第92話 円卓会議
3日後
ナイトガルに着いた俺たちは、今回の件を報告するためルイーナさんの店を訪れる。
「やっほー!みんな元気そうで何より……と思ったけど、何か痩せた?」
「まあ、ちょっと色々ありまして……ルイーナさんに助言をもらいたい内容があるんです」
「ほっほう~ このルイーナさんに教えを乞いたいのね! いい心がけだわ、どんどんお姉さんを頼っていいのよ?」
「はは、ルイーナさんは相変わらずですね……是非アドバイスをお願いします。――ちなみに、今回の件で呼んでいる人がいるんですが、もう着いてますか?」
「バッチリよ! 2時間くらい前に来たからブランカ村のお店で店番……じゃなくて少しお待ちいただいているわ」
「客に店番させるなんて、後で怒られても知らないですよ?――まあ、とりあえず向こうの店へ行きましょうか」
そう言って4人は地下の転移魔法陣を通ってブランカ村へと移動する。
「3人は先に席に着いていてください。俺は上に行って2人を呼んできます」
「はーい! じゃあ私は皆のお茶でも入れてこようかな。――何となく長くなりそうだし」
はしごを登ってパトリア魔道具店への店内へ入ると、聞き覚えのある威勢のいい声が響き渡った。
「おや、やっと着いたのかい!あたしゃ待ちくたびれちまったよ! 念話でアタシらに呼び出しが掛かったから言われた場所に来てみたら、小さな白いお嬢ちゃんに店番を頼まれるし、一体何事だい!?」
「まあまあ、婆さん そんなにまくし立てなくてもよかろう。それを説明するために呼んだのだろう?――なあ、婿どの」
「わざわざ遠くまで来てもらってすみません――ちょっと自分一人ではどうにもできないような問題に直面してしまったんです。メリカさんとルシルバさんの知恵も貸して欲して欲しいと思って……」
「まったく、ユウちゃんは相変わらずだねえ。今度は一体どんなとんでもない秘密を背負ったんだい?」
「はは……自分でも怖い位ですよ。少し長い話になってしまうので、一旦下へ行きましょう」
再び地下倉庫へ降り、師匠たちを3人の待つテーブルへ案内すると、2人の姿を見たキールさんは立ち上がって挨拶をする。
「初めまして、私はキール=フォルミードと申します。ナイトガルで“しがない”ワイナリーをやっております」
「あら、いい男じゃない! 元軍人か騎士ってとこかねえ、アタシはメリカ=ベルベットだよ!」
「――ワシは旦那のルシルバだ。――隙のない良い立ち姿だのう、ほっほっほ」
「これは驚いた!見ただけでそこまで分かるとは……仰る通り、私は神都の騎士をやっておりました。もう20年以上前の話ですがね」
「キールさん、この二人に対しては偽名を使わなくても大丈夫ですよ。 俺の“身の上”も知っている頼れる師匠なんです!」
「ふむ……ユウガ君がそう言うのなら、本当の名前を名乗らせていただきます。――お二方申し訳ありません。先ほどの名前は世を忍ぶ仮の名前で……本名はキール=ジャックローズと言います」
さすがの二人も顔を見合わせ、目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
「何だって!? あの大罪人と同じ名前じゃないか!――ユウちゃんの知り合いってことは……まさか、本物じゃないだろうね!?」
「二人が驚くのも無理はないですが、この方は本物です。確たる証拠があるわけではないですが、キールさんから色々な話を聞いて俺とアイラは間違いなく本人だと信じています」
「仮に本人だとして、犯した大罪の方はどうなんだい? 実際に殺された者が大勢いるんだよ!」
「……世間で言われている数々の悪事は教会の捏造です……教会の不正に挑み、教会によって大罪人に仕立て上げられたというのが真実なんです……!」
「いやはや、驚いたわい……一人の人間があそこまで国を股にかけて好き放題できるのか長らく疑問だったが、そういうことだったのか」
「爺さんは真に受けすぎだよ!――ただまあ、本物かどうかはさておき、二人がこの男を信頼していることは事実なんだから、アタシたちもある程度信頼してやるのが努めってものかねえ」
メリカさんは小さくため息をつき、こちらを向いて話を続ける。
「それにしても、それが真実だとしたら、またとんでもない秘密を知ったもんだねえユウちゃん……アタシたちに聞きたいことっていうのは、この件なのかい?」
「――正直、この内容だけでも十分過ぎるほど大きな秘密なんですが、今日に関しては、ここまでが本題に入る前の“自己紹介”部分です。今日話したいのは、俺が赤龍王から――いえ、龍族の始祖から聞いたメッセージの内容についてなんです……!」
「赤龍王だって!? ユウちゃん、アンタそんなトンデモないものに会ったっていうのかい? どうしてまた――! いや……色々聞きたいが、まずは席に着いて話を聞こうかねえ」
メリカさんは首を横に振って言いかけた言葉を飲み込み、空いている席へ座る。
――丸いテーブルを囲むように座った5人を改めて見渡すと、実に“そうそうたる”顔ぶれが揃っていた。
その5人の視線が俺に集まるのを感じたため、少し緊張感を覚えつつ静かに口を開く。
「今日、皆さんに集まってもらったのは、アノウス火山で出会った赤龍王を通じて伝えられた、龍族の始祖からのメッセージについてご意見をいただきたいからです。――ここにいる全員が、俺が召喚勇者の一人だということ、闇の刻印を持っていることを打ち明けた人達です……刻印が持つ能力については各自に断片的にしか話してきませんでしたが、今回の件でこの5人に全て話したいと思っています」
俺の緊張感が伝わってしまったのか、皆も少し固い表情をしており、場がしばしの間静寂に包まれる。
そんな状況の中、口火を切ったのはルイーナさんだった。
「赤龍王に出くわしたのは……まあユウガだから百歩譲って仕方ないとしても、どうやって龍王からそんな情報を引き出したのさ? この世界で龍王って言ったらまさに“天災”クラスの脅威で、ごく一部の選ばれた者以外は接触すらできないんだよ?」
「――俺が龍族の始祖アーカーシャと同じ力を持っていたから……ですね。かつて始祖は龍王達に、自身と同じ力を持つ者に向けたメッセージを託していたようなんです」
「龍族とはいえ、魔物が刻印を持っていたのか? そういった話は聞いたことがないが……」
「アイラの言う通りだねえ、長いこと生きているけれど魔物が闇の刻印を持っているなんて見たことも聞いたこともないよ!」
「もしかして――あの時、赤龍王が人間の姿に変身したことが関係しているのかな?」
「さすがキールさん、俺もそこが気になって龍王に尋ねたんです。そうしたらやはり龍族と人間は深い関わりをもっていました……! というより龍族の始祖は人間だったようです」
キールさんは数秒の間、時間が停止したように動きを止めてこちらを見つめたまま固まっていたが、突然吹き出すように笑い始める。
「はっはっは!何てこった! あの龍王は……龍族は人間が作ったということかい?――こんな話、ルスキニアの国民には絶対に話せないな」
「やれやれ、突拍子もない話で心臓に悪いのう……人間が“あの”龍族を作ったなどと……婿どのも刻印を使えばそんな真似ができるということかの?」
「いえ、俺にはやり方の見当も付きません……刻印に備わる力を使って生み出したのか、それ以外の技術で作ったのかすら分からないですね。古代文明が栄えた時代の話らしいので、そういった生命を作り出す技術があったのかも知れません」
「まあ、私たちがエルポルトで倒したグロムピスクも帝国が生命を掛け合わせて作った魔物だったわけだしな……古代文明ならそういうことができてもおかしくないということか……」
「でもどうして古代文明の時代だって分かったの? 龍族に関する資料ってあんまり残ってないから、龍族の起源とか生態ってほとんど謎に包まれてたんだよねえ」
「それについては、言葉で説明するより見てもらった方が早いと思います。俺が今まで関わった龍族……黒龍と赤龍王、始祖の言葉を伝心魔法で伝えようと思います」
そう言って円卓を囲む5人に向かって右手をかざし、静かに伝心魔法を発動する――
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