第13話 トゥリンガの地

――翌朝


久方ぶりの風呂と美味しい食事のおかげで自分でも驚くほど気持ちよく目覚めることができたため、少し村の中を散歩することにした。

丁度朝日が昇り、柔らかな陽光が差し込んでくる――


軽い足取りで気分良く村の中央広場をぶらついていると、奥の方から一人の老人がこちらに向かって歩いてくる。

どうやらこちらに用があるようで、老人は俺の前まで真っ直ぐ歩み寄ると、その場で立ち止まってゆっくりとお辞儀をした。



「ほっほっ……そう警戒せんで下され。――随分と早いお目覚めですな」


「ええ、短い睡眠がクセになっているもので……それでも今日はかなり長く眠れた方なんですよ」


「冒険者とはそういうものなのでしょうなあ。――申し遅れました、私はこのフーシャ村の村長をしているサジムという者です。フロウとフリンの命を助けていただいたこと、お礼を申し上げたい」



この老人が昨日フロウが言っていた村長か。

後で会いに行こうと思っていたが、向こうから来てくれるとは……


「ユウガ=スオウと申します。今回ご縁があってこのフーシャ村に立ち寄ることとなりました。村に留まることをお許しいただきありがとうございます」



「ほっほっ、これはご丁寧にどうも。冒険者らしからぬ物腰の柔らかさですな」


少し驚きながらも感心した様子の村長。

どうやら俺のことを冒険者だと思っているらしいが、ここはどう答えるべきか……



「実は、自分は異国から流れてきた者でして――冒険者ではないんです。 冒険者になろうと思っているのですが、まだ来たばかりで勝手がよく分かっていなくて……」



「ほほう、それは珍しい。 獣人に抵抗がなさそうなのもそれが原因でしたか」


「フリンたちの会話でも薄々感じていましたが、人間と獣人の間には何かわだかまりがあるんですか……? 今後のためにもちゃんと知っておきたいんです……差し支えなければ教えていただけないでしょうか」



村長は少し考え込むようにして口ひげを撫で付けていたが、しばらくして静かに話し始める。


「――では、順を追ってお話しましょう。まず今我々がいるのはこの〈パストール大陸〉の中部〈ピークス山脈〉の東麓にある〈トゥリンガ〉と呼ばれる地域です。ここまではよろしいかな?」


おっと、いきなり色々な固有名詞が出てきたな……

貴重な情報だ、しっかり頭に入れよう。



「は、はい。まだ大丈夫です……!」


「よろしい。今話したピークス山脈の東はほとんどが〈パンデオン大森林〉と呼ばれる広大な森林になっていて、その広さはパストール大陸のおよそ半分の面積なのです……! この村はその丁度南西部にあるのですが、世間では外の生物を寄せ付けない危険な森と認識されておるのです。――なぜ我々はそんな場所に住んでいると思われますかな?」



「――恐らくですが、何らかの原因で追いやれられてしまったのではないかと……」


「そうです。元々獣人族は人間に忌み嫌われる存在だったのですが、その中でも特に大陸の覇者〈ガルフ帝国〉は古くから我々獣人を敵視し、虐殺や奴隷化を繰り返してきました。 元々獣人は帝国がある大陸中西部の平原を住処としていましたが、帝国の人間によって次々に東へと追いやられていったのです……」



またガルフ帝国か……確かあの王の話にも出てきたな。

あそこの国にも攻め込んでいるようだし、本当にやりたい放題じゃないか。



「――そこで登場したのが先々代の族長でした。我々の祖先を率いてこの大森林を切り開き、現在のトゥリンガの礎を築いたのです。いわばここは獣人の最後の安住の地ということですな」



「……なるほど、そういうことだったんですね。 話しづらい内容だったのに教えていただきありがとうございました」



「ほっほっほ、ユウガ殿は他の人間とは少し違う空気を持っておられるようだ。 あなたにはキチンと事実を知っておいて欲しいと思ったのです」



何となく、この世界における諸悪の根源は帝国なのではないかという考えがよぎる。

――旅を続けていれば、いずれ帝国を訪れることもあるかもしれない。

一体どんな国なのか、その時に真実を見定めるとしよう……



「さて、年寄りの長話に付き合わせてしまいましたな。引き続きゆるりとお過ごしくだされ。 ああ、あと一つ……冒険者登録するのであれば西の〈アナナス〉へ向かうとよいでしょう」


そう言って村長は来た道を引き返していった。



アナナスか……

この村の滞在が一段落したら、次の目的地はそこにしよう。


とりあえずフリン達が心配するといけないから戻るとするか。

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