第110話 運命の分かれ道
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8月16日
今日は修行の合間にルシルバ師匠と一緒に市場でお買い物です。
毎日いっぱい魔法の修行をしているので、だんだん上手に魔法を使えるようになってきました。
早くユウガとアイラに見せたいけど、ふたりは今ルスキニア公国という所に行っているので我慢しています。
次に帰ってくるまでに、もっともっと強くなって驚かせてあげるのです!
ギ…ギギギ……
なんだろう、さっきから変な音がする……
「師匠!これは何の音ですか?」
「うん?ワシも年かのう……人がガヤガヤ言っとる声以外、何も聞こえんぞ?」
「何かがギシギシって……たまにビシッっていうガラスにヒビが入るような音が聞こえてきます!」
「――イーリスは耳がいいのう!どこから聞こえるか分かるかな?」
「えっと……上の方です!」
「上だって!? まさか、そんなバカな――」
師匠は上を見上げたまま、何かつぶやいています。
――どうしたのかな?
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「ふう――そろそろ休憩しようか二人とも」
キールさんはタオルで汗を拭いながら俺とアイラに声を掛ける。
「だいぶ土が整ってきましたね!緋陽土を混ぜたおかげで畑の印象もかなり変わってきましたよ。なあアイラ」
「確かに。それにしても、よくこれだけの土を浄化したものだ……」
「赤龍王の血で魔力量が増えたとはいえ、2か月以上かけて寝る間も惜しんで浄化したんだ。さすがに畑に撒いて混ぜ込む作業は一人だと厳しかったから、手伝ってもらって助かるよ!――冒険者の二人にこんな依頼を受けてもらって申し訳ないとは思うがね……」
「気にしないで下さい。普段使わない筋肉を使ったりするので良いトレーニングになってますよ!」
「フカフカした土の上は意外とバランスを取りづらい……確かにいい訓練になっているな」
畑の脇にある小高い丘へ歩き、木陰に腰を下ろす三人。
収納バッグからキンキンに冷えたお茶を取り出して一口、また一口と飲む。
――夏の日差しが照りつける中で畑仕事をしたため、しみ込むように体の底へ入っていく気がする。
サワサワと音を立てて木陰を吹き抜けるそよ風――
芝生のように生えた丘の草花をさざ波を立てながら進み、汗ばんだ首元を撫でる。
火照った体の表面から熱を逃がしていく感覚が何とも心地よい。
そのまま草むらに寝転び、土まみれになった手を眺めながらゆっくりと目を閉じる。
龍饗祭以来、軽めの依頼をこなしながら並行して修行を続けてきたが、まだまだ納得のいく仕上がりにはなっていない。
黒龍のナイフ、相乗魔法と立て続けに大きな力を得たが、使いこなせなくては意味がない――
そんな思考が頭をよぎる日々だったが、今回の依頼はいい気分転換になったな……
次第に肩の力が抜け、ウトウトとまどろみかけたその時――
[ みんな聞こえるかい?こちらはメリカ、緊急事態だ!――ダルクが攻撃を受けている! ]
メリカさんから予想だにしていない念話が入り、一瞬にして3人の間に緊張が走る――
[ 攻撃!?一体どこから攻撃を受けているんですか! ]
[ 断定はできないが、兵士たちの恰好を見る限り恐らく帝国だ! すでに結界は壊されて街に兵が入ってきておる……! ]
[ 馬鹿な……結界が壊れただって!? 1000年間どんな攻撃にも耐えた結界が破られるなどあり得ない……! ]
[ アタシだってこの目で見るまで信じられなかったさ!だがこれは現実だよ! 今はイーリスを含めてアタシの地下空間に隠れているけど、いつまでそうしていられるか…… ]
何でエール王国が――
どう考えてもアレナリアを攻める状況だったはずなのに、一体何が起きているんだ?
アレナリアと同時侵攻の可能性もあるが……いずれにせよ帝国に裏をかかれたということか――
[ ルイーナさん!これからすぐにナイトガルの店に行くので転移の準備をお願いします! ]
[ ――もう準備してるわ! でもブランカ村からじゃダルクまで2日近く掛かっちゃう…… ]
[ それでも……一秒でも早くダルクへ行きます! メリカさん!状況に変化があったら随時連絡をお願いします! ]
[ 任せときな!――でもいいかい、今回の目的はあくまで“撤退”だ! 決してダルクを救うだとか大それたことを考えるんじゃないよ! ]
[ ――分かりました、3人の命が最優先です。イーリスの事をよろしくお願いします ]
念話を終え、俺とアイラはすぐに出発の準備を整える。
「二人とも武運を祈っているよ……! 私はガイエルにこの事を伝えて、何かできることがあるか当たってみる」
「助かります……!――アレナリア側がどうなっているかも気になります。帝国の動きが分かったら連絡を下さい」
「分かった、情報が入り次第共有させてもらうよ!」
「ではこれで出発します!――行こう、アイラ」
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ルイーナさんの店から転移でブランカ村へ移り、夜通し走り続けること丸一日――
龍饗祭でナイトガルへ急いで向かったあの時より更に早いペースでほぼ休みなく移動していたため、アイラの体力は限界に来ていた。
「アイラ、一旦休もう! このままじゃ着いた途端倒れるぞ!」
「はぁっ、はぁっ!――いいや、もうすでに1日経っているんだ!モタモタしていたら……その分だけ3人が危険に晒されてしまう……!」
悲壮な表情を浮かべながら走ることをやめないアイラ。
俺たちは到着してからイーリスや師匠たちの退路を確保する仕事がある……
ここで体力を使いすぎればアイラの命にも関わってくるかもしれない。
――だとすれば取るべき方法は一つだ……!
俺は横を走るアイラを抱え上げ、お姫様抱っこのような形で走ることにした。
「ユ、ユウガ! いきなりどうしたんだ!?」
「休憩しないなら、こうでもしないとアイラの体力が回復できないだろ? そんな状態じゃ、向こうに着いた途端に帝国兵の餌食だぞ!」
「ずっと走っていたのはユウガだって同じじゃないか……! 私を抱えて走るなんて無茶だ!」
「ははっ!俺はアイラより無理がきく体なんだ!あと1時間くらい何てことないさ!」
「本当にすまない……ありがとう、ユウガ」
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