第100話 交錯

2日後――


「ノブユキ、リンドウ……3日間ご苦労であった。大きな問題なく四王会議を終えることができたのは、そなたらの存在があったからである。感謝するぞ……!」


「――いえ、我々は大したことはしていません。陛下自身が手繰り寄せた成果でございます」


「ふっ、そなたらをロクステラ国王に紹介してからその後の交渉がしやすくなったのは事実だ。――テラロスめ、相当そなたらを気に入っておるようだ。これから勇者の“引き合い”が強くなるやもしれんな……」


国王は若干複雑な表情が入り混じった笑みを浮かべる。



「まあよい、今後ロクステラの出方を窺いながら対応を考えるとしよう。――さあ、各自出発の準備をしてくれい! 2回目のパレードを終えれば、そのままアレナリアへ帰ることになる。最後まで気を抜かんように警護を頼んだぞ!」


その言葉を聞き、俺と竜胆はアイコンタクトをしながら軽く頷く。


「すみません、その件なんですが…… 少しダルクの街中を見てから帰ることは可能でしょうか?――もちろん陛下の護衛もありますので、自分か竜胆のどちらか一方だけでも構いません」


以前、神都でニドルという男が言っていた黒髪の冒険者……

あの話を確かめるにはまたとない機会だ。例え可能性が低くても、少しでも情報収集をしておきたい。



「うーむ、こういう機会でもなければ滅多に来ることがない国であるし……少しくらい大目に見よう。ただ、さすがに少数の騎士だけでは護衛が心もとない故、ノブユキは私と共に来てもらう。――それでよいな?」


「承知しました、ありがとうございます!」



「リンドウはこの機にしっかりと知見を広めてくるとよい……ただし、アレナリアとエールを繋ぐ転送魔法陣は、今日の日没と同時に閉じられてしまうから気を付けるのだぞ!」


「かしこまりました。時間までに必ず帰りますのでご安心ください」


「――じゃあ頼んだぞ、竜胆……!」


「ええ、信征さんも帰りの道中お気をつけて……!」



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パレードの第二部が終わり、街を埋め尽くすほどの人々で溢れかえっていた中央通りは徐々に落ち着きを取り戻し始めてきました――


信征さんと幸司さんから任された黒髪の冒険者に関する調査……

その冒険者がエール王国にいるかすら分からない不確かな話ではありますが、悠賀さんの手掛かりになり得ることは片っ端から確かめたいという二人の強い気持ちを感じます。


二人のためにも、何としてもその冒険者の情報を入手して帰らないと――

そんな思いを胸に、ローブのフードを目深にかぶりつつ、ひとりダルクの街へ繰り出したのでした。



「――とはいえ……土地勘がないから、どこから調べたらいいか迷っちゃうなあ」


とりあえず道行く人から冒険者ギルドの場所を聞き、広場を抜けてギルドへ向かう竜胆。


「ここがダルクの冒険者ギルド……アレナリアのギルドより大きな建物ね。これだけの規模があれば、いい情報が得られそうだわ!」


さっそく建物に入ってみると、中は警備の仕事を終えた多数の冒険者で溢れかえっていた。

整理券を配って順番に受付をしているようだが、すでに本日の整理券配布は終了しているらしく、とても受付で聞き込み調査ができる状態には見えなかった。


「これは……無理そうね。仕方ないから広場を中心に歩きながら探しましょう……」


聞き込み調査から足を使った地道な捜査に切り替え、広大な中央広場をぐるりと1周、2周するが一向に見つかる気配はない。


「相当な実力者だっていうし、近くにいれば目で見逃しても魔力感知で分かるはずなんだけど……信征さんたちみたいに300mとまではいかないにしても、もっと感知範囲を鍛えておけばよかったなあ。――ああ、もうこんな時間だし!」


仕方なく広場を離れて結界の入口方面へと歩みを進める。


半ば諦めながら、魔力感知で調べつつ中央通りを歩いていると――突然、尋常ではない大きさを持った魔力を感知する。


まるで上位の魔族のような巨大な魔力……あまりに唐突な出来事だったため、反射的に“戦闘モード”に入ってしまう竜胆――


即座に魔力の方向へ鋭い視線を向けると、100m程先に人ごみに紛れるようにして足早に裏通りへ去っていく黒髪の男の姿が見えた。


「私のバカ! こんな街中に魔族がいるわけないじゃない……! 殺気を飛ばしたせいで気づかれてしまった……すぐに追いかけないと!」


慌てて人ごみをかき分けながら後を追っていく竜胆。

男はかなりの速度で移動しており、感知範囲から外に出ないよう必死に追いかけるが、中々距離が縮まらない。


やっと見つけた手掛かりを逃すまいと、人目を気にせずまるでパルクールのように障害物を躱しながら、疾風のごとく裏通りを駆け抜けること数分――

男は観念したのか急に足を止めた。


こちらに向き直り、右手を上げて魔法を発動させようとしているため、すぐにフードを脱いで大きな声で呼びかける。


――右手の奥に見えたその顔は、まさしくあの日一緒に召喚された蘇芳悠賀すおうゆうがその人であった。



「待って下さい!! 戦う意思はありません! 私です……竜胆です!!!」



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