第29.5話 勇者一行③
「アレナリア王国使節団の皆様、教皇陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」
そう案内された先には、大きな扉があった。
大理石のような白い石に、金色の装飾をあしらった重厚で壮麗な扉だ……
このサンピエトロ大聖堂を思わせる建物といい、“神都”というだけのことはある。
俺達はアレナリア王国の使節団という形でこの〈神都グラン=レオーラ〉へ来ている。
表向きは教皇への表敬訪問という形を取っているが、実際は“調べもの”をするのが目的だ。
オリオルス陛下を通じて〈神都図書院〉の利用許可を申請してあるため、この訪問が済めばすぐにでも向かうつもりだ。
ただ、これだけ雰囲気があるとさすがに緊張するな……
他の3人もいつもなら冗談を言い合ったり喧嘩したりと賑やかなものだが、今日限っては控室でも静かに大人しく待っていた。
「それではお入りください!」
目の前の扉が開かれる――
扉の向こうには、大きなホールのような空間が広がっていた。
真っ赤な絨毯が足元から真っすぐに伸び――その先には真っ白な装束を身に纏った男が玉座から訪問者を見つめていた。
玉座の男の前まで進み、片膝をついて頭を軽く下げる。
その際顔をチラリと見たが、大体40代くらいだろうか――
決して相手に威圧感を与える感じではないが、厳格さと聡明さを貼り付けたような顔つきをしていた。
「お初にお目にかかります。 私はノブユキ=トキタと申します。
本日アレナリア王国より使節団として神都にまかり越しましたので、訪問のご挨拶をと思い参上いたしました」
男は立ち上がり、ゆっくりと口を開く。
「よくぞ参られました。私はマルセル=スプリッツァー
――この〈レグーレス教団〉で教皇をしています」
……!
思ったよりフランクというか何というか……
見た目の雰囲気とは少しギャップがあるな――
「まあ楽にして下さい。名高き勇者たちの顔をよく見ておきたいんだ」
低い声と穏やかな口調でそう言うと、立ち上がった俺たちの顔を見つめてくる。
何だろう――この人の目は人を引き付ける何かがある……!
吸い込まれるようなコバルトブルーの瞳から目を離すことができなくなってしまった――
「なるほど―― 皆、若いのに戦士の顔つきをしている。
別の世界からやって来て世界を救う戦士たち……私が生きている間に会うことができようとは――」
教皇は胸に手を当て、神に感謝するように少しの間目を閉じる
「――今、この大陸は大きな騒乱の一歩手前にあるのです。
千年に渡って少しづつ蓄積されてきた“歪み”が……蓄えられてきた負の力が解き放たれようとしています。そうした状況で現れたあなた方勇者は、私にとって希望の光です。 どうかこの大陸のため、そのお力を遺憾なく発揮していただきたい」
「ありがたきお言葉、感謝いたします……!」
――それからいくつか言葉を交わし、無事使節団の役目を果たして玉座の間を後にした。
教皇が言っていた“千年の歪み”とは何なんだろうか……
俺たち自体はアレナリア王国によって召喚されただけの存在だ。
大陸を巻き込むような騒乱に巻き込まれるのは正直勘弁してほしい――
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「どうでしたかな教皇陛下―― かの者たちをご覧になって……」
「ああ、非常に興味深い者達だった。
この“眼”で見て確信した――“その時”を迎えた時、あの者達とは世界の中心で相まみえる事になるだろう」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
――さて、ここからが本番だ。
俺たちは神都の中心地にある〈神都図書院〉の前に来ている。
「じゃあ、二人とは一旦ここでお別れだな。“大仕事”お疲れさん!」
幸司が竜胆と誠に声を掛ける。
「もうあんなのは御免だよ…… あの教皇の目、見たかい? どう見てもあれは普通の目じゃなかった。見られている間は気が気じゃなかったよ」
真が人目もはばからず愚痴をこぼす。
「ちょっと! こんな所でそういうこと言わないでよ! 気持ちは分かるけどさ」
竜胆も余程堪えたのだろう、心なしか真に対する当たりがいつもより控えめな気がする……
「まあいいや、今日は観光でもして明日帰ることにするよ。 竜胆はどうするの?」
「私もせっかくだから色々見てこようかな…… 帰るときは一緒に帰りたいから置いて行かないでよ?」
「別に一人で帰ればよくない? 僕より強いんだからさ」
「まあまあ、元気が戻って来たのはいいが、ここでケンカはするな。 俺たちは基本的に単独で行動しない約束だろ?」
「はいはい、分かりました。ちゃんとお待ち申し上げますよ」
そんな“いつもの”やり取りをして二人を見送る。
「さて――時間がない。早速調べものを始めよう……行こう幸司」
「あいよ、今日を入れて6日間か……長いようで短いな。気合い入れて調べるとしますかね!」
図書院に入ろうとした時、後ろから声がした――
「おやおや! これはアレナリア王国からお越しになった勇者様ではありませんか! ――少し“お話”よろしいですか?」
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