第37.5話 勇者一行④
図書院に入ろうとする俺たちは、声を掛けられたその方向を振り返る。
銀髪おかっぱ頭に、貼り付けたような笑顔――
明らかに関わらない方がいい雰囲気だ……
ただ……放つ気配が只者ではなく、迂闊に目を逸らすことができない。
それになぜ勇者だと知っている? さっきの謁見に立ち会った者か……?
――いや、そんなわけはない。こんな“馬鹿げた”魔力を持った人間がいれば魔力感知を持つ俺が気づかないはずがない。
あの場にはこいつに匹敵する魔力を持った男が一人いたが、あれはどう見ても教皇の側近という雰囲気だった。顔立ちも違うし、間違っても今目の前にいる男ではなかった。
「……どちら様ですか?」
勇者であるか否かは敢えて触れず、相手の情報を引き出すことだけに徹しよう……
そう思っていると、怪しい男はわざとらしく頭に手を当てて口を開く。
「いやあ、これは失礼しました。
私はニドル=クラマトールと申します。勇者様にお会いして舞い上がったのか、すっかり自己紹介が遅れてしまいました! 一応、第四騎士団の分隊長を務めておりますのでお見知りおきをいただけますと幸いです」
騎士団――確か教皇直属の精鋭集団だったはず。
第四騎士団といえば各地で揉め事を起こす“曲者”が多いと聞くが、こいつはまさにそういうタイプだな……
「ふふふ、警戒されるのも仕方のないことです。
ですが最初に言った通り、今日は“お話”をしに来ただけです…… 勇者が召喚されたという噂を聞き、どれほど“異次元”の強さなのかこの目で見てみたかったのです!」
「我々はアレナリア王国の使節団としてこちらに来ました。それ以外の情報は一切出していないと思いますが……」
「私は“耳がいい”のです。決して教団の情報統制が緩いわけではありませんのでご安心ください! ――いやあそれにしても……まさに宝石の“原石”といった感じですねえ……! 感動しました!」
「もういいだろ? 俺たちはこれからやることがあるんだ」
幸司はそう言って親指で後ろにある図書院の方を指す。
幸司も魔力感知を持っているからこいつの異常な魔力には気付いているだろう……
いつもより声に緊張感が宿っている。
「そちらのあなたも素晴らしいものを持っていますねえ……惚れ惚れします。 この間の冒険者といい、“黒髪の人間は強い”というのは迷信ではないようですねえ!」
やはりこの世界では黒髪は珍しいのか……?
いや、それよりも俺たち以外の黒髪の冒険者か――
「黒髪はエール王国に多いと言われていますし、もしかしたらそこの出身かもしれません……名前を聞いておくべきでした。
エール王国の開祖はあなた方と同じ召喚勇者だそうです! 今でも勇者の血を色濃く引いた者は黒髪になると言われているらしいですよ……?」
「その黒髪の冒険者というのは、どんな男なんですか?」
――わずかでも手掛かりになる可能性があれば……そう思って詳しく尋ねてみる。
「……内緒です。ふふふ、私は一言も男だと言っていないのに、なぜ男だと思ったんでしょう? 誰か心当たりがある――ということでしょうか?
まあいずれにせよ、あれは“私のもの”ですから勇者様にはあげませんよ!」
こいつ……
もしかしてここに来た4人以外に召喚された者がいることを知っているのか?
もしそうなら、逆に情報を与えてしまったことになる――
迂闊だった……!
ニドルは笑顔を顔に張り付けたまま、値踏みするようにこちらを見ている。
「ああ、楽しい時間はあっという間です……! お忙しい所呼び止めてしまい申し訳ありませんでした。 実際にお会いして勇者様がまだまだ強くなることが分かりましたので、今日はこれで帰るとしましょう……またお会いできるのを楽しみにしていますよ!」
できればもう会いたくない、そう思わずにはいられない男だった……
結局ニドルの姿が見えなくなるのを確認するまで警戒を解くに解けず、その場に留まらざるを得なかった。
余計な時間を使わされたことに腹が立つと共に、もし自分たちに伸びしろがなければどうするつもりだったのかと底知れぬ恐ろしさを感じる。
「なあ、黒髪で俺たち並みに強いかもしれないって……」
ニドルが去ったのを確認し、幸司がつぶやく。
「可能性は低いだろうな……だが確認しておく価値はあるように思う。
――調べものが終わったら、次はエール王国に行ってみるか!」
「確かエール王国は南だったな……それじゃ何とか帝国を抜ける方法を考えるとしますかね……!」
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