第118話 届かぬ想い

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父上、わたくしは務めを果たすことができませんでした


初代国王から1000年の間、連綿と受け継がれてきたこの素晴らしい国が……私の代で、私のせいで……



顔を覆うものがなくなって目に飛び込んでくるのは、破壊され、燃やされてしまったダルクの街並み――


私の不甲斐なさ故に命を奪われてしまった国民達

国のために戦って下さった皆様


最期まで傍にいてくれたクラウス


この命だけで償いきれるものではありませんが、もはや差し出せるものはこの身しかありません……最後まで女王らしく……



――ああ、でも

最後に一目でいいから会いたかった……


世界に色を与えて下さったあの方

名前を叫んだら駆けつけて下さるでしょうか……


いいえ、あの方が戦火に巻き込まれていないことを祈るだけです


願わくば――


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振り下ろされた刃は女王の首と胴の間を“するり”と通り抜け、一瞬遅れてぐらりと頭が傾くと同時に体は膝から崩れ落ちていった。


ドクンッ――!


ざわざわと、胸のあたりから首筋、そして頭のてっぺんまで熱い血液が込み上げてくる感覚――

女王から吹き上がる血しぶきに呼応するかのように、爆発的な怒りがほとばしっていく。


「駄目だユウガ! そんな魔力を発したら帝国に気付かれてしまう!」


「――もう、無理だよアイラ……こんなのは耐えられない。いや、耐えたくない。いっそのこと、魔力災害でも起こして――」


バチンッ!!


頬に衝撃が走り驚いてアイラの方を見ると、同時に胸倉を掴まれてグイっとアイラの顔が近づいてくる。


「――バカなことを言うな……こんな帝国の末端の兵どもに命をくれてやる必要はないぞ! しっかりと準備を整えて、必ずこの報いを受けさせるんだ……!」



目を潤ませながら必死に訴えるアイラ――その瞳は力強い光を放っていた。


不思議なことにその言葉は、折れそうになった俺の心をグッと支えてくれたような気がした……再び前へ一歩を踏み出せと発破をかけてくるような言葉だった。



「ごめんな、行こう――」


一言だけつぶやいて急いで外に出ると、数人の帝国兵が剣を構えてこちらに向かってきた。

すぐさまそれを黒龍のナイフで受け、相手の刀身を両断した隙を突いて殺さない程度の魔力をぶつけて吹き飛ばす。


存在感知は城の方からやって来る多数の帝国兵を捉えており、同時に魔法の弾幕が降り注いでくる――


「魔法は任せろ!」


そう言うや否やアイラは魔力弓を構え、一瞬で数十の矢を放つ。

それらの矢は飛んでくる魔法に正確に命中し次々と相殺していくが、一部の魔法は後ろの時計塔に着弾し、ガラガラと瓦礫が崩れる音と共に上から文字盤が落下してきた。


これを前方へ転がる様にして直撃を避け、体勢を整えてから溢れる感情を引き金にして刻印から巨大な魔力を引き出す。



「待てユウガ!そんな魔力を引き出してどうするつもりだ!?」


「大丈夫、殺したりしない……ちょっと吹き飛んでもらうだけだ!」


そう言って展開した魔法陣に魔力を込め、魔法を発射する――

それは走って来る先頭の帝国兵に着弾し、目を開けていられないくらいの閃光を放ちながら破裂した。


「なっ……あれは火花魔法か!?」


魔法補助(極)スキルによって得た連射能力を使い、次々と火花魔法を放っていく。


魔法を撃つ度に……刻印からともしびを引き出す度に……次第に感情が抑えきれなくなり、視界が滲み、気が付くと俺は声の限り叫んでいた。



極大の魔力を込めた火花魔法は直撃によるダメージはないものの、破裂時の風圧によって帝国兵を数十人単位で吹き飛ばしていった。


「さあ……メリカさんたちの所へ戻ろう……」


この魔法は――

世話になったダルクとそこに生きた人々への感謝、そして鎮魂の感情を込めた花火だ。

顔を袖で拭い、万感の思いを込めて最後の一発を師団長の方向へ放ち、その場を後にする二人。



「師団長殿! お逃げ下さい!」

「――不要だ。これしきの魔法でやられる私ではないわ!!」


師団長は女王の首を撥ねたその剣に魔力を込め、猛烈なスピードで突き進む火花魔法を一閃――上空へ弾いてしまう。


軌道を逸らされた火花魔法はそのまま空中で破裂し、白昼のルーテウス城の上空に巨大な黄金の“しだれ柳”が降り注いだ。



「何だこれは、火花魔法か……? あれだけの魔力を込めておいて何故火花魔法など――」


驚愕の表情を浮かべる師団長だったが、すぐに肩を揺らしながら笑い声を漏らす。


「クックック、どういうつもりか知らんが、中々“粋な”ことをしてくれたではないか!

――諸君、我々の勝利を祝う大輪が打ちあがったぞ! このまま郊外の連合軍を挟撃する、全軍進めええい!!!」

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