第104話 魔法の極致①
「何だって!? 召喚勇者に会ったのか!?」
夕食の支度をしているアイラに再会した竜胆のことを話すと、驚きのあまり包丁を握ったままこちらに向き直って近づいてくる。
「お、おいおい! 包丁は置いてくれよ! 国王が俺の生存に気付いていないことも確認できたし、俺に会ったことを他の勇者含めて誰にも報告しないよう約束してきた。――それにここだけの話、すごいスキルも手に入ったぞ!」
「スキルを手に入れられたのはいいことだが――ユウガが懸念していたような事態は避けられそうか?」
前にアノウス火山で話したことを心配してくれているのだろう、若干不安そうに尋ねてくるアイラ。
「正直に言えば、戦争の渦中に身を置いている勇者たちとは考え方が合わない部分があったのは事実だ。俺も勇者たちも戦争を終わらせたいという目的は共通していたけど、その手段がどうしても腑に落ちなかったんだ……」
「殺して殺されて、血で血を洗って……勇者達はずっとそういう環境にいたんだろう……ユウガと違う考えを持つのは仕方ないさ」
「俺は……向こうの世界で人の死と多く向き合ってきた。こっちに来てからもいくつかの死に立ち会ったが、人を殺すという経験はしたことがない。――あいつらからすれば、きっと俺は甘いことを言っているんだろうな」
「私だって人を殺したことはないし、むやみやたらに相手を殺せばいいという考え方は反対だ。だが、大切なものが――守りたいものが危機に晒されていたら、私は迷わず弓を引く。勇者たちだって根本は私たちと同じさ……ただ、守らねばならないものの範囲が私たちよりずっと広いだけなんだと思う」
「守りたいもの、か……勇者は国民の期待を一身に背負っている存在だもんなあ。考え方に違いが出るのは当然か……それぞれの立場で、それぞれのやり方で戦争終結を模索する――当面はそのスタイルで行くしかなさそうだ」
「ユウガの言う通りだ。3つの
「ねえねえ!二人とも何を話してるの? ボクも夕ご飯のお手伝いしたい!」
「おっと、待たせてごめんなイーリス。もう少しでできそうだから、俺と一緒に食器の準備をしようか」
イーリスと食器を並べていると、メリカさんから念話が入る。
[ ふたりとも、うちは狭いんだからイーリスのいる所で“難しい話”はしちゃいけないよ! まだこの子にはユウちゃんの事を話してないんだろう? ]
[ すみません、迂闊でした。パレードの後でアレナリアの勇者の一人と再会してしまって、少し動揺していました…… ]
[ あんた達の会話はこっちまで聞こえてたよ! ユウちゃんも重々理解しているみたいだから多くは言わないが、アレナリアとの接触は慎重に頼むよ! アタシ達はともかく、イーリスを危険に晒したくはないだろう? ]
[ 事情を知っているとはいえ、師匠たちにも極力ご迷惑を掛けたくありません……当面は慎重に行動するようにします ]
[ そういえば、さっきユウガは勇者からスキルを入手したと言っていたが、どんなスキルなんだ? ]
[ 魔道補助(極)というスキルだ。――メリカさんに後で聞こうと思っていたんですが、このスキルについて何かご存じですか? ]
[ いいや、聞いたことがないねえ。そもそも魔道補助スキル自体珍しいものだが、
あのスキルは小とか大とかのランクに分かれる類のスキルじゃなかったはずだよ! ]
[ 師匠でも聞いたことがないものであれば、やはり召喚勇者特有のスキルなのかもしれないな……地下でいつもの試運転をしてみるのか? ]
[ ああ、もちろん試すつもりだ! 検索した時の反動からして、相当なスキルだと思う……! ]
[ そういうことなら好きなだけやりな! イーリスはアタシと爺さんで見てるから、どんなスキルなのかしっかり見極めておいで ]
夕飯を食べた後、アイラと共に地下空間へ移動する。
「よし、それじゃあ早速スキルをセットしてみよう」
そう言って鑑定画面から〈魔道補助〉スキルを外し、〈魔道補助(極)〉をセットする。
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ユウガ=スオウ
職業:商人、探究者
スキル:闇の刻印、存在感知、
魔導補助(極)、身体強化(大)、
状態異常耐性(中)、自動回復(小)、
隠密、偽装
※灰色(未適用)スキル
生命感知、魔力感知、魔導補助、
身体強化(中)、魔力強化(小)、
魔力強化(大)、感覚強化(中)、
情動の魔眼、瞬視の魔眼
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「――よーし、問題なくセットできたようだ。これでどのくらい感覚が変わるか見ものだな……念のためアイラは少し離れていてくれ」
アイラが10mほど距離をとった所で、まずはいつも試し撃ちする時と同じ魔力を込めて《
発射された火球は、近くに置いてある岩に当たって勢いよく燃え上がった。
「――威力はいつもと変わらないように見えるが……何か感覚の変化があったのか?――ユウガ?」
――違う。
これは……今までとは“次元の違う”スキルだ。
一度魔法を撃っただけでこのスキルの異常さが直感的に感じられ、思わず寒気のようなものが背筋を駆け抜ける……
「どうしたんだ、ユウガ……聞いているのか?」
「――あ、ああ……すまない。もしかしたらこのスキルは、刻印と同じようにこの世界のあり方を歪める類のスキルかもしれない……」
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