第129話 襲撃者

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「何だ今の爆発は――」


[ 幸司!聞こえるか? 一体何が起きたんだ!? ]


強力な魔力波動が邪魔をしているらしく、念話もつながらない。


胸が痛くなる程の胸騒ぎを堪えつつ全速力で基地方面へと走っていくと、途轍もない魔力をまき散らしながら戦う竜化した真の姿が遠くに見えてくる――



本物の龍族と見紛うばかりの圧倒的な火力で次々と魔物を葬り去っていくその姿は、明らかに限界を超えて力を絞り出しているようだった。



「あれは――確か、前に白金級冒険者の竜騎士が見せた“禁術”か!?」


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『使わないよあんな技……ゲームや漫画じゃあるまいし、そんな危険なもの僕が使うわけないじゃないですか』

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呆れたように話す真の言葉が蘇ってくる――

一体何があった!? それはお前自身が一番否定していた技じゃないか……!お前が禁術を使う程の何かが起きたってことなのか?



頭の中では可能性の一つとして想像してはいた。

――が、それを心が否定する。



俺が基地に到着すると、幸司が詰所のあった場所で膝を突いて空ろな表情で呆けていた。

その傍らには、真の上着を掛けられて安らかに“眠る”竜胆が横たわっている。



「――自爆したんだ、魔族が。 隠蔽魔法で姿を隠しててさ、気づくのが遅れたんだ……感知酔いなんて言い訳にならないよな」


幸司が虚空を見つめながら力のない無機質な声でつぶやく。


「間に合ったと思ったんだ。真が竜化して竜胆を掴んでシールドの中に引き入れた……でも、遅かった。あと1秒早く気づいていたら……たった1秒でよかったのによぉ!!!」


空ろだった目に悔しさが滲み、大粒の涙を流しながら拳を何度も地面に叩きつける幸司。



「――立て、幸司。真を止めるぞ」


血が滲む幸司の拳を掴み、力づくで引っ張り上げて立ち上がらせる。


「このままじゃ真まで死ぬぞ……! 命を使い切る前に、何としても俺たちで止めるんだ。――気力が足りないなら、俺が頬に一発お見舞いしてやろうか?」



折れそうになっている幸司の心を支えようと強い視線を送ろうとしたが、視界が滲んで焦点が定まらない。

幸司がどんな顔をして俺を見つめ返しているのか分からないが、袖で顔を拭ってから短い言葉を返した。


「……いや、遠慮しておく。行こう、真の所へ」



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アレナリア王国南部 ―帝国国境付近―



「ここを越えればアレナリア王国か……」


帝国領内を一気に駆け抜けたことで体中に鈍い疲労が蓄積している――が、そんなことを言っている場合ではない。


2年ぶりに踏み入るアレナリアの地

感慨……という程のものでもないが、あの日の出来事がフラッシュバックするように頭の中を駆け巡っていく。


――途中でキールさんから聞いた情報によれば、俺が帝国に入ってしばらくしてから4国による奇襲部隊が敗北したらしい。

大迷宮の封印が解かれて自国の防衛に回すために兵を戻した所を、帝国の謎の強化兵と白龍の部隊が襲い連合軍は潰走……


わずか数日で戦況が目まぐるしく変わっていく。

そしてより多くの血が流れ、人々の命が失われていく――


この国境の手前で激しい戦闘の痕跡があった。

恐らくあれが奇襲攻撃の際に戦場になった場所なのだろうが、思い出すのも苦しいくらいの惨憺たる光景が広がっていた。


あいつらは無事だろうか――ルスキニアには勇者の安否は入っていないらしく、不安ばかりが募っていく。


キールさんは、信征は光属性の使い手なので魔族側の防衛にあたっているはずだと言っていた。

確証はないが、今はその仮説を信じて進むしかない。

日が暮れる前に東部の戦線まで行ければいいが――



しばらく進んでいくと、突然存在感知が異変を察知する。


「何だ!? 途轍もない早さで何か飛んでくるぞ!?」



すぐさまナイフを構えて戦闘態勢に入りつつ迫り来る存在を確認すると、それは白銀に輝く巨大な龍であった。


赤龍王ほどのスピードではないが、感知してから数秒でこちらまで近づき、そのままの速度で衝撃波をこちらに叩きつけるようにして地面に降り立った。


魔力のシールドでこれを防ぎつつ、“襲撃犯”の姿を改めて確認すると、それは紛れもなく白龍であった。



「あれが連合軍を壊滅させた白龍か……? 大陸の守護者がどうして帝国なんかに与しているんだ……!」


白龍はこちらの言葉に耳を傾けることなく、大きく口を開けると同時に灰色のブレスを放ち、長い尾を鋼の鞭のごとくしならせながら振り抜く――



「《万能盾マルチシールド》!!」


瞬時にシールドを展開し、ブレスの勢いを利用して後方へ吹き飛びながら迫り来る鋼の尾を躱す。


「お返しだ! 《風刃ウインド・エッジ》!」


風属性の魔力を乗せた無数の風刃を連射して白龍へ撃ち込むと、白龍は空気が振動するほどの咆哮を上げながら魔力の盾を作り出してこれを迎えうつ。


――相乗魔法で底上げされた刃は徐々にシールドにひびを刻み、ついにバキンッという音と共にシールドを破壊することに成功した。



グォォオオオオ!!!!


次々に襲いくる風の刃をその身に受けた白龍は、怒りの形相を浮かべながら翼を羽ばたかせて空へと飛び上がる。

予想外の反撃だったのだろう、反撃はなく上空でこちらの様子を窺っているようだ。



「さすがに龍族は固いな、ほとんどダメージなし……か。何とか時空間魔法を撃ち込める隙を作らないと……!」


上空を飛ばれてしまうと魔法を当てたり近接攻撃ができないため、まずは地上に落ろすことを考えなければ――

作戦を考えようとしたその時、白龍の背後に数十個の魔方陣が出現し、圧縮した光の球体が無数に出現する。


「白龍は光属性の魔法を使うのか……!」


攻撃に備えようとシールドを5重に展開した直後――

まるでもう一つの太陽が出現したかと思うほどに周囲は激しい光に包まれていき、白龍の咆哮と共に光球が地表に降り注いだ。


半径50mほどが強烈な光に照らされ瞬く間に超高温になり、小さな石ころ程度の物質はみるみる“蒸発”するように消滅していく――

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