第19.5話 勇者一行②

――アレナリア王国北東部 ピークス山脈――



「幸司! そっち頼んだ!」


山脈の麓、ゴツゴツと切り立った岩石地帯――

そんな場所に魔国が差し向けた大量の魔物が押し寄せる。


翼竜や地竜をはじめ、ゴブリン、魔狼、オークなどバラエティに富んだ構成だ。

大型の魔物に気を取られていると、小型の魔物たちが隙を突いて飛び込んでくる。


明らかに野生の魔物と違って訓練された動きをするため、俺達であっても一切気は抜けない。


「――任せろ! 爆炎魔法 《紅炎プロミネンス 》!!!」


地面から半径数メートルの爆発的な火柱が上がり地竜を直撃――

体長10m近い地竜は大きな叫び声を上げながらそのまま絶命する。



「幸司さん! こっちに《強化付与》下さい!」


「よおし、待ってろ真!《強化付与ストレンクス》!――信征!ここは俺達に任せて奥にいる魔族を頼む!」


「了解! 竜胆、真――幸司と組んでここを抑えてくれ!」


そう言って俺は敵軍の大将である魔族の元へ向かう。



こちらに来ておよそ9か月――俺達は強くなった。

すでに王国の騎士では相手にならない程の実力を付けている。


〈賢者〉である幸司は、攻防両面で優れた魔法を使いこなす。

味方を強化する付与魔法を得意とするため、幸司がいるといないとでは部隊の生存率が大きく変わってくる。


〈竜騎士〉の真は《竜化》という魔法で竜に姿を変えて戦うスタイルだ。

ブレスによる広範囲の攻撃はもちろん爪や牙を使った攻撃も強力だ。

契約した竜族を召喚して戦うこともできる。


〈魔導士〉の竜胆は火力だけで言えば、俺たちの中で一番かもしれない。

世界で竜胆しか使うことができない《反復魔法》を駆使し、超高速かつ連続で同一魔法を発動できるため圧倒的な殲滅力を誇っている。




魔族は数か月おきにピークス山脈の向こうから侵攻してくるため、俺達は嫌でも力を付けざるを得なかった。


南のガルフ帝国も頻繁に国境付近で小競り合いを起こすため、俺以外の3人は後方支援として出払うことが多く、俺達がこうして揃って戦場に立つのは久しぶりだ――



「光魔法 ― 《光槍ライトニング・スピア》 !」


無数の光の槍が出現し、奥に控える魔族へ突き進み閃光と共に着弾する。


その直後――

立ち昇る煙の中から剣を振りかぶった魔族が現れ、剣と剣が勢いよくぶつかり合う。


「貴様が勇者か……なるほど、凄まじい力を持っているな! 本当に忌々しい奴だ!」


そう吐き捨てる男の顔を見ると、頭からは二本の角が生え、目は爬虫類のように瞳孔が縦に割れている。


これらは魔族共通の特徴だ。

人間をはるかに上回る身体能力と魔力を持ち、非常に好戦的かつ狡猾な性格を持つ彼らは歴史上何度も人間と衝突してきたらしい。


物語の世界と違い、直にその殺意や敵意をこの身に受けると、嫌でも理解してしまう――彼らとは殺し合う運命にあるのだと。



本気の殺意を向けてくる目の前の魔族――

俺はやらなければならない……!



「《聖剣エクスカリバー》!!」


俺は昔憧れたあの聖剣の名前を叫び、剣に光魔法を載せて“聖剣”を作り出す。


切り結ぶ相手の剣は、徐々に欠け……亀裂が走り……真っ二つに割れる――


無防備になったその体にそのまま聖剣を振り下ろすと、魔族は絶叫と共に絶命したのだった。



「おおお!!! 勇者ノブユキが魔族を打倒したぞ! 皆一気に魔物を掃討せよ!!」


騎士たちの士気が上がり――まもなく魔物の大群の殲滅に成功する。




「今回の戦いはしんどかったな……!」


戦いを終えた幸司が大きく息を吐きながらつぶやく。


「地形が悪すぎだよ。遮蔽物も多いし、これじゃあ広範囲の殲滅がやりにくいから結局各個撃破になっちゃうよ」


竜化の利点をうまく活かせない地形での戦闘だったため、“部分竜化”を駆使しながらチマチマと戦わざるを得なかったことに真は不満がたまっていたようだ。


「それが向こうの狙いなのよ。 私たちが召喚されてから力押しだけじゃなくゲリラ戦や地形を利用した攻撃にシフトしてるわ」


「こっちとしても、標高とか麓の街からの距離を考慮すれば、ここで戦うしかなかったんだ……仕方ないだろう。 今日は幸司がいて、だいぶ被害が抑えられたのがせめてもの救いだよ」


「まあ、4人揃ったら怖いものはないので今回は別にいいですけど……ところで信征さん、やっと神都行きの許可が出たらしいですね。いつ行くんですか?」


「名目上は教皇に対する“表敬訪問”だけどな。教皇のスケジュール次第だが、3か月以内には実現しそうだ。 その時は皆行くことになるからよろしくな!」


「僕たちまで行かなくてもいいんじゃない? 〈レグーレス教〉だっけ、あまりいい評判聞かないから正直関わりたくないよ……」


「そういうわけにはいかないだろう……王が決めてきたことだし。

こっちの防衛もあるから挨拶が終わったら先に竜胆と帰っていいと思うぞ? 俺と信征は調べ物があるから数日滞在しようと思ってるが」



――以前カルヴァドス大迷宮の入口へ行って以来、王国内の書物を読み漁ったがどれも似たような記述しかなかった。


闇の刻印には最上級の闇魔法である《深淵魔法》が封じられていて、

持ち主の感情の昂ぶりや命の危機によって魔力の爆発的な発散現象である〈魔力災害〉を引き起こす――


この世界ではスキルは“神の恩寵”とされているらしいが、そうだとすればなぜ“恩寵”にそんな恐ろしい魔法が封じられているのか説明がつかない。


スキル研究が進んだ神都でもっと詳しく調べる必要がある……

やっと掴んだこのチャンスを必ず活かさなければ――



あれから何度か大迷宮の入口を訪れたが、決して中には入れさせてもらえなかった。

いつ行っても入口が開けられた痕跡はなかったから、まだ悠賀は中にいるということだろう――


俺もお前も昔から諦めが悪い。

だから俺はお前が死んだとは思っていない……!


いつか、必ず――



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


同時刻

――ガルフ帝国 南東部――



俺がこの地下へ連れて来られてからどの位経っただろう……

檻に入れられ、力が抜かれる妙な枷で手足を拘束されているため、全く身動きが取れない。


唯一檻から出られるのは“実験”の間だけ。

ファンネル=テトラクスと名乗る研究者に身体を好き放題いじられる毎日だ……


どうやら俺は“異世界”に来てしまったらしい。

それだけははっきりしている――


それに、俺の身体はもはやヒトのそれではないみたいだ。

メチャクチャに体を傷つけられても、瞬きをする間に回復するようになってしまった。


安藤 拓真(あんどうたくま)としての意識は残っているが、身体は別物になってしまった。

そんな得体のしれない恐怖がいつも俺の心を苛んでくる――


定期的に薬を打たないと何か恐ろしいモノに体を浸食されていくらしく、ファンネルが常に俺を監視している。


何で俺がこんな目に……


就職して、一生懸命働いて、たまに居酒屋で酒を飲む――

そんな当たり前の人生を送っていただけなのに何で……



誰でもいい、助けてくれ――

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