第36話 試運転と魔導士ギルド

翌日、オークの討伐依頼を受注し、人目に付きづらい森の奥地へとやってきた。

もちろん、新しい装備と新しい能力を試すためである。



収納バッグから魔鉄鉱を鍛えて作られた新しいナイフを取り出し、魔力を込める――


おお!面白いようにスルッと魔力が流れるぞ……!

いつもは太い注射器で液体を押し込むように魔力を流し込んでいたが、これは全くそんなことがない。

魔力の刃を飛ばす時などで特に役立ちそうだ――


工房で聞いた所によると、〈魔力伝導率〉が高いのだという。

鉱物だとオリハルコンやミスリルに次ぐ伝導率なのが魔鉄鉱らしい。

生物由来の素材だと龍族の爪や牙が圧倒的に高伝導率だと教えてもらった。


大迷宮で出会った黒龍の爪と牙を大量に持っているので、それを材料にして造ってもらおうかと思ったが、アイラから止められてしまった。


龍族の素材は多くの国で個人所有と売買が禁じられており、国が引き取って管理する事になっているらしい。

ただし加工されて武器や防具となった物については問題ないらしく、まずは本当に信頼できる鍛冶師が見つかってからこっそり加工を依頼した方がよいと言われたのだ。


ちなみにこのナイフは〈修復〉の“おまじない”が掛かっており、小さな傷であれば自動で修復してくれる代物だ。

これだけの性能でブーツと合わせて3金貨はやはり破格の値段だと思う。


「アイラ、そっちはどんな感じだ?」


「ああ、散々悩んで買った甲斐があった。――素晴らしい性能だ!」


そう言って魔弓を構え始めるアイラ。


火炎の矢フレイム・アロー》!


放った矢は赤い軌跡を残しながら近くの川端にあった大岩に炸裂し、勢いよく燃え上がった。


「威力も申し分ない。やはり《火属性付与魔法》が付いた指輪を買ってよかった! これでより戦いに幅を持たせることができそうだ」


魔力操作の補助性能が高いせいか、いつもより更に滑らかで力強い攻撃になっている。

アイラも満足しているようだし良かった。


「よし、それじゃオークを探しながら実践投入といきますか!」



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


――半日ほど経った頃


10体を超えるオークを倒し、実践で十分に使えることを確かめられた。


問題だった“魔力変換”についても、アイラから距離をとって実験をしてみたが全く問題なく機能し、半減した魔力の底上げとして実践でもかなり使えることが分かった。

引き出す“ともしび”の大きさと変換される魔力の量はもう少し検証が必要だが、大体の感覚は掴むことができた。


……ただし、自分が扱える魔力の範囲を超えて引き出すことも出来てしまうため注意が必要だ。

魔力災害も結局感情に任せて制御不可能なほどの魔力を生み出したことが原因であるから、今まで以上に“冷静に”この力を使わなければならない。



そしてもう一つ思わぬ収穫があった。

身体強化のランクが上がり、〈検索〉時の反動がだいぶ軽減されたのだ。

オーク相手に検索を使ったところ、今まで他の魔物に使ったときの数分の1以下の反動になっていた。


どうやら“身体”には脳みそも含まれるらしい。

これで街を歩く人々からスキル収集したり、装備に付与されている術式の解析はかなり捗るはずだ――


そういえばニドルのスキルを検索した時、限界まで体を強化していたのにあの反動だった……

もし普通の状態でやっていたらどうなっていたんだろうか――

想像すると少し恐ろしくなったので、深く考えるのはやめることにした。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


数日後――


俺とアイラはとある場所を訪れていた。


ラートソルの街中でも一際目立つレンガ造りの荘厳な建物――

ここは魔導士ギルドだ。


以前フーシャ村のカーフという女性から人には魔力の“適正”があるということを学んだ。

いつか行ってみようと思っていたのだが、ついに今日魔導士ギルドを訪れたのだった。



「何だかすごい建物だな……」


「魔導士ギルドは大体どこもこんな感じらしい……私の故郷にあるのもこんなだった。――それにしてもユウガが自分の適性を知らずに魔法を使っていたとは……見た限りではどの魔法も“怖いくらい”使いこなしていたように見えたが」


「今のところ苦手意識は特にないかな……? 術式さえ手に入れば後は検索で事象のイメージは引き出せるし――」


「まったく、呆れるほど規格外だなユウガは……これで《複合魔法》まで覚えられた日にはショックで寝込んでしまいそうだ」



そんなやりとりをしながら中に入ると、重厚かつ荘厳という雰囲気がぴったりな空間が広がっていた。

西洋の歴史ある大きな図書館――そんな雰囲気だ。


「こんにちは、本日はどのような御用でしょうか」


「魔法の適正を調べたいんですが――」


「適正検査ですね、かしこまりました。それではこの水晶に手を当てて魔力を流し込んで下さい」


そう言うと受付の女性は、カウンターからサッカーボール大の水晶を取り出した。

言われた通り水晶に手を当て、魔力を軽く流し込んでみる――


すると水晶の中に色とりどりの光の球が出現し、フワフワと漂い始めた。



「これはすごいです! 赤、緑、紫の光―― 三属性の適性をお持ちですね!」


「すみません、もう少し詳しく教えてほしいんですが……」


「ああ!すみませんでした。 この水晶は魔力を読み取って、各自の適正に応じた色の光の球を出現させるんです。 赤が火、青が水、緑が風、黄色が土といった具合です。 紫はとても珍しい時空魔法の適性を表します」


「なるほど、ありがとうございます。たしかアイラも三属性の適正だったな……」


「ああ、その通りだ。 ただユウガの場合――光の球の大きさがどれも大きい。これはそれだけ適正度が高いということだ」


「その通りです! 魔導士ギルドでは基本的に光球の大きさを小・中・大の3段階で分けています。大きいほど適正度が高く、術式の定着速度の向上や魔法発動時の魔力損耗が少なくなるのです!」


「光の球が出なかった属性は無適正ということなんですか? 一応水と土属性も使うことはできるんですが……」


「説明不足で申し訳ありません。先ほど基本的に3段階とお話ししたのは、あくまで簡易検査の場合なんです。

 魔導士ギルド加入者限定の機能で詳細検査というものがありまして、それを行うと6段階で適正をより詳しく知ることができます。無適正かどうかは詳細検査をしないと分からないんですよ」


まさか会員限定オプションがあるとは……! 

そういう所で優遇して加入者増加を狙っているんだろうな……



「ちなみにギルドの加入条件とかって教えてもらえるんですか?」


「一定以上の魔力量を持つ者、3属性以上の適正保有者、光や時空間などの希少属性の適正保有者が主な条件です。 つまりお客様なら大歓迎ということです!」


「はは……考えておきます」


これについては事前にアイラに止められているため、ここでギルドに加入するつもりはない。

年会費が年1金貨もかかることと、3年に1回ギルドに活動や研究の報告義務が発生するらしいのだ。

基本的に学者向けのギルドであるため、冒険者で登録しているのは余程の変わり者か研究職上がりの冒険者くらいしかいないのだという。



周囲の様子を確認し、アイラに小声で話しかける。


「アイラ……ちょっとごめん、これから水晶を〈検索〉するから、ぶっ倒れたら頼む……!」


「ちょ……いきなり何を――」



検索を発動し、水晶の情報入手を試みることにした。


……が、多少眩暈と目の奥に痛みのような感覚はあるものの、ほとんど反動もなく検索をすることができた。

恐るべし〈身体強化(大)〉スキル……


「よし、行こうアイラ」


「……? もういいのか?」


「ああ、宿で詳しく適正チェックといこう!」

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