第181話 神
突如出現した時空の裂け目――
そしてその背後から感じる途轍もない気配に、戦場は凍り付いたようにその漆黒の穴にくぎ付けになってしまう。
「ユ、ユウガ……あれは何だ!? 予知にあったウロボロスの発動が始まったということか?」
「――分からない。まだ夕暮れまで時間があるからウロボロスではないと信じたいが……」
「お、おい!それよりあの穴の向こうにいるのは教皇とアドルフじゃないか!? くそっ、いつの間にあんな所に……!」
「――やられた! わざわざ騎士の格好をして戦場に紛れ込んでいたのか……! あんな古典的な変装に引っかかるなんて存在感知に頼りすぎたか……!」
ギリギリまで広範囲を存在感知で探ろうとして表面的な情報しか視ることができなかったことが悔やまれるが、もう遅い。
歯噛みする俺に信征は励ますように肩をポンと叩きながら声をかけてくる。
「今さら悔やんでも仕方ないさ、今はあの時空の裂け目が何なのかを理解する方が先だ!――いや、ちょっと待て……あの暗い穴の向こうで何かがうごめいている!
――皆気をつけろ!!」
戦場の視線をくぎ付けにする暗黒の穴だったが、不意にプルンッ――と波打つように揺らめく。
その直後、突然蛇口を全開にしたかのように穴の中から大量に何かが噴き出してきた。
住居や施設――
まるでどこかの街を削り取ってきたかのような大量の遺物が戦場に降り注ぎ、森の中を埋めていく。
出てきたモノがそれだけであれば良かったのだが、明らかに生物と思しきおびただしい数の何かが遺物に混ざってまき散らされていったのだ。
まるで白亜紀やジュラ紀からタイムスリップしてきたかのような見た目をした羽のある巨大な虫が大量に地面に転がり、次々と痙攣したように動き出して方々へ飛び立っていく。
それだけでも戦慄を覚える光景だが、問題はもう一種類の生物の方だった。
――その見た目は一言で言ってしまえば“羽の生えた人型の生き物”……である。
白くて凹凸のない身体と四肢、針のように鋭く尖った指先、天使を思わせる白い翼が特徴的で、首から上は人間に近い造形をしていた。
数千に及ぶ異形の怪物は、地面に落ちてくるとウサギのように真っ赤な目を見開き、耳をつんざくような奇声を発して暴れ始める。
その内の1体が俺たちの方へものすごい速度で飛んで来たため、迎撃しようと黒龍のナイフに魔力を込めて水平に振り抜く――
が、その怪物は体を空中でくねらせながらスルリと刃を躱し、更に回転しながらすれ違いざまに鋭い爪で切りかかってきたではないか。
辛うじてその爪を躱すと、怪物はそのまま上空へと飛び上がって凄まじいスピードで去って行ってしまった。
「何なんだ、あの化け物は――!?」
「あんな生物……見たことも聞いたこともない! この世界のモノではないぞ!」
次々と流入してくる異形の生物たち――それらは連合軍の戦士だけでなく魔人たちにも見境なく襲い掛かってくるため、戦場は一瞬で収拾が付かない混沌とした状況に陥ってしまう。
[ ユウ…ん達…事かい!? …きなり…な生物が襲……きた!! こっちは…の所…丈夫…から――……―― ]
メリカさんから念話の通信が入るが、あの時空の穴が影響しているためかうまく通信ができない。
「ダメだ!よく聞こえない……! 断片的な内容だったが無事なのは確かなようだし、まずは周囲の安全を最優先に立ち回るぞ!!」
独特な羽の形状が可能にしているのか、虫たちは物理法則を無視したような変則的な動きで飛び回り、鋭い鉤爪で引っかいたり強靭なアゴでかじりついてくる。
俺たち4人はそれぞれが戦いやすい距離を保ちながら虫たちの対処をし、白い化物が来た時は連携して仕留める立ち回りでしのいでいたが、しばらくして更に事態は急変することになった。
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「さて、そろそろ“仕上げ”に入ろうか――」
異形の怪物がもたらした混沌を眺めながら、教皇は穏やかな表情でアドルフに語りかける。
「はっ!!ここの守りはお任せください、何があろうと虫一匹通しません!!」
「頼んだぞ……! これから“神”を召喚するが、恐らく神は召喚された直後動けない状態になっているであろうと私は踏んでいる。――故にまずはウロボロスを使って神に魔力を捧げねばならん」
「ですが、想定外に魔人を作ったせいでもうウロボロスには魔力のストックが――」
「ふっ、流石によく見ているな。だがここに沢山あるじゃないか――! 足りなければ“現地調達”すればよいのだよ」
「はっはっは!なるほど!私とした事が失礼いたしました! 魔人どもを含めて豊富な魔力源が揃っておりましたな……!」
「ウロボロスは先ほどの発動で休眠状態になっている。あと一時間程度して休眠が解けしだい魔力の取り込みを行う!」
教皇は話し終えるとクロノスに意識を集中して魔力を込める――すると水晶は再び赤い光を放ち始めた。
しばらくすると教皇の前方に大きな赤い魔法陣が出現し、天を突き刺すような鋭い光が視界を覆っていった。
光の向こうに現れたシルエットを見た瞬間、教皇は涙を流しながらひざまづき言葉を漏らすようにつぶやく。
「――ああ、夢のようだ……! やっとこの目でお姿を見ることが叶った――」
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「おいっ!今度は何だ? まだ何か出てくるってのか――!?」
幸司がもうたくさんだと言わんばかりに頭を抱えたその時――
内臓がズルリと下に落ちていくような、得体の知れない気配が一同を襲う。
俺は飛び交う虫を叩き切りながら出現した魔法陣から現れた存在を凝視すると、それは周囲を飛んでいる白い異形の化物とは明らかに生物としての格が違うと一瞬で理解できるような存在であった。
まるで棺に納められたミイラのように干からびたその存在は、羽を折りたたんで両腕をクロスするように組んだままピクリとも動かない――魔法陣の上に浮かんだ状態で静止しているが、決して死んでいるわけではないことは直感的に分かっていた。
「――う、動かないな」
俺の横にやって来たアイラは、不安そうな表情でつぶやく。
「ああ、だがお陰で教皇の目的が見えてきた気がする――」
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