はい、現在地上では禁忌の魔道具と呼ばれる恐ろしい魔道具によって世界が破滅の危機に瀕しています……! 特に今はウロボロスという魔道具の発動を防ぐために大量の魔力が必要で……それでここにある魔力を取りに来ていたんです」
「ウロボロス――思い出したくもない名前だわ。いまだに悲劇は繰り返されているのね……」
レミアさんは両手で頭を抱えるようにしてその場にしゃがみ込み、頭に浮かぶ記憶を振り払うように2、3回首を振る。
話している言葉からレミアさんは古代文明の時代の人であり、そしてウロボロスについて何かを知っている事は確かなようだ。
「多くの罪なき者達が魔力として取り込まれ、沢山の人間が魔物に作り変えられてしまいました……! レミアさん、あなたの時代にも同じことがあったんですね……?」
「――少し違うわ。あなたが言う魔力変換や人を魔物化させる魔法術式は後から追加されたもの……ウロボロス本来の機能を補助するために組み込まれたに過ぎないわ」
「本来の……機能? ウロボロスにはまだ他に機能があるんですか!?」
思ってもみない言葉に動揺するが、俺は努めて冷静にレミアさんに聞き返す。
「ウロボロスは……元々“ある人”が不死のスキルを手に入れるために作り出された魔道具なの」
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