第114話 反撃

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「――魔導士部隊! 目標は前方の土壁だ、放てええい!!!」


帝国軍司令官の号令と同時に一斉に魔法が放たれる。


闇夜を照らす激しい閃光に続き、轟音と共に湧き上がる粉塵――

視界はしばしの間遮られ、ダルクの正門周辺には着弾した魔法の残響がこだまする。


徐々に視界が開けてくると、目の前にはあちこちが大きく削れ無数の穴が刻まれた壁の姿が見えてきた。


「忌々しい……!これだけの集中砲火でも完全に壊せないだと!? 仕方ない、もう一度だ!魔導士部隊は攻撃の準備に入――」


その言葉をかき消すように、壁の向こうから地響きのようなときの声が轟く。同時に土の壁が爆発したかのように勢いよく吹き飛び、土の弾丸となって帝国軍に降り注いだ。



「さあ!戦の始まりだ!!! レウス王国の魔導部隊が作った隙を突いて一気に攻めるぞ! 魔族との戦いで鍛え上げたアレナリア王国騎士団の力を見せてやれ!! 突撃せよ!!」


「正面の帝国兵どもはアレナリア王国に任せる! 我々レウス王国は左右の軍勢に魔法で攻撃だ! 土の弾はいくらでもある、ありったけ撃ち込めええい!!」



破壊された壁の向こうから突撃してくる大軍に、前線の兵士達はなす術もなく散り散りになっていく。その様子を見た帝国の司令官は唇を噛んで憎悪の表情を浮かべて呟いた。


「兵には連合軍が来る可能性を伝えてあったのに“このザマ”か……! 皇軍の主力は城攻めに行っているとはいえ、これでは余りに情けない」


「いいえ副師団長殿、瓦解したのは最前線にいる“無能ども”でございます。やつらは初撃の弾丸を体で受け止める肉の壁として十分役目を果たしました……見たところ連合軍は次々にあの魔法陣から転移してきているようですが、その数はまだ5~6000といった所でしょう。今なら我々に圧倒的な分がありますぞ!」


「うむ、すでに陸路で向かっているであろうロクステラ王国が到着するまでに一気にカタを付けてやろう……! 敵の増援は我ら第六師団で引き受け、城の方へ行かせるな!」


「はっ!承知しました! 城攻め部隊および第五師団にもその旨共有して参ります」



「……それにしても、一体誰がどうやってあの魔法陣を起動したのだ? 起動した後の動きも不可解だ……様子を目撃した兵によれば一人の男が塔から飛び降りてあの壁を作ったと言っていたが、龍族の化身でもなければそんなことをできるはずがない。――龍族の介入は“前例”がないわけではないが……念のため白龍部隊の派遣を打診しておくか……?」


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塔から再び地下水道に入った俺とアイラは、数時間歩いて合流場所の下水処理場に到着する。


「――ユウガ!アイラ!」


「お待たせイーリス! 遅くなってごめんよ」


「二人とも無事で何よりだよ! 魔法陣の起動はできたのかい?」


「はい! 同盟国の先遣隊が転移してきたのを確認してから離脱したので、作戦は成功だったと思います」


「ユウガはこれ以上ない位に仕事をした。あとは各国がどれくらい援軍を出したかで今後の運命が決まるな……」


「それは先日の四王会議でどういう話がされていたかによるのう……まさかエール王国が攻められるとは王達も想定外だろうが」


「帝国は……結界が破れることを知っていたのでしょうか、それとも結界を破る術を発見したのでしょうか……?」


「――それは帝国に聞かなきゃ分からないよ。でもアタシは後者だと思うけどねえ……どんな優れた魔法でも、所詮は人が生み出した代物だ。長い時間を掛けて結界魔法の弱点を発見したのかもしれない」


「もしダルクが陥落したらどうなるんだろうな。帝国の属国として飲み込まれるんだろうか……」


アイラは眉間に小さくしわを寄せ、悔しさを滲ませながらつぶやく。


「帝国にとってみればエール王国を生かす理由はないのう。建国の経緯も、国を支える思想も……帝国の思想とは全く“そり”が合わん。今回の市街地への攻撃を見ても、滅ぼそうとしているように思えてならん」



「俺は……俺は――」


言葉が出なかった。

悔しさと無力感、もっと他にやり方があったのではないかという後悔――

滲み出るぐちゃぐちゃの感情が抑えきれず、拳に血が巡らなくなる位強く握りしめることしかできなかった。


「ユウガ――少し休もう。今日はもう夜遅い……まずはこの5人の安全が最優先だ。そうだろう?」


「あ、ああ……もちろんだ。軽く食事をとって休もうか」



5人で食事をとっていると、念話でキールさんから連絡が入る。


[ 遅い時間にすまない、私とルイーナでガイエルの所へ行って情報収集した結果を共有させてくれ……! ]


[ 助かります! ガイエル卿は何と言っていたんですか? ]


[ 結論から言うと、現時点で攻撃を受けているのはエール王国だけのようだ。帝国の北部、アレナリアの国境付近は相変わらずの状態らしいが、戦闘は行われていない ]


[ 私たちはまんまと帝国に裏をかかれたということか……南へ進軍したということは帝国はロクステラ王国を狙っているということなんだろうか ]


[ そう判断するのはまだ早いわ! 何か……何か大事なことを見落としている気がするの!多分帝国の行動にはその何かが絡んでいるはず……!さっきキールに話したら冷たくあしらわれたけど ]


[ 冷たくあしらったつもりはないが、この通り何の根拠もない話ではあるけれど、ルイーナの勘はよく当たるから無視するのもどうかと思ってね……一応、頭の片隅にでも入れておいてもらえればと思うよ ]


[ だってぇ……一見腑に落ちない動きだけど、帝国は全く迷いなく動いているように見えるわ。一つ一つの行動が帝国の真の目的を指し示していると思うの!今は相手の狙いを決めつけずに、柔軟に対応していきましょって事よ! ]


[ 俺もルイーナさんの言うことは一理あると思います。帝国は奇襲という形で一気にダルクの制圧を図っている……次の一手を打たせないためにもダルクを落とさせるわけにはいかない! ]


[ ユウちゃん、気持ちは分かるけど、アンタを殺人兵器にさせるわけにはいかないよ! ダルクに戻るのはナシだと先にくぎを刺しておくからね! ]


[ 俺だってそんな兵器になるつもりはないんです……! ――ただ、ルイーナさん一つ教えてください、結界魔法をもう一度発動させることは可能ですか? ]

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