第39話 テルメア鉱山

約半日後――

冒険者たちを乗せた馬車はテルメア鉱山に到着する。

後続の馬車も続々と到着し、あっという間に100人近い冒険者が集まることとなった。


まだ夕暮れまでは数時間あるが、舞い上がった細かい粉塵が日光を遮っているせいか、すでに薄暗くなっている。

奥には輪郭のぼやけた大きな鉱山がそびえており、その山肌は300m近くに渡ってめり込むように落ちくぼんでいた。


鉱山の手前に目をやると、労働者とみられる多くの人々が、包帯を巻いたり腕や足に添え木を括り付けて横たわっていた――

救護兵が忙しく動き回り、その間にも次々とけが人が運び込まれてきている。



「おおい! 冒険者たちはこっちへ来てくれ!」


少し離れた所から声がしてそちらを振り向くと、銀色の鎧に身を包んだ男がこちらに向かって大きく手を振っていた。


男は冒険者が集合すると、顔ぶれを確認するように一通り見回してから口を開く。


「よく来てくれた! 私はロクステラ王国治安部隊、副隊長のハキマだ! 今回発生した災害の現場統括をさせてもらっている。

早速だが今回の依頼は急を要する……状況を説明するので各自しっかりと頭に入れてくれ!」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

・内部は層状にフロアを重ねる形で地下へ掘り進められており、今回第一層のどこかで大規模な爆発が起きたことにより落盤が発生した模様。


・爆風で出入口が崩れたため、怪我をした者、自力で脱出した者、行方が分からない者が多数発生している。


・坑道は地下700m程の深さまであるため、落盤に巻き込まれてはいないが取り残された者も多数いると想定される。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「今、治安部隊が瓦礫の撤去や行方不明者の捜索を――そして防衛部隊の救護班がケガ人の手当と治療に当たっている! 冒険者の諸君は周辺の索敵と魔物の排除、生存者の捜索補助にあたってもらいたい! 周辺には可燃性のガスが噴出している可能性があるため、火や雷属性の魔法は使用しないよう徹底してくれ!」


ハキマは懐から太いペンのようなものを取り出して冒険者たちに見せる――


「今から諸君にこのマーカーを渡す! 生き埋めになっている者を見つけたらこのマーカーで岩などに印をつけるようにしてくれ! 治安部隊が救助を行う目印になるので是非活用してほしい」


周囲にいた治安部隊の男たちが冒険者たちに順番にマーカーを配っていく。


「最後に、もし回復魔法が使える者がいれば状況しだいでは応援を頼むので後で教えてくれ! 岩の割れ目から瘴気が噴き出すことがあるので瘴気除けの装備を忘れないように! 以上だ!」


「よし…… 早速行こう、アイラ!」


「ああ、ユウガの感知なら捜索には打ってつけだ! マーキングは私がするからユウガは場所を指示してくれ!」


今回、優先すべきは生存者の捜索である――

すでに亡くなっている人々と区別できるよう、感知範囲を70~80m程に調整して生存者の捜索にあたる。

何とももどかしい気分ではあるが、こればかりは仕方がない……


感知には崩落に巻き込まれたと思われる者が多数確認できたが、すでに半日以上が経過しており生存者らしき反応は数える程しかなかった。


「アイラ! そっちに20m進んだ所に一人いる! 深さは5mだ!」


アイラは素早く指示された場所に印と、埋まっている深さを書き添えていく――

15分も掛からない内に崩落範囲の調査を終え、治安部隊にすぐに救助にあたるよう声を掛ける。


あまりに素早く的確に生存者を探し出すため、周りの冒険者たちは驚きの表情を浮かべ、中には半信半疑の眼差しを向ける者もいた。


「よし、俺たちもこのまま救助活動に加わろう――」


そう話をした瞬間――

地下でうごめく“何か”を感知する。


「待て! 下に何かいるぞ……!とんでもなくデカい……」


「何がいるんだ? 下は岩で埋まっているはずだが……」


「――液体のように流動的で粘性がある生物だな。大きさが20mくらいある」


「何だって!? その特徴を持つのは恐らくスライムだが――その大きさはまずいぞ!」


今までもたまに大迷宮や森の中で見かけることはあったが、大体10~30cmくらいの大きさだった……今下にいるやつは明らかに異常なサイズだ。


それにしてもアイラの焦り方がいつもと違う――


「何がまずいんだ? たかがスライムだろう?」


「確かに普通のサイズであればそれほど気にする必要はないが、大物の場合は全く話が違ってくるんだ……!」


アイラの表情には焦りや動揺の色が見える……


「そもそもスライムというのは不完全な形で形成された魔物のことを言うんだ。 生物や死肉を手あたり次第に捕食し、やがて瘴気をまき散らすようになる―― そうして成長し十分に養分を蓄え、最後には全く別の上位魔物に変異するんだ……!」


「――なるほど、だいぶ厄介な奴みたいだな」


養分を蓄えて高位の魔物に変異するアメーバ状の生物か……

――まるで殻のない“さなぎ”だな。

何かの本でさなぎの中身はほとんど液体状に溶けているという話を呼んだことがある。



地下の巨大スライムをしばし観察していると、液体が地面にしみ込むようにスルスルと岩の間を移動しているようだった。

その先には――崩落に巻き込まれた亡骸がある。


「こいつ、まさか……!」


スライムはそのまま亡骸を取り込み、物凄い早さで消化していくではないか。


「アイラ、こいつをおびき寄せる方法はないか!? 被災者たちを次々に捕食している! このままだと生存者までやられてしまう……!」


こういう時に魔物の知識をもっと勉強しておけばよかったと心から思う――

焦りと苛立ちを押し殺しつつ、アイラの知識に望みを託すのであった。


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