第3話 鑑定
「今から皆さまにはこちらの水晶を使って、ご自分の“力”を知っていただきます。一人ずつこの水晶に手を触れてもらうとしましょう。――なに、危険なものではありませぬ。さあこちらへ」
レディーファースト――というわけではないだろうが、コーエンに促されてまずは竜胆から水晶に手を触れる。
その瞬間、よくある“ウインドウ”のような画面が浮かび上がった。
「おお、実際に見るとこんな感じなのか!」
皆は周りに集まって、興奮気味に画面をのぞき込む。
――どうやら名前、職業、スキルが表示される仕組みのようだ。
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リンドウ=アヤセ
職業:魔導士
スキル:魔力強化(大)、魔力感知、
魔導補助(極)
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竜胆の画面を確認すると、玉座の間に驚嘆の声が響く。
どれか一つ持っているだけでも各国の騎士団から即勧誘が来る程のスキルらしく、それを複数持つというのはとんでもないことなのだという。
「これは《鑑定魔法》という魔法の一種です」
コーエンが興奮する周囲をなだめながら解説を加える。
これも古代文明の遺産で、各地のギルドや入国時の検問で使われているそうだ。
竜胆の鑑定が終わり、それぞれ順番に手を触れていく――
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マコト=タケダ
職業:竜騎士
スキル:身体強化(中)、状態異常耐性(大)、
感覚強化(大)、竜言語、真実眼
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コウジ=エンドウ
職業:賢者
スキル:身体強化(中)、魔力強化(大)、
魔力感知、生命感知、魔導補助、
状態異常耐性(大)
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……次は順番で行けば信征か。
どうせ勇者はあいつだから、“トリ”は信征に飾ってもらう方がいいだろう……
そう思って俺は水晶に手を伸ばす。
「おいおい、次は俺の番だぜ! 順番は守らないとな!」
信征はそう言うや否や水晶に手を触れてしまう。
「……まったく、“勇者様”の後に触れる俺の身にもなれっての」
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ノブユキ=トキタ
職業:勇者
スキル:身体強化(極)、魔力強化(極)、
魔力感知、生命感知、魔導補助、
状態異常無効
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王を含めて周囲は今日一番の大歓声である。
やはり……というべきか流石というべきか、勇者は信征だった。
ほんの少しだけ“大番狂わせ”を期待していたが、そんな期待は一瞬で儚く散ってしまったのだった。
もういい、周りが騒いでいる内にさっさと触れてしまおう――
そう考えながら“そそくさと”前に出て水晶に触れると、胸の前あたりにウインドウが表示される。
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ユウガ=スオウ
職業:商人、探索者
スキル:闇の刻印、気配感知、身体強化(小)、
状態異常耐性(小)
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――いや待て!
……何だか俺だけ貧弱じゃないか???
他の奴らはいかにも、という感じの職業やスキルだった。
自分は職業が二つあるとはいえ、さして珍しいものには見えない。
スキルも……他が大やら、極やら中二男子垂涎の文字が並ぶ中で明らかに見劣りする気がする。
ただ、この〈闇の刻印〉という“中二の心”をくすぐるスキルは何だろうか。
他の能力が貧弱な分、このスキルに全振りしているということか……?
――等と考えを巡らせる後ろから、突然大きな声が聞こえてくる。
明らかに勇者の誕生を喜ぶ歓声とは違う、悲鳴に近い叫び声だ。
皆、一斉に声がした方向へと振り向く。
「や……闇の刻印です!」
傍にいたローブの男が放った言葉を聞き、腰を抜かさんばかりにうろたえるコーエン。先程までの恭しい態度はどこへやら――おびえた目でこちらを見ている。
その怯えは瞬く間に他の取り巻きにも伝播していった。
「何……ということだ……!」
王すらも目を大きく見開いて体を震わせる中、追い打ちをかける様に耳をつんざく金切り声が玉座の間に響き渡る。
――その声の主は王妃だった。
先ほどの気品溢れる顔からは想像できないような“般若”の形相で喚き散らしている。
「今すぐ! 今すぐに処理しなさい! 早ぁぁあああく!!!」
あまりの豹変ぶりに脳みそが追い付かない。
もはや顔芸の域に達しているその変わりように、笑いすらこみ上げてくる。
「待ってください! 一体どういうことなのか説明をお願いします!」
信征が後ろから駆け寄り、王たちの前に立ちはだかるように割って入る。
――すれ違いざまに上着のポケットを触られたような感触があったが、そちらに気をやっている余裕がない。
王は一旦王妃を退席させ、強張った表情のまま話しはじめる。
「ユウガ殿が持つ〈闇の刻印〉は――古来より幾度も惨劇を引き起こしてきた、呪われた悪魔のスキルなのだ……!」
「……どういうことですか!? そんな曖昧な表現では分かりません……もっと詳しく教えていただきたい!」
信征はなおも追及の手を緩めない。
「詳しいことは分かっておらん。だが、そのスキルの持ち主は体のどこかに特徴的な刻印を持ち、極度の感情の昂ぶりをきっかけとして大規模な〈魔力災害〉と呼ばれる爆発現象を起こすのだ」
そう語る王の体は震え、顔面は蒼白になっていた。
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