第16話 お金の授業とはじめてのおつかい
家に戻るとすでにフリンが夕飯の支度をしており、部屋の中には食欲を誘うおいしそうな香りが漂っていた。
「おかえりなさい! 無事に帰ってきてくれてよかった……!」
「ただいま、目当ての薬草は見つからなかったけど、色々採って来たから後で渡すよ。――そう言えば広場に行商キャラバンが来ていたけどフリンは行ったかい?」
「さっそく行ってきました! ロクステラにしか売ってない石鹸があって、家の予備が少なくなってたから思い切ってまとめ買いしちゃいました! そうしたら一つおまけしてもらったんですよ!」
料理の手を止めてやや興奮気味に語るフリン。
――危険な場所に薬草採集に行く“おてんば”少女だと思っていたが、何だかんだフリンも女の子だな。
確かに風呂場にあった石鹸はいい匂いがした上、使い心地もかなり良かった。
「それはよかった。俺も明日少し買い物してこようと思うんだけど、恥ずかしい話こっちのお金の価値をよくわかってなくて…… 銀貨と金貨って銅貨に換算するといくらになるのかな……?」
「えーっと、1銀貨は100銅貨で、1金貨は100銀貨だから……えーっと……」
「1万銅貨……ふっ、計算は苦手なんだなフリンは」
「そ、そんなことないですよ! カーフさんに算学習ってますから……!今のは後ちょっとで答えられたんです!」
「そうかそうか、じゃあ俺は部屋にいるから、何かあったら声を掛けてくれ」
フリンの頭を撫でつつ部屋へ向かうのだった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自分の部屋に戻り、収納バッグから軍資金を取り出す。
今までお金を使う機会がなかったため、テオドールさんが持っていた金貨や銀貨の価値を確認していなかったが、丁度いい機会だ。
今後のためにも物の相場を把握しておくとしよう。
――露店や帰り道で覗いた店の売値は大体こんな感じだった。
パン :2銅貨
食堂の定食 :4~8銅貨
村の宿 :30銅貨
ポーション :50銅貨
マナポーション:5銀貨
さっきのフリンの話も含めてこれらを総合すると、大体1銅貨は日本円で100円程度、1銀貨は1万円、1金貨は100万円と見当をつけることができた。
テオドールさんのバッグに入っていたお金を数えると金貨2枚、銀貨25枚、銅貨60枚――何てこった、結構な金持ちじゃないか俺は……
だが待てよ、露店に売っていたあの剣は10金貨と言っていたな。
――日本円で1000万円とは……とんだ名品だったようだ。
村長が言っていた冒険者という仕事は、どの程度の収入が得られるのだろうか……
収入が安定するまでは出費を控えてこのお金を大事に使うとしよう。
「ただいまー!」
玄関から元気な声がする。フロウが帰って来たようだ。
皆が揃ったところで夕食タイムが始まる――
「なあ、あのキャラバンはロクステラ王国って所から来たんだっけ? 商人は騎士や冒険者の憧れの的って言ってたけど、フリンやフロウはロクステラに行ったことはあるかい?」
その質問にフロウが興奮気味に答える。
「まだ行ったことはないんです。でも僕もいつかロクステラに行って自分だけの装備を作りたいと思っています……! ロクステラはトゥリンガの南にあるドワーフの王国で、世界一と言われる品質の装備を生産しているんですよ!」
「――なるほど、確かに露店で見た剣は素晴らしい逸品だった。俺も早くお金を稼いで装備品くらいは整えないといけないし、今度アナナスに行って冒険者登録をしてこようと思ってるんだ」
「えっ、ユウガさん行っちゃうんですか!? まだしっかり恩返しもできてないのに……」
フリンが早くも薄っすら涙を浮かべてしまったが、セラさんが優しく頭を撫でて諭すように声を掛ける。
「だめよフリン、ユウガさんを困らせてはいけませんよ」
「セラさん達には十分すぎるくらい良くしてもらいました。あと2、3日したら出発するつもりです。 アナナスで用事を済ませたらまたフーシャ村に顔を出させてもらいますね」
「絶対寄って下さいね! 絶対ですよ?」
「僕も待ってます! 少しでも強くなってユウガさんを驚かせてみせます」
「ああ、もちろんだ! お土産も買ってきてあげるから欲しいものがあったら言ってくれ」
短い期間だったが濃いひとときだった。
もっと長居したくなってしまうが、本来の目的を忘れてはいけない。
生きてさえいれば、またいつでも会うことができる。
「まだ魔法も練習中だし、ちゃんと卒業してから行かないとなあ。――そうだフリン、明後日の午後カーフさんに会いたいんだけど伝えてもらってもいいかい?」
「分かりました。確かに伝えておきますね!」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
――翌日
早速朝一で広場に向かうと、露店はすでに賑わいを見せていた。
これから旅をするにあたって用意しておきたいもの――
服と替えのナイフ、それに水を入れる容器だ。
早速、昨日目を付けておいた店をまわり、手際よく目当ての品を調達していく。
最後に服を品定めしていると、フリンが後ろから近づいてくるのに気づいた。
詳細感知にしていなくても、見知った者であれば後ろから来てもちゃんと分かるのだ。
すぐに声を掛けるでもなく、後ろでコソコソとしている。
少し驚かせてやろうかな……
「なあフリン、どれがいいと思う?」
「えっ!? 何でばれてるんですか!? 後ろから飛びついて驚かそうと思ったのに!」
小さな逆ドッキリに成功し、笑いながらフリンの方へ振り向き頭を撫でる。
「服を選んでるんですか? 私は今着ている珍しい服も結構好きですよ!」
「ああ、いつまでもこの格好だと目立つからなあ。それに大分ボロボロになってきてるから買い替え時なのさ」
あれだけ過酷な状況を一緒に切り抜けてきた頼もしい相棒だ……
二度“爆散”したはずだが、自分と同じくしぶとく復活して生き残った正に“体の一部”でもある。
少し惜しくはあるが、この世界の服に合わせておいた方が今後何かと都合がいいだろう……
「なら私に選ばせて下さい! こう見えて結構服選びの才能があるんですよ!」
そう言ってフリンが半ば強制的に服を選びはじめる。
大丈夫かな……?
あまり奇抜な服はさすがに勘弁してほしいが……
などと考えていると、確かに言うだけあって意外と悪くないセンスだ。
算数は勉強中とはいえ――料理も美味いし家事もテキパキこなすし、魔法も使えるなんて少し出来すぎな気がするが、やはり家庭環境がそうさせたのだと考えると少し複雑な気分になる。
「ありがとう。せっかく選んでくれた服だ、大事に着させてもらうよ」
上下の服に靴も含めて、しめて銀貨1枚。中々いい買い物だったように思う。
「さて、魔法の練習も兼ねて森へ薬草採りに行ってくるよ。夕飯までには戻る」
それから森へ行ったが、今日も目当てのパンデオン・キュアグラスは見つからなかった。残念だが仕方ない、それでもフリンは沢山の薬草を喜んでくれたようだった。
明後日でお別れだと思うとやはり寂しいものだ……
まあアナナスから戻ればまた会えるだろうし、その時まで湿っぽいのは無しにしよう。
明日は大迷宮で大蛇を倒した時以来、2度目の“卒業試験”だ。
まずはそれを無事終えることを考えなければ。
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