第35話 魔力災害の真相

さて、ただぼーっとしているのも勿体ない。

待っている間に、命がけでニドルを鑑定して得たスキルをセットすることにしよう……!


カルズ村からの帰り道で付けようかとも思ったが、ニドルに怪しまれる可能性があったため先送りしていたのだ。

どうもあいつは“勘”がよく働くらしいからな……用心するに越したことはなかった。


鑑定画面でグレーアウトしている〈身体強化(大)〉……

これは絶対に付けたいところだ。


しかし、問題はどのスキルを外すかだ。

候補としては〈魔力強化(小)〉と〈偽装〉だが、前者は外すとガクッと魔力の量が減ってしまう。

以前試しに外してみた時には、体感で1/2程度になってしまった。

ただ、黒龍の血液パワーで常人よりは遥かに魔力は多い……はずなので、ニドル級の相手とやり合わなければそれほど困ることはないのかもしれない。


一方の後者だが、極端な話水晶に触れる時だけ付いていればいいのだ。

日常で使う必要はないため、通常は外していても問題ない。



――迷った挙句、当面は〈魔力強化(小)〉を外すことに決めた。

〈偽装〉を外すとまた同じスキル構成の者を探して触れる手間がかかるうえ、予想外のタイミングで鑑定をされた場合に対処できないと考えたからだ。


というわけで〈身体強化(中)〉と〈魔力強化(小)〉を外し、〈身体強化(大)〉をセットしてみる。



「――おお! 明らかに力の“みなぎり”具合が段違いだ……!」


中と大でここまで違いが出るとは驚きだ。

今ならニドルの腕だって粉砕できる――


というのは冗談だが、これで今度は腕力の面で後れをとることはないだろう。


改めてスキル欄を眺めてみる――


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 ユウガ=スオウ

 職業:商人、探究者

 スキル:闇の刻印、存在感知、身体強化(大)

 状態異常耐性(中)、自動回復(小)、隠密、偽装

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〈闇の刻印〉か――

こいつのせいで俺は大迷宮に飛ばされたんだよな……


試しにスキルをオフにしようとしたが何故かできなかった。正に“呪いのスキル”というわけだ……

結局魔力災害を起こしてしまい、紆余曲折を経て今に至っている。



――というか、そもそも魔力災害って何だ?

この刻印はアーカーシャへアクセスして“ともしび”を引き出す力だよな……?


何であんな大爆発が起きるんだ……?



“ともしび”……龍の始祖の言葉を借りるなら〈始まりの力〉――は、どちらかというと“情報”の蓄積がメインの性質だと認識している。

情報量に脳がオーバーヒートすることはあっても身体がはじけ飛んだりしたことはない。


何だろう……この部分の理解がないまま、この先へ進むのはすごく危険な感じがする……

黒龍はもう魔力災害を起こさないだろうと言っていたが、その保証はないのだ。

万一のことがあればアイラまで巻き込んでしまう――


まだ時間はある、もう少し考えてみよう。



一旦心を静め、胸の刻印に手を当てる。


初めて発動した瞬間――

魔力災害を引き起こした時の事を思い返す。


俺は暗闇の中、黒龍に追い詰められていた。

漂う瘴気と魔力で体も限界を迎えていた……

そこであの王たちを思い出して――



そうだ……! 魔力災害を起こす直前、俺は怒りと絶望で一瞬意識を失ったんだ。

そしてそこで胸から噴き出す強烈な“光”を見た……!


今なら分かる――あれは〈始まりの力〉だった。

あの瞬間、すでに俺は怒りに任せてアーカーシャから膨大な〈始まりの力〉を引き出していたんだ……!

そして意識が戻った時、刻印から業火が噴き出すような猛烈なエネルギーを感じて、その直後に魔力災害を起こしたんだ。


そうなると答えは絞られてくる……


あの時の真相は――

怒りを引き金として強引に〈始まりの力〉を引き出し、その力が何らかの原因で魔力に変換されたことで爆発的な力の発散を起こしたんだ。


明らかにあの猛烈なエネルギーは刻印から噴き出ていた。

とすれば、刻印には〈始まりの力〉を魔力に変換する力があるか、〈始まりの力〉はこちら側に来ると魔力に変質する性質を持っていると考えられる。



そうなると、後はどういう条件で〈始まりの力〉が魔力に変換されるか……だな。

あの時は刻印から出た時にはすでに魔力になっていた感じだった。



――こういう時は考えるより行動する方が分かりやすいだろう。


試しに指先程度の大きさの“ともしび”を引き寄せるイメージをしながら刻印に触れてみる。

――するとアーカーシャに行かなくても“ともしび”が近づいてくる感覚がするではないか……!


そのまま光を取り出そうとすると、刻印を通り抜ける時に青白い光を放ちながらパッと霧散してしまった。

この青白い光は、そう――魔力だ。



大きく息を吐きながら店の天井を見上げる――


これ以上は万一加減をミスした時に危険だ。

まわりに誰もいない場所で実験をしなくてはならない……


〈始まりの力〉を徐々に理解し、使いこなし始めていることに喜びを感じる一方、規格外の力に飲み込まれてしまうのではないかという一抹の不安も顔を覗かせるのであった――



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


どのくらい時間が経ってしまったのだろう。

そろそろアイラの元へ戻らねば――


売場に戻ると、丁度アイラが会計を済ませたところだった。

こちらを一目見るや否や、駆け寄ってきて心配そうに尋ねてくる。


「何かあったのか?すごく疲れているようだが……いや、よく見ると――興奮しているのか……!?」


魔眼恐るべし、一瞬でばれてしまった。

肉体は疲れているのに心は興奮している俺を見て、アイラは大いに怪訝な顔をしている。



「――なあ、疑うわけではないんだが、私がいない間に何をしていたんだ?何を」


疑っている……疑っているぞアイラさん。

何かあらぬ誤解をしていると思うぞアイラさん。



「い、いや違うんだ!変なことはしていない……いや、普通のことでもないが――」


変な言い訳をしても仕方がないので、正直に洗いざらい話した。

刻印の力でほぼ無限に魔力を抽出できそうだという話をすると、何故か悲しそうな顔をしてしまう。


「何だか……ユウガがどんどん人間を辞めていく気がする。私も頑張るから、置いていかないでほしい――」


「置いていくわけないだろ…… 一緒に居たいから強くなるんだ」


我ながら恥ずかしいセリフを吐きつつ、どうにかその場を繕ってロドス工房を後にするのだった。

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