第126話 帝国の逆襲

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「幸司さん!こっちに《魔力付与マジックブースト》お願いします!」


「あいよ!任せろ!」


「竜胆!9時の方向に魔法!!!」



「――もうっ、次から次へと……!《炎旋風ファイアストーム》!!!」


「よし!竜胆は一旦下がって魔力補充だ! 真はブレスで敵を寄せ付けないよう動いてくれ!」


「了解!《竜化ドラゴン・モーフィング》!」


真が竜化魔法を唱えると、瞬く間にその身体が鱗に覆われながら巨大化していく。

そこには一瞬龍族と見間違えてしまう程の圧力を放つ大型の竜が帝国兵を睨みつけるように立っていた。


一瞬たじろいだ帝国兵達だったが、上官の号令が響きわたると同時に一斉に向かっていく――


真は大きく息を吸い込み、強力な魔力を込めたブレスを放つ。



「ぐわぁぁああああ!!!」


猛烈な威力を持ったブレスは近づく帝国兵を次々に巻き込んで吹き飛ばしていった。

これには敵の指揮官も一旦兵を下げざるを得ず、数十メートルの距離を挟んで睨み合いの形となる。



「よし、いいぞ真! これで少しは時間が稼げ――」


「幸司さん! 帝国側の様子が変です、何か来ます……!」


竜胆が指さした方向から沢山の黒い影がものすごい勢いで近づいて来る――

目を凝らして様子を探ると、黒を基調とした防具に身を包んだ帝国の兵士であることが分かった。


「――ちっ、こっちは兵が撤収したってのに、向こうは増援か……!」


「数は数千のようですが、雰囲気が今までの相手とは違います……」


[ 僕のブレスの射程に入ったら即攻撃するよ!あいつらから嫌な気配がする……! ]



あっという間にこちらから100m程の距離まで近づいてきた黒の軍勢は、突然3方向に分かれて進軍を始める。


「左右に展開するレウス王国とアレナリアの騎士団を同時に叩く気か!――竜胆、燃費のいい初級魔法を左右の黒づくめ共に撃ちまくってくれ!」


「分かりました!《火球ファイアボール》!!」


左右それぞれで起動した魔法陣からマシンガンのごとく火の玉が撃ち出され、黒の軍勢に襲い掛かる。

――が、その魔法は一切命中することなく、ことごとく地面に着弾していった。


「マジかよ!? あいつら全部避けやがった!!」


[ 幸司さん、魔眼だ!! 奴ら全員魔眼を持ってる! ]


「――んな馬鹿な! だが、確かにあの赤い眼は魔眼の色だ……!」



[ くそっ!こいつら動体視力が異常だ! すばしっこい相手にこの姿は厳しいな……! 幸司さん、このまま“的”になるのはごめんだから一旦竜化を解きます! ]


「いや、まだ竜化を解くな!そのままこっちに戻れ! 俺が範囲魔法で相手を拘束するから、竜胆とお前のブレスで一気に仕留めるんだ!!」



真が戻ったと同時に、幸司の周囲をすさまじい魔力が渦を巻いて収束していく――


「こいつはアホみたいに魔力を使うからやりたくなかったが仕方ない……時空間魔法《六方震天コラプション・シェイク》」


前方の地面にハチの巣のような六角形の模様が次々と浮かび上がっていき、半径100m程の半円形を形作っていく。

それから数瞬の間を置き、半円の内側の空間に衝撃が走った。


空間ごと強烈に振動したことで、内部にいた帝国兵たちは全員身動きできずにその場に拘束されることとなった。



「魔眼で動体視力が向上してるみたいだが、見えててもこれなら避けられないだろ?――さあ、やれ二人とも!!」


二人の一斉砲火を浴びた黒の軍勢はなす術もなく消し飛び、その様子を確認した幸司はガクリと膝を突いた。


「さすがにもうスッカラカンだわ……!ちょっとポーションタイムだ」


「さすが幸司さんです……回復するまで私と真でくい止めます!」


「悪いな、だがゆっくりもしてられんなあ。あの魔眼持ちの黒づくめ共、相当な手練れだぞ……左右の部隊がどんどんやられていってる」


ここが潮時か――

そんな思いが頭によぎった瞬間、更に事態を混迷に叩き落とす不吉な気配が猛スピードで近づいてきた。



「おいおい、冗談じゃないぞ! 何であんなもんまで……!」


遥か上空から斜めに滑空するように戦場へ降り立ったのは、白銀に輝く3体の巨大な龍――その姿は紛れもなく白龍族のものであった。


着地とほぼ同時に、大きく開いたその口から“本物”のブレスが放たれ、広範囲が爆発したように吹き飛んでいく。



「ああ、これはしくじったな。すまん、信征……悠賀」


幸司が膝を突いて立っていた場所は瞬く間に爆風と粉塵で見えなくなり、あちこちからアレナリアとレウスの騎士団の叫び声がこだまする。



「――な、何だ? 俺は生きてる……のか?」


目を開けた幸司の目に飛び込んできたのは、全身に火傷を負ってフラフラとこちらに近づいて来る竜胆の姿だった。

慌てて竜胆の体を支え、すぐに回復魔法を掛ける幸司。


「良かった……幸司さん」


「竜胆、お前が俺を助けてくれたのか……?」


「ええ……だって、幸司さんがいなかったらこの戦争に負けてしまいます。一応、自分の周りにもシールドを張ったのに……強すぎですよ、あのブレス」


「ばかやろう、自分の命が優先に決まってるだろう……! 俺の判断が遅かったせいで――」



「竜 胆!!!!――ああ、何でこんなことに……!」


「ごめんね、真……やられちゃった」


「撤退しよう……! もう四の五の言ってられない。今すぐ転移でアレナリアへ戻って、信征さんに治療してもらわないと! このままじゃ……」


竜化を解除した真の顔は蒼白になっており、いつもの真からは想像も付かないほど声が弱々しく震えていた。


周囲を見渡すと、魔眼の黒づくめに加えて白龍たちが味方を次々と駆逐していく様子が目に入ってくる。

圧倒的な力によって一瞬で瓦解していく奇襲部隊――どうあがいてもここから逆転はできないだろう……



[ 信征! こっちは魔眼持ちの大軍と白龍の出現で戦線が崩壊した……!竜胆も大やけどを負ってすぐにお前の治療が必要だ! これで撤退してお前の所に行かせてもらうぞ ]


[ 魔眼持ちの大軍に白龍だって!? 帝国の戦力はこっちの予想を遥かに上回っていたってことか……!正直こっちの戦況もかなり厳しいが……戦場の手前にある前線基地で合流だ! ]



念話と同時に転移魔法の魔道具を起動し、舞い上がる土埃に紛れて戦場から撤退する3人。

――転移によって王都の騎士団本部に移動した俺たちを見た守備兵は、驚いて勇者たちの元に駆け寄って来た。



「勇者様!なぜこちらにいらっしゃるのですか!? 南部の戦場にいらしたのでは……?」


「見て分からないか……!竜胆が重傷を負ったから撤退してきたんだ。すぐに東部へ出発する!」


「お、お待ちください! 王の許可なく戦場を離れることは許されません!リンドウ様の治療は城の術士に任せてお二人は戦場へ――」



そんな言葉に耳を傾けることなく背中で受け止めながら、真と共に東へ出発するのであった。



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