第99.5話 勇者一行⑧

エール王国 ルーテウス城



「さて――それでは行ってくる。ノブユキとリンドウはここで待機だ」


そう言って国王は四王会議の会場へと入っていく。


「いよいよ始まったか……ここでの協議内容がアレナリアの運命を左右するんだな――」


「大丈夫です……陛下を信じて待ちましょう」


「前に陛下が言っていたが、交渉の流れ次第では俺たち勇者の“出番”もあるかもしれない。何としても各国による支援体制の約束を取り付けないとな……」


「そうですね……でも、正直呼ばれてもどう立ち振る舞ったらいいのか分からないですけど……」



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「ロクステラ王国 テラロス=ラートソル国王、

アレナリア王国 オリオルス=アレナリア国王、

レウス王国 ファルコ=レウス国王、

そして、エール王国 私ミモザ=ガウィア……

――以上、4名の出席をもって本年の四王会議の開催を宣言いたします!」


無言のまま静かに頷く3人の王たち。


「今年の議長は私ミモザ=ガウィアが務めさせていただきますのでよろしくお願いします。では、最初の議題ですが――」


「ちょっと待ってくれないか……話を遮ってすまない。ただ今年は例年の形式的な議題を取り上げるよりも、もっと重要な案件があるはずだ。できればそちらの懸案事項から議論したいのだが……」


ロクステラ国王は右手を軽く上げて進行を制止しつつ、他の3人を見回す。


「――そうですね、確かにまずは“あの噂”についてはっきりさせておいた方が、この後の議論もしやすいかもしれませんね」


二人の視線を浴びたアレナリア国王は、観念したように大きなため息を吐く。


「ふう――仕方ない……噂、というのは勇者召喚のことであろう?」


「そうだ。今、帝国が数十年ぶりともいえる規模で国境沿いの軍備を増強しているのは、アレナリア王国で勇者が召喚されたからだという噂がある。“この後”の話をするにあたって、まずは事実を共有すべきだと思うが……」


「帝国が不穏な動きを見せている事との因果関係は“調査中”だが、確かに我が国は勇者召喚を行った。――約1年半前……“4名”の勇者を召喚し、その中の1名は職業が勇者であった」


「やはりそうか……帝国が軍備を強化し始めたのは丁度その時期だ。蓋然性という意味で言えば勇者召喚を受けてのものだという可能性は高いはずだ。――どこから情報が漏れたか心当たりは?」


「先ほども言った通り“調査中”だ。我が国以外でこの事実を知っていたのは神都の教皇と、そこにおるファルコだけ……帝国との小競り合いについても後方支援のみに制限していた」


「ふむ――神都から漏れたとは考えにくいが、帝国が動いている以上、何らかのルートで情報を得ているという前提で動くべきだろう」


「私も同じ認識だ。だからこそ、今日は有事の際の協力体制について協議をしたいのだ」



「――当然、ロクステラも協力は惜しまないつもりだ。それが同盟の意義でもある……だが、こちらとて無尽蔵に兵を出せるわけではない」


ロクステラ国王は少し間をおき、アレナリア国王へ視線を送る。


「そこで、まずはアレナリア王国の現在の戦力を開示してもらえないだろうか。兵の規模、勇者の参戦があるか……その辺りを踏まえた上で援軍を送りたい」


わたくしもロクステラ国王に同意します。我が国の国境にも帝国兵が増えている以上、万一に備えて必要最小限の戦力の派遣に留めたいというのが正直なところです」



「――よかろう、この際正直に話そう。実際のところ、我が国の兵は勇者を含めて7割近くが魔族との戦争に割かれておる……動かせて数万といったところだろう。勇者たちには東と南でそれぞれ機に応じて動いてもらうつもりだ」


「中々厳しい状況ですね……レウス王国はどういった方針をお考えなんでしょうか?大陸屈指の魔術強国として、貴国の果たす役割は大きいと考えていますが……」


ここまで沈黙を貫いていたレウス国王は、静かに口を開く。


「――約5万。騎士団および魔導部隊を出すつもりだ。我々は50年前に魔力災害によって壊滅的な被害を受けたが、その時に帝国の侵略を受けなかったのは同盟国が迅速に動いてくれたお陰である。4つの国の中では最も人口が少ない国ではあるが、全力をもって恩を返させていただく」


「精強なレウス王国騎士団に魔導部隊ですか……!それは心強い!――ならば私達は守りと補助に秀でた部隊を3万ほど派遣しましょう!」


そして残るロクステラ国王へ3人の視線が集まる。

国王は3人にそれぞれ視線を返した後、少し考え込むように間を置いてから話始めた。


「――そうだな、ファルコ殿の心意気に応える意味で我々も5万出そう。加えて各国へ装備品の提供も行うことを約束する」


「おお……装備品まで! 痛み入りますぞ、ロクステラ王よ!」


「なに、向こうの狙いが勇者を叩くことであれば、短期集中で一気に攻め込んでくる可能性が高い。であればこちら陣営も惜しまず戦力を投入するべきだと考えたまで」


そう言った後、ロクステラ国王は軽く咳ばらいをして話を続ける。


「――ただ、出兵と装備提供にあたって二つ約束をいただきたい。ひとつは勇者と実際に話をさせてほしいということ、もう一つは我が国の有事の際は勇者の派遣をいただきたいということです」


「――よかろう。交渉の成り行きしだいでは、そうした話が出るだろうということは想定していた……明日の会議が始まる前に勇者を呼んで引き合わせることを約束しよう。派遣については我が国の防衛に支障が出ない範囲で、という制約の下でなら認めるがいかがか?」


「承知した、それでお願いしたい」


「決まったようですね。では、帝国の件はこれで一旦終了とします。次の議題ですが――」


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5時間程続いた会議が終わり、国王が疲れ切った表情で戻って来た。


「お疲れ様でございました。――結果は……どうでしたか?」


「うむ!エールとロクステラからそれぞれ兵の派遣に関する確約を得た。二人の後押しをする役に徹してくれたファルコに後で礼を言っておかねばな……」


「そうですか……信征さんと二人でずっと心配していましたが、これで一安心ですね!」



「しかし、蓋を開けてみれば終始ロクステラ国王のペースだった……勇者に実際に会って実力を見定めること、勇者をロクステラの戦力として借り受ける約束を取り付けることが最初から目的だったようだ」


「――ということは、我々はロクステラ国王にお会いすることになるんですね?」


「ああ、明日の会議前に時間を取ってもらうよう伝えておいた。すまんが行ってくれるか」


「承知しました。恐らく色々と探りが入るでしょうが、あまり向こうにばかり益を与えてもいけませんので、うまくやり過ごせるよう頑張ります」


「よろしく頼むぞ!――まあ、その利益という点で言えばエール王国はあまり“旨み”がない結果になってしまったな…… まだ若い上に議長という立場もあって、あまり自国の利益に偏るわけにはいかなかったのが“敗因”だろう。

私も足元を掬われぬよう、明日以降の交渉に油断せず臨まねばな……」

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