第38話 振動

ロクステラ王国へ来て3ヶ月が経とうとしたある朝――

俺は建物が揺れていることに気付き目を覚ました。


部屋の至る所がキシキシと声を上げ、天井から細かい埃が落ちてくる。

数秒で揺れは収まったが、今度は外が次第に騒がしくなっていく――


アイラも目を覚ましたようで、寝起きだというのに珍しく油断のない表情で辺りの様子を窺っている。


「地震みたいだな……この世界に来る前はよくあったが、こっちに来てからは初めてだ」


「確かに大陸東部のロクステラでは珍しいな。西のルスキニア公国ではよくあるらしいが……」


「ルスキニア公国?」


「ああ、大陸の西にある大国で、通称“赤龍公国”と呼ばれているんだ。――昔、国の危機を赤龍が救った伝説があると聞いたことがある。領内にアノウス火山という巨大な火山があって、昔から噴火や地震が多い地域らしい」


「へえ、大きな火山に赤龍か……いつか一緒に行ってみたいなあ……!」


「約束だぞ? 私も一度は行ってみたいと思っていたんだ。あそこは地下熱で温泉が豊富に湧くらしいから風呂好きのユウガもきっと気に入るはずだぞ!」


「それを聞いて絶対行くことに決めたよ! 途中に帝国領があるとか関係ない、絶対に行くぞ!」


アイラはふふっと笑って外に目をやる――


「それにしても外が騒がしいな。私たちも着替えて様子を見に行こう……!」



外に出てみると、遠くの方で土埃のようなものが大量に巻き上がっている様子が見える――どうやらただの揺れではなかったらしい。

周囲の人々の声を総合すると、あの方面は大規模な鉱山地帯であり、そこで何かあったのでは……ということだった。



ロクステラは鉱業と鍛冶業の都市だ。

多くの労働者が鉱山で働いているのだろう、家族や知人の安否を心配する声が方々から聞こえてくる。


「アイラ、少し――ここを離れよう」


「ああ、その方が良さそうだ。心配を掛けてすまない……」


俺たちは“感情”渦巻く人ごみを離れ、町はずれを目指す。


途中、冒険者ギルドの前を通り過ぎようとした時――

聞き覚えのある威勢のいい声が響いた。



「おおーい! お前らいい所に来たな! ちょっと頼まれてくれないか!」


相変わらず粗暴な冒険者のような風体で話しかけてくるのは、ディーゼル……この冒険者ギルドのギルドマスターだ。


「今はちょっと……用事があるので」


「そこを何とか頼む! 話だけでも聞いていってくれないか!」


アイラの方に目をやると、諦めたような顔で頷いてくる。

仕方ない、話くらいは聞いていこうか……



「すまねえな もう知ってるかもしれないが、どうも王都の南西にあるテルメア鉱山で大規模な崩落があったようなんだ……! 今しがた国からギルドに出動要請が来たんで、これからすぐに冒険者を集めて向かわせなきゃなんねえ!」


ギルド内を見回すと職員が慌ただしく飛び回っており、冒険者も続々と集まっているようだった。

なるほど、冒険者というのは災害時の支援という役割も担っているのか……


「もう乗りかかった船だ、俺たちも行こうアイラ……!」


「ああ、もちろんだ!」


「助かるぜえ! 依頼内容は瓦礫の撤去と不明者の捜索、そして周辺の警備だ! 鉱山には魔物も多い――崩落で普段出てこないような奴も這い出て来る可能性があるから十分用心してくれ! 報酬は弾むからよ、頼んだぞ!」


そう言ってディーゼルは慌ただしく去っていき、代わりにギルド職員の女性が詳しい内容を説明してくれた。


今から30分後に出発する馬車に乗って鉱山まで行き、先行して作業にあたっている現地の兵士たちの支援をするのが主な仕事だという。


鉱山の見取り図や負傷者の収容場所などは現地で確認してほしいとのことだった。



すぐに宿に戻り、武器防具を身に着けてから馬車の元へ走る。

――何とか間に合ったようだ……!



俺たちが乗り込むとすぐに馬車は出発し、急ぎテルメア鉱山へ向かうのだった――

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