第15話 キャラバン
――森の中に入り、存在感知の出力を上げて“詳細感知”に切り替える。
地上での存在感知の扱いにもだいぶ慣れてきた。
大迷宮の中では視界がゼロだったため、常に視覚の代わりになるくらいの精細な感知を必要としたが、地上でそれをやり続けると目で見た光景と感覚で入って来る光景が脳でぶつかり合ってしまうのだ。
そのため、普段は半径100m位の範囲で位置と大きさをざっくりと把握できる程度に出力を抑え、詳しい状況把握をする場合に詳細感知に切り替えることにしている。
そんな存在感知を駆使しながら薬草探しを始める。
約100mずつの間隔で移動しながら範囲内を探索し、図鑑に載っている主だった薬草を採集していく。 その間にカーフさんの家で学んだ魔法の宿題もこなす多忙ぶりだ。
――魔法陣を〈検索〉したとき、頭に飛び込んできたのは無数の火球のイメージだった。
なぜ魔法陣を検索するとこんなイメージが見えるのか分からなかったが、詰まるところ魔法陣とは事象を図式化したものなんだろう。
一体誰がこんな途方もない技術を発明したのだろう……
日本にいた時は、様々な機械や科学技術が急速に発展し続けていることに言い知れぬ恐れを抱いたものだが、この魔法陣という代物を検索した時も同じような感覚に陥ってしまった。
この平面に“事象そのもの”を落とし込む発想力と技術……
明らかにこの数日見てきた文明レベルとはかけ離れている。
獣人たちは魔法が苦手と言っていたからこの手の研究は盛んではないだろうが、人間たちの国ではこの水準が当たり前なのだろうか――
そんな疑問は一旦脇に寄せておくとして、検索によってより明確な事象のイメージを引き出せた事が功を奏してか、思ったよりすんなりと魂に術式が定着したようだ。
試しに近くにあった崖に右手を向け、検索で引き出した火球をイメージしながら魔法陣のイメージを重ねると、手から魔法陣が出現し火球が飛び出した。
「おお、いきなり成功か!」
カーフさんが言っていた〈詠唱〉の要素は完全に無視してしまったが、それはまた今度聞くとしよう。
原理としてはさっきやった事が根本だとみて間違いないはずだ。
《
今度は声に出して魔法を放つ。
なるほど、声に出した方がイメージの“ローディング”が早い気がする……
どうやら詠唱は魔法を放つ時の補助的な機能を担うらしい。
最終的には無詠唱に落ち着くのかもしれないが、声に出した方が“様”になるので今後も詠唱はするようにしよう。
「さて、ここから先はどうするかな――」
今魔法の練習をしていたこの崖は、フリンが言っていたやつだよな……
登るのはわけないが、戻る時間を考えると無理してこれを超える必要もないだろう。
それなりに薬草も集まったし、そろそろ戻るとしようか。
出発前フリンから、奥地に行き過ぎると〈エルフ〉がいるため、崖より先に行かないよう言われていた。
正直エルフには会ってみたい気持ちもあるが、獣人族とは比べ物にならないほど排他的な種族らしいので、一旦諦めることにしたのだった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
来た道を急いで戻り、何とか日が沈む前に村にたどり着くことができた。
村内を歩いていると、何やら中央の広場が賑やかだ――
気になって広場を覗いてみると、どうやら行商人が来ているらしい。
露店形式で所狭しと商品が並べられており、村人達が人だかりを作っている。
行商人の中には人間も多くいたが、村人たちは特に気にするそぶりはない。
きっと何度か行商で立ち寄った実績があるのだろう。
獣人たちとの付き合いは短いが、一旦気に入れば人間であろうと友好的になる大らかな種族だということは何となく分かっていたから、それ程気にはならなかった。
辺りを見回していると丁度村長がいたので話を聞くと、この行商人達は〈ロクステラ王国〉とトゥリンガを往復するキャラバンなのだと言う。
「キャラバンはフーシャ村に2日間滞在してアナナスへ向かうのです。今のうちに旅に必要な物資を揃えておくことをお勧めしますぞ」
なるほど、確かにこれから旅をするにあたって必要なものはいくつかあるな……
だが、まずは物価とお金の価値を調べなくてはならない。
「とりあえず、少し見て回って相場を下調べしておくかな……」
ブラブラと歩きながら観察していると、珍しい日用品やポーションなどの薬、武器や防具類など、あらゆるものが売られている。
薬草類の買取も行っているようだ。
馬車から商品を出している者もいれば、カバンから次々に商品を出して“ござ”のような物の上に並べている者もいる。恐らくあれも次元収納が付与されたバッグなのだろう。
とある露店の一つを通り過ぎようとした時、そこで売られていた一振りの剣に目が留まる。
大きな鉈のような形をした片刃の剣だが、鉈と違って切っ先部分は美しい曲線を描いている。
素人目にも素晴らしい逸品であることが分かるほどに洗練されたデザイン――それでいて実用性が根本にあることを忘れていない作りになっているのだ。
ジーっと眺めていると、わずかだが刃の部分から魔力のような波動が出ていることに気付く。俺があまりに熱心に商品を見ていたため、商人が金貨10枚だがどうするかと尋ねてくるが、さすがに買えないため丁重にこれをお断りした。
「随分な業物に見えますが、これはどこで作られたんですか?」
「もちろん鍛冶の王国ロクステラさ! これだけの質の剣は世界広しと言えどロクステラでしか作れないよ!」
そう言って商人はこの剣に施された“仕事”について得意げに説明を始めるのだった。
――話を総合すると、どうやらロクステラは武器防具で有名らしく、世界中の騎士や冒険者の憧れの的になっているとのことだ。
その後もいろんな店を一通り見て回り、物の相場が何となく分かってきたため、“作戦会議”をするために一旦フリン達の家に戻ることにするのだった。
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