第127話 それぞれの思惑
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アレナリア王国 王都フロレア
―アレナリア城―
「ルベルか……その様子は、良い知らせではないようだな」
「報告いたします!――帝国より新たな援軍が投入されたことにより、4国による奇襲部隊の包囲網は破れ、北も南も潰走した模様です!」
それを聞いた国王は目を大きく見開いた後、両手で顔を覆いながら低く呻き声を漏らし、力なくつぶやく。
「馬鹿な……南側の戦線はともかく、北部の勇者たちをもってしても勝てなかったのか。3人の安否はどうなっておる」
「3名とも生存しております。――が、リンドウ殿が白龍の攻撃によって重傷を負ったため、コウジ殿の転移魔法で帰還した模様です。ノブユキ殿の再生魔法による治療を受けるため、現在東部の戦線へ移動中とのこと!」
「王であるこの私の命令を待たずに撤退したということか!? 報告もせず勝手に東部へ行くなど言語道断だ!! すぐに連れ戻すのだ!」
「お待ちください!ここは一旦リンドウ殿の治療を優先させるのが得策と考えます!」
「何だと? 今まで勇者にある程度の自由を与えていたのは、有事の際に戦ってもらうためだ! この期に及んで勝手な行動を許せと申すか!」
「――畏れ多くも申し上げます。どうやら帝国はこのまま北上して王都へ向かう動きを見せているようなのです! ここで勇者たちの心証を損ねれば、勇者たちがアレナリアを出奔する可能性もあります。そうなれば王都は白龍と帝国軍に蹂躙されるでしょう……! どうかここはお鎮め下さい」
「――ぐぬう……確かに虎の尾を踏んだのは私だ。エール王国につづき、この国まで陥落させるわけにはいかぬ……よかろう、今回だけは見逃そう。だが、リンドウの治療が済み次第ただちに防衛に向かってもらうぞ! よくよく3人に伝えておけい!」
「――かしこまりました。寛大なご処置痛み入ります……! それでは私はこれで失礼いたします」
「いや、待て……私からも一つお前に伝えておくことがある」
「伝えておくこと、ですか……?」
「ロクステラの国王から報告があった。どうやら、大迷宮の封印を解いたのは帝国ではなく神都の仕業だと……」
「バカな! 神都が帝国と繋がっていたというのですか!?」
「――真偽は分からぬ。ただ、テラロスによれば“第五”と呼ばれる教皇直属の秘密部隊が暗躍している可能性が高いとのことだ」
「神都まで敵だとすれば、もはや我々は……」
「みなまで言うな!――お前は勇者たちの造反を防ぐことに注力せよ。この国の命運はあの4人の双肩にかかっておるのだ」
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アレナリア王国 ―東部戦線―
「忌々しい勇者め! これでも食らえ《
魔族の戦士が渾身の魔力を込めて発動した闇魔法は、金属のような光沢を放つ漆黒の“イバラ”を出現させる。
鞭のようにしなりながら迫り来る数百本のイバラを光の剣で薙ぎ払いながら、こちらも魔法を放つ――
「《
剣を覆う光属性の魔力を混ぜて発動した爆炎魔法は、視界を覆う程に増殖した黒いイバラを一瞬で飲み込んでいき、天に向かって湧き上がった白い爆炎によって魔族もろとも消滅させてしまった。
「はあっ、はあっ――さすがに魔力が厳しくなってきたな……だが、竜胆の治療時間を確保するには俺が少しでも魔族を押し返さないと……!」
恐らくあいつらがここに到着する頃には夜になっているだろう――
夜は特に魔物の動きが活発になる……今の内に少しでも数を減らしておかねばならない。
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すっかり日が暮れ、周囲に跋扈する魔物達をあらかた片付けた頃、幸司から念話が入る。
[ 連絡が遅くなってすまん、そろそろ基地に到着する! ]
[ 了解!こっちもやっと動けるようになった所だ、俺も今からそっちへ向かう ]
基地――といっても、イベントなどで使うようなテントが荒野の中に設けられただけの簡易的なものだが、狭い空間の中は傷ついた兵士や夜間の休息を取るためにやって来た多くの兵で溢れかえっていた。
リンドウはその場所から少し離れた騎士たちの詰所の一角でぐったりと横たわっており、幸司と真が心配そうに傍らに付き添っていた。
「信征さん! 来てくれてありがとう……早く竜胆を……お願いします……!」
「ああ、任せておけ!」
早速再生魔法で治療を開始するが、思っていたより治りが遅いことに気付く。
「いつもより魔法の利きが悪い……竜胆は白龍のブレスにやられたと言っていたな……? 竜胆に纏わりつく龍の魔力が俺の魔法を阻害しているような感じだ」
「――でも、どんどん火傷は治っていってる!さすが信征さんだ!」
「いや、表面の火傷はまだいいんだ。問題は内部の火傷の方だ……これは少し時間が掛かりそうだな。――幸司、真、すまないが俺の代わりに前線の警備を頼まれてくれないか?」
「分かりました、ここには魔物一匹だって通さない……!」
「俺も了解した。魔物はともかく、魔族が来るとマズいから真とペアで警備にあたらせてもらうぜ」
そう言って二人はテントを後にしようと立ち上がる。
「――待って」
か細い声で二人を呼び止めたのは竜胆だった。
「目が覚めたのか。今は治療中だから、終わるまでは無理に話さない方がいい」
「すみません信征さん、でも……今話しておきたいんです。こうして死を間近に感じてみて気づきました……ちゃんと伝えさせてください」
竜胆の雰囲気に何かを感じ取った二人は、再び腰を下ろして竜胆の言葉を待つ。
「私、みんなに黙っていた事があるんです。――悠賀さんの、ことで……」
「悠賀の……? 一体何を黙っていたんだ?」
「私は……信征さんもご存じの通り、四王会議の後にダルクの街で悠賀さんの手掛かりを探していました。王やみんなには手掛かりはなかったと報告していたけど、本当は――悠賀さんに会って話をしていたんです」
「は!? おいおい、マジかよ! 本当にあいつは生きてたのか!?」
「――あの時、あいつはダルクにいたのか……!? だとしたら、それなら……何で一言声を掛けてくれなかったんだ?」
困惑する俺たちの表情を見た竜胆は、すぐに言葉を続ける。
「――悠賀さんから、会った事を黙っておいて欲しいと言われたんです。悠賀さんと私たちとは立場の違いもあって、少し認識に相違がありました……だから実際に会って、自分で話をしたいと……」
「その認識の違いというのは何の事なんだ……?」
「勇者召喚に対する認識です。私たちはアレナリアで……この国の人々と関わり合いながら暮らしてきました。最初は、私たちは“被害者”だという思いが強かったけれど、今はそうではありません。――でも、別の環境を生きてきた悠賀さんはそうは思っていないんです」
「――復讐、か……? あいつが大迷宮に送られる時の言葉は今でも覚えてる」
「それは違います信征さん。今はもう復讐するつもりはないと言っていました。ただ、勇者召喚の仕組みを破壊するつもりだと……」
「何だって!? そんな事したらアレナリアは魔族に滅ぼされちまうぞ? アレナリアだけじゃない、この大陸中の人間の命が脅かされることになるぜ!」
「悠賀さんは……破壊するのは魔族との戦争を終結させてからと言っていました。それがどれだけ難しいか……悠賀さんが理解されているか分かりませんが――」
「あいつらと和解はあり得ないよ。それこそ一人残らず魔族を滅ぼさない限り戦争の終結はないんじゃない?」
「――あいつはいずれ俺たちの所へ来ると言っていたんだろう? なら、俺はそれを待つさ。一言謝りたいし、積もる話もある……あいつの視点から見たこの世界の話を聞いてみたい」
「信征の言う通りだな。だが、会うにしても国王達には黙っておかないとなあ……闇の刻印を持った悠賀が生きていると知ったら発狂しかねないぜ」
「そうだな、まあその辺はうまくやろう」
「じゃあ俺たちは警備に行ってくる。話してくれてありがとうな、竜胆」
竜胆は小さく頷き、話したことで安心したのかそのまま眠りこんでしまった。
治療を続けていると、先ほどより明らかに魔法の“通り”がよくなったのを感じる。
「ふふ、魔法は精神状態を反映するっていうのは本当だな――“てきめん”じゃないか・・・・・・!」
あいつが生きている――
いつか再会した時に胸を張っていられるよう、もっと頑張らないとな。
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