第105話 魔法の極致②
「世界を歪めるだって!? 見た目では分からなかったが、そんなに途轍もないスキルなのか……?」
「たった一度しか魔法を撃っていないが、直感的に感じた。このスキルは――というよりこのスキルと闇の刻印を合わせると、恐らく“とんでもないこと”になる」
バクバクと鳴る心臓と浅くなった呼吸を整えるように、一度大きく深呼吸をして話を続ける。
「さっきの一連の流れで感じたのは、魔力を“完全に”制御しているという感覚だった。魔力錬成の速度が飛躍的に上がっただけじゃない……恐らく、練った魔力を“そのまま全て”魔法に変換できるようになっていると思う」
「そのまま全て……? まったく魔力を減衰させずに魔法を撃てるということか!?」
「多分そうだと思う――さっきのは得意属性で元々魔力の摩耗が少なかったから、今度は苦手属性で試してみよう」
先程と同じ量の魔力を込めて水属性魔法の《
――いつもなら5割近くのロスが発生していたはずだが、今放った魔法は全く威力が落ちることなく対象に撃ち込まれた。
「《
「《
左右の手でそれぞれ魔法を起動し、連続で魔法を発動し続ける――
土の壁が形成される端から風の刃がそれを切り刻み、切り刻む端から土の壁が隆起していく。
20秒ほどそんな状態を続けた所で、一旦発動をやめて一呼吸を置いた。
「ユ、ユウガ……今のは何だ……? そんなことが可能なのか……?」
アイラは腰を抜かさんばかりにフラフラと後ずさり、驚愕の表情を浮かべている。
優秀な魔法の使い手であるアイラは、恐らく今の行為の“異常性”を理解しているようだ。
「今のではっきりしたな……このスキルは例え不得意属性でも魔力の摩耗が“ゼロ”になるらしい」
「た、確かに水魔法はその理屈で通るが、その次にやったことの説明にならないぞ!? なぜ魔法陣が壊れず連続で魔法を発動できるんだ!?」
――通常、魔法陣は一度魔力を流すと魔法陣自体が“摩耗”する。
魔法陣というのは魂で記憶した術式を魔力で具現化したものであるため、そこに魔力を通せば削れていくのは当然の話だ。
それ故に再度魔法を発動する際は魔力を使って魔法陣を構築し直す必要があるのだ。
しかし、今俺がやったのは魔法陣の“再使用”であり、それはこの世界ではあり得ないことであった。
「魔力の摩耗がないということは、魔法陣に魔力を通した時に発生する摩耗もゼロ……つまり魔法陣を削ることなく魔力を通せるということだと思う」
「信じられないが、多分ユウガの言う通りの理屈なんだろうな……久しぶりにユウガの力に鳥肌が立ってしまった」
「――ならこれを聞いたら腰を抜かすかもしれないな。さっき闇の刻印と合わせると、とんでもない事になると言っただろ?」
アイラは少し考え込むように間をおき、やがて何かに気づいたように目を大きく見開いた。
「そうだ、俺は刻印を通じて魔力を補充することができる。文字通り無尽蔵に魔力を込めて魔法を撃ち続けられるかもしれない……!」
スキルの元々の持ち主である竜胆は、恐らく短期集中型だ。
詰まるところ、魔力が続く限り魔法を連射して敵を殲滅するスタイルだろう……
もちろんそれはそれで圧倒的な超火力を発揮する“兵器”として機能するだろうが、いかに勇者の一人といえど、人間一人が持っている魔力は有限だ。
どれほど魔力を持っていたとしても、程なくして魔力は尽きるはずだ。
「もし――無制限に魔法を連射できるなら、ユウガ一人で戦争の局面をひっくり返すことができるレベルだぞ……?」
「この力にデメリットや制約事項がなければ、だけどな……この際だ、とことん試してみよう」
すぐに魔力を練り上げ、時空間魔法の発動準備に入る。
「《
スキルのお陰で一瞬で大量の魔力を練ることができ、魔法陣の展開も各段に早くなったため、まるで初級魔法でも使っているかのような速度で魔法が発動した。
空間が縦に大きく裂け、周囲に亀裂が入っていくのを眺めながら、刻印から魔力補充しつつ連続で魔法を発動し続ける。
――超級魔法であっても先程と同様に連続発動ができ、特に体の不調も現れていないようだ。これは……いよいよ“ヤバい”力かもしれないな……!
そんなことを考えていると、20発ほど撃った所でふいに魔力の変換ができなくなる――
「何だ? 魔力が補充できない……というより“ともしび”が引っ張ってこれないぞ!?」
今まで噛み合っていた歯車が、突然空回りし始めたかのように魔力の変換ができなくなってしまった。
いきなりの出来事に若干動揺しながらも、少し力むようにして強引にともしびを引っ張ろうとすると、量は少ないながらも魔力変換をすることができた。
その様子を見ていたアイラは不思議そうに尋ねる。
「引き出せる量に上限があるのか……? 淡い青白い光が漏れているから、僅かずつ補充できているように見えるが……」
「うーん、何だろう……もう少し検証が必要だな」
それからアイラと議論をしながらあれこれと試す内に、一つの仮説に辿り着く。
「どうやら刻印からともしびを引き出すには、“強い感情”が必要みたいだ。少しずつ引き出す分には大して問題ないが、大量に引き出し続けるのは相当な感情を込めないといけないらしい」
――何故かは分からないが、“ともしび”は感情に引き寄せられる性質があるようだ。
磁石と砂鉄のようなもので、より多くの砂鉄を引き寄せるには強い磁力が必要となる。
アイラの前ではあえて言葉にしなかったが、一番強力で効果的だったのは“負の感情”だった。
アレナリア国王の顔を思い浮かべた時が一番多くの魔力を変換できたのは、負の感情が強力な“磁力”を持っているからに他ならない。
考えてみれば、そもそも魔力災害を起こしたのは、爆発的な負の感情が湧きあがったことが原因だったわけだしな……
アイラも何となく察したようで、少し寂しそうな表情でつぶやく。
「激情に駆られて発動した方がより強い力を引き出せる、か……やはり闇の刻印は闇の刻印なんだな」
「まあ、何の制約もなく魔法を使いっ放しにできるわけではなかったけど、それでも平常時で超級魔法を20連発できるなんて十分化け物だぞ? 初級魔法に至っては1000発連射したって平気じゃないかな」
「ふふ、魔力補充できる時点ですでにリンドウという勇者を超えているわけだしな。もはや国レベルの力がないとユウガを止められないんじゃないか?」
「縁起でもないこと言わないでくれよ! まあ精々国に目を付けられないよう気を付けるさ」
恐らくこの力が周囲にバレてしまえば、何が何でも俺を引き入れようとする勢力が出てくるだろう。
ただでさえ国の“囲い込み”対象になっているのだから、今後はより一層力の使い方と使い時を慎重に選ばなければならない。
「力を得ているはずなのに、何だかどんどん不自由になっていく気がするなあ……」
勇者たちとは比べ物にならないが、俺にも守りたいもの、大切なものが増えてきている。
不用意な力の行使を控えつつ、いざという時に迷わず力を振るえるよう、これから更に精進をしなければならない……
若干自嘲気味な笑いを漏らしながら、そんなことを密かに決意するのであった。
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