第182話 二段構え


「教皇の目的? どういうことだ、アレを見て何が分かったんだ?」


アイラの言葉に信征と幸司も飛び交う虫の攻撃を器用に捌きながら、こちらへ顔を向けて俺の言葉を待つ。


「教皇は、あのミイラを復活させたいんだと思う。クロノスはあのミイラを召喚するため、ウロボロスとタイタンは魔力と生命力を注ぎ込んで復活させるために使うんだとすれば筋が通る気がする……!」


「気が合うな!俺も悠賀と同じ考えだ! その考えなら悠賀がネウトラ王国の姫から聞いた予知とも矛盾しないはずだ。なぜ夕暮れまで時間が空くかは分からないが、アレに魔力を注ぐために教皇はウロボロスを発動させるつもりなんだろうな」


「おいおい!理由はともかく、あと一時間でどうやって発動を回避するんだ!? 一気に全員で囲んで集中砲火すればいけるか――?」


幸司が大げさな身振りで問いかけるが、自分でも厳しいと分かっているのだろう――言葉を放った後で2、3度首を振る。


「――アドルフがいる限りそれは無理だろうな。俺や信征ですら倒せなかったんだ、倒すより隙をみてウロボロスを奪うことに全力を尽くした方がいいかもしれない!」


「それだって相当ハードルが高いんじゃないか?アドルフの守りをかいくぐったとしても、教皇自体の実力が未知数だ……!少なくとも魔力量だけで言えばアドルフ並みにはありそうだぜ?」


一同の間に一瞬重苦しい雰囲気が流れるが、その空気を断ち切るように光の剣を振り下ろしながら信征が口を開いた。


「ここは二段構えで行こう!」


「――二段構え? アドルフを倒すのと教皇からウロボロスを奪うのを同時にやるってことか?」


「いや、それをやるのは勿論そうなんだが……最悪、別の方法で魔力を調達してウロボロスに取り込ませるのも一つの手かなと思ったんだ!」


「確かにこの場にいる全員が死ぬよりはマシだろうけど、どうやって魔力を調達するんだ?――いくら俺でも一度にそこまで魔力を引き出すのは無理だぞ!?」


信征は少しためらうように一瞬間を置くが、俺の方をチラリと見ながら思ってもみなかった言葉を発する。


「悠賀、お前にはカルヴァドス大迷宮へ行ってもらいたい……!」



「――ちょっと待ってくれ!ユウガはアレナリアのせいで大迷宮に送られて大変な目に遭ってきたんだぞ!? いくら何でもそんなこと――!」


俺はアイラが信征に食って掛かろうとするのを制止し、アイラの目を見て一度頷いてから信征の方へ振り向く。


「何かアテがあるってことか? 確かに俺には存在感知があるから暗闇も平気だし、今の実力なら龍族に出くわさない限り問題ない」


「アテならある!俺は大迷宮の最深部で途方もなく巨大な魔力の源泉を見つけたんだ。――あれを利用することができれば皆を救えるかもしれない!」


「確かに、俺が大迷宮を彷徨っていた時にも地下深くに巨大な何かがあるとは思ってたが……だけど今から迷宮に行ってたら1時間じゃとても無理だ!」


「それは問題ない、これがあるからな!」


信征はそう言って俺たちの周囲に頑丈な光の結界を張り巡らすと、こちらに近づきながら見覚えのある一本の杖を取り出した。


「もしかしてそれ――」


「ああ、コーエンが持っていた転移用の杖だ。これでお前を大迷宮の最深部へ送る……!」


さすが信征――

コーエンが今どうなっているかは置いておくとして、抜け目なく杖を回収していることに感心していると、信征は更に何かを取り出してこちらに見せる。


「そして……帰りはこれを使って戻ってくることができる。悠賀、ちょっとチクっとするぞ」


信征は取り出した指輪をはめて魔力を込め、指輪に埋め込まれた宝石部分を俺の首元に押し付ける――じわりと魔力が浸みこむような感覚と共に、言われたより大分強くチクリとした刺激が走ったため思わず一歩下がってしまう。

存在感知で首元を視てみると、首の周りに奴隷紋のようなものが浮かび上がっていた。


「お、おい! 何をしたんだ!?」


「マーキングだ。この指輪はマーキングした相手を指輪の持ち主のいる場所に強制転移させることができるんだ! 結果はどうであれ、45分したら俺がこれで悠賀を呼び戻すから注意してくれよ」


「――便利な魔道具だが、何だか奴隷紋みたいな見た目だな……」


アイラが怪訝な顔をすると、信征は視線をそらして少しバツが悪そうにつぶやく。


「ま、まあ元々は奴隷を逃がさないために作られた魔道具だが、非常時だから大目にみてほしい。後で光魔法で消すから大丈夫だ!」


その言葉に若干アイラの眉間にしわが寄るのを横目で確認するが、時間がないため促すように信征の肩をポンと叩く。


「よし、それじゃあ早速やってくれ!――絶対に死ぬなよ信征……!」


「ははっ、誰に言ってんだ? お前こそ黒龍王に気をつけろよ!」


そう言いながら杖に魔力を込めると、俺の足元に青白い魔方陣が出現する。

転移する直前、信征は小さな声でぼそりと俺にだけ聞こえるように言葉をつぶやいた。


「最深部に何があるかは悠賀……おまえ自身の目で確かめてくれ。俺にはどうすることもできなかった――」


「それはどういう――」


遮るように魔方陣が一際明るく輝き、俺は再び大迷宮へと送られるのであった。

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