第26話 鍛冶の王国

翌朝、いやもう昼か――


軽く食事を済ませ、足早に出発する。

昨日の夜にアイラスと話し、すでにロクステラの次に行く場所も決まったからだ。



エール王国――

ロクステラの西に位置する小さな国で、アイラスの故郷だ。

この国には種族の差別がなく、様々な者たちが対等に暮らしているらしい。

そして、アイラスの両親もその地に眠っている――


遠い昔に召喚された勇者「エイル=カンザキ」が作った国なんだそうだ。

カンザキって日本人だよな……

どんな国なのか、今から楽しみで仕方がない。


昨日アイラスが言っていた通り、俺は基本的にこの異世界が好きなんだろう。

新しい技術や魔法、新しい出会い――

沢山の発見に満ちたこの世界をもっと回りたい……!


そんな思いを胸に、新しい仲間と気分を新たに旅を再開するのだった。




「待ってくれ! その……昨日の今日でちょっとまだ――もう少しゆっくり歩こう」


寝不足ぎみで、その上朝が弱いというアイラスは寝ぐせも直さず俺の後を付いて来る。

その様子に、いけないと思いながらつい笑ってしまう。




――まあ、今日のところはのんびり行くのもいいかな。





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「えっ! ユウガって年上だったのか!?」


ロクステラへの道中、俺が年上だということが余程意外だったのか、アイラスは大きな声を出してしまう。



「――っと、すまない……こういう油断の積み重ねが命に関わるんだ……!」


このパンデオン大森林は世界屈指の危険地帯であるため、大きな音を立てるのは魔物に見つかるリスクが高いのである。

俺自身、仲間ができたことが嬉しくて、何となく二人でピクニックにでも来ているような気分だったことは否めない。

改めて存在感知に集中して周囲の様子に気を配りつつ、少し小声で話をする。



「今は……26歳かな? 正直、迷宮の中で時間と日付の感覚がなくなったから正確なところは分からないんだ」


実際こっちに来てからどのくらい経つんだろうか……?

前にウィラムさんから1年は12か月、日数で360日であることを教えてもらっているから、こっちの世界でもうすぐ1年ってとこか。

正確な日数は信征たちに聞かないと分からないな……



「そういうアイラスはいくつなんだ? エルフって確か物凄く長生きでいつまでも若いんだろ?」


アイラスはわざとらしく少しむくれて答える。


「女性に年齢を聞くのは感心しないな~ まあそんなことを気にする年齢でもないが」


コホンと軽く咳ばらいをして呟くように言う。


「……ついこのあいだ18歳になった所だ」



「ぶっ!!」


年齢を聞いて思わず飲んでいた水筒の水を吹き出してしまう。



「そ、そうかそんなに若かったのか……というかまだ子ど…」


言い終える前にアイラスの肘がわき腹に入り、俺は再び水を吹き出しそうになる。



「私の国では15歳で成人だ!私は立派な大人だぞ!」


口調は大人びているが、たまに子供っぽい仕草を見せたのはそういうことか。

とりあえず“物の本”でありがちな100歳越えのお姉さまでなくて安心した――


「ちなみにハーフエルフは人間より長生きだが、寿命は精々200歳くらいだ。

あ……あと私のことはアイラと呼んでほしい……嫌でなければだが」



「分かった……そうさせてもらうよ、アイラ」


何だかむずかゆい感じはするが……悪くない。



「とはいえ、年上にこの口調は失礼だったか? もし気に入らなければ変えるよう努力するが……」


「別に気にしないさ。冒険者ってそういうもんだろ?」



アイラはにっこりと笑い、大きく頷く。


「さあ、早く先へ行こう! もう少しでロクステラ王国の王都ラートソルが見えてくるはずだ!」


そう言ってどんどん走って行ってしまう。



「おーい、待ってくれ! 無理するなよー!」




特段手ごわい魔物に襲われることもなく、俺たちは日が暮れる前にラートソルの城門へ辿り着く。


大小2つの門が並んでおり、大きい方には馬車に乗った商人や武器を担いだ冒険者など数百人が並んでいた――



「まさかこれに並ぶのか……?」


「我々はこっちだ! 銀級以上の冒険者は入国手続きが簡略化されるんだ」


そう言ってアイラは小さな門の方へ歩いていく。



「銀級冒険者のアイラスだ。こっちはパーティーメンバーのユウガ――入国許可を頼む」


慣れた様子で門番へ声を掛けるその後ろ姿に、何とも言えない頼もしさを感じる。


冒険者プレート見せ、水晶の情報と照合する門番――小柄だが屈強そうな体格をしているな。

これがドワーフという種族か……もっと小柄なイメージだったが、人間の女性くらいの身長はあるんだな。見た目も人間と変わらないし……



「よし、通っていいぞ!」


「ようこそ、ロクステラ王国へ!」


城門をくぐり、視界に飛び込んでくる街並みを見回して思わず息をのむ――



「これは……すごいな――!」


目の前にまっすぐ伸びる大通りを挟むようにして、所狭しと店の建物が並んでいた。

一本横の通りに目をやると、モクモクと煙を上げる建物がひしめいている。

――鍛冶の王国と言われる所以だ。




ロクステラ王国は大陸の南東部にあるドワーフの王国で、建国は神暦500年――今から1500年位前だそうだ。

非常に高品質な鉱石・金属素材を産出するため鉱業が盛んで、その豊富な資源を背景に鍛冶業が栄えているらしい。



「――とまあ、ここの装備品は世界最高の品質なんだ」


アイラスは蘊蓄うんちく含めて興奮ぎみに語ってくれた。



「魔法術式を付与した装備が欲しいのだが、やはり高くてな……いつか全身の装備をロクステラで揃えたいものだ」


確かに以前フーシャ村の行商で見かけた装備は素晴らしいクオリティだった。

しばらくはここを拠点にして軍資金を稼ぐとしよう。



「ちなみに、秘術の《金属魔法》を駆使して制作されたミスリルやオリハルコン装備は一般には出回らないんだ。今言った魔法術式の付与技術を含めて国の直轄で厳密に管理されていて、ほぼ外交材料として使われていると聞く」


ミスリルにオリハルコン……!

あの“定番の金属”もこの世界にあるのか!

是非手に入れたい所だが、思ったよりハードルは高そうだ……

これからその辺の情報収集も必要になるな……!



とりあえず当面の拠点を確保しなければと思い、方々を歩き回って良さげな宿を見つけては尋ねるが、どこも満室だと断られてしまう。


これだけ多くの人々が溢れているのだから、それも必然だろう――

仕方なく大通りから数本外れた路地にある宿を探し、何とか泊まることができた。


一部屋しか空いていなかったが、アイラが問題ないと言うので代金を支払う。


……本当にいいのか!?

まあアイラがいいなら俺は全く問題ないが……



今日の宿は朝食夕食付きで一泊あたり1銀貨だ。

アナナスの時より更に高いな……

しっかり依頼をこなさないと装備を買うどころじゃなくなってしまう。



明日の朝一でギルドへ行こうとアイラへ告げ、夕飯を食べてその日は休むことにした。

昨日は一緒に洞窟で夜を過ごしたとはいえ、ふたりで布団に包まるのは気恥ずかしい感じがしたため俺は床で寝ようとしたが、アイラスが一緒にベッドで寝るよう言ってきかず、仕方なく一緒に寝ることに……



「お休み ユウガ――」


明かりを消す間際、アイラは額に軽くキスをする。


その後は特に何もなく、若干悶々としながらしばらく布団の中で過ごしていたが、

疲れもあっていつの間にか眠ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る