第42話 ロクス城①

あくる日の朝、俺たちは冒険者ギルドへ向かう。


昨日遅くまで“反省会”をしたことでお互い寝不足気味ではあるが、思いの丈を語り合ったことで少しは心が軽くなった気がする。


今日は気分転換を兼ねてショッピングに出かけようという話になったため、先にギルドで依頼の完了報告を済ませに来たのだ。



早速受付で完了報告を行い、報酬を受け取る。

――しめて金貨5枚!


待て待て……いくら何でも多すぎないか!?


「今回の報酬は全て国から出ているんですよ!

基本報酬がお二人で2金貨、ユウガさんの活躍に応じた追加報酬で3金貨です!」


受付のお姉さんは俺の疑問に元気よく答える。


「追加報酬?だとしてもこんなに貰っていいのか……? 随分大盤振る舞い過ぎやしないか――?」



「そりゃあそうだぜ! 何たってお前のお陰で多くの命が救われたんだからなあ!」


この声は……

何でいつも俺たちが来るとタイミングよく出てくるんだ?

何か感知系のスキルでも持っているとか……


今まで勢いに押されて忘れていたため、今回は声のする方を振り向くなりすぐに鑑定を行う。

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 ディーゼル=セルノゼム

 職業:戦士

 スキル:身体強化(中)、状態異常耐性(小)、

 隠密、生命感知

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只者ではないと思っていたが、やはり“生涯現役”のギルドマスターだけある……非常に優秀なスキルをお持ちだ。


――ちなみに魔法適性の鑑定は切ってある。

通常の鑑定より複雑なロジックとなることで“力み”が出てしまい、相手に不審に思われてしまうからだ。



「またそんな大げさな……それはそうと、いつも俺たちが来ると絶妙なタイミングであらわれますね。もしかして何かの感知スキルでも持っているんですか?」


そんなカマを掛けてみると、ディーゼルはこともなげに言う。


「よくわかったな! ここだけの話、俺は生命感知スキルを持ってるんだ!数十万人に一人の超レアなスキルなんだぞ?……どうだ、少しは俺のことを見直したんじゃないか? ガッハッハ!!」


何というか……こっちが心配になるほど“開けっぴろげ”で、本当に裏表がない性格なんだな。


若干空気は読めない――というか敢えて無視している感はあるが、皆がなんだかんだでこの男を信頼している理由が分かる気がする。



「ちなみにユウガ、お前さんの生命力は半端じゃないから執務室で居眠りこいててもすぐに分かるぜ!」


「え、そうなんですか!? そんなにみなぎらせているつもりはないんですけど……」


「自分で気づいてなかったのか!? お前さんの戦いを見ていた冒険者から聞いた話じゃ〈気闘術きとうじゅつ〉を使うそうじゃないか! てっきりその道の達人だと思ってたぜ」


また新しいワードが出てきたな……

生命力を操って戦うのは〈気闘術〉というのか。

全くの我流だったが、ちゃんとした生命力の扱い方があるなら一度本格的に学びたいものだ……


知らない用語が出てきて少し戸惑ったのを察してか、アイラ先生が補足をしてくれた。


「〈気闘術〉は私の国で生まれた戦闘術だ。――元々は不老長寿を目的として特殊な訓練により生命力をコントロールする技術だったが、それを格闘技術に応用させたものをそう呼ぶんだ」


「そうするとお前さんはエール王国出身じゃないのか!? 黒髪で〈気闘術〉使いって言ったら間違いなくそうかと思ってたぜ!」


「ええ、まあ……諸事情で遠くの大陸から飛ばされて来たんです」


「なるほどなあ、そんなこともあるんだな!――まあ、俺としちゃあ優秀な冒険者がいてくれて大助かりなことに変わりはねえ! このままここに根を下ろしてくれていいんだぜ!」


大きな声で笑いながら、ふと思い出したように真面目な表情を作るディーゼル


「そうそう忘れる所だった! 国王がお前たち二人に会いたがってるんだ。 急で済まんが、これからロクス城へ行ってくれないか? 今回の事故で活躍したパーティーに直接礼を言いたいらしいんだよ」



国王だって!?

驚いて思わずアイラと顔を見合わせる。


「いやいや! 国王に謁見だなんて、俺たちはそこまでのことはしてないぞ!?」


「残念だが、国王命令だから断ることはできないぞ。王国を敵に回す覚悟があるなら行かなくてもいいがな?」


冗談めかして言っているが、国王の招集を断れば角が立つのは確かだろう。


仕方ない……

こんな時こそ黒龍の言葉を思い出し、何事も経験と割り切って“出頭命令”に応じることにした。


「ユウガ、どうする?」


「正直、玉座の間にはいい思い出がないが……折角だし行ってみよう」


「おーし!それじゃあ決まりだ! さすがにただ行ってこいじゃ城には入れねえから、俺が付き添いで行ってやろう。――馬車を用意するからちょっと待っててくれい!」

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