第2話 謁見

目を覚ました5人は長い廊下を歩いたあと控室に通され、王との謁見までしばらく休むように告げられる。


皆緊張した面持ちで、場は静寂に包まれる――


やがて誰からとなく口を開き、友人2人と男女1名はそれぞれ自己紹介を始める。



武田 真(タケダ マコト)と名乗った青年は、あの居酒屋でバイトをしており、丁度支度を終えて帰るところで巻き込まれたらしい。

一応高校生だが、ほとんど通学しておらず、バイト以外は基本的に引きこもっているとのこと。

初対面でそんなことまで話してしまうなんて……それだけ動揺しているのだろう。


綾瀬 竜胆(アヤセ リンドウ)という名の女性は、先ほど会計をお願いした時に声を掛けたあの子である。

同じく居酒屋のバイトで、今年から近くの大学に通いながら働いていたとのこと。

きっぷのよい感じは相変わらずだが、どことなく不安そうな表情をしている……


お互い自己紹介を終え、現状について意見交換をする。

竜胆以外は皆、“異世界モノ”の小説や漫画を見たことがあったため、やはりこれは“そういうこと”なんだろうという結論に至った。


なぜ言葉が通じるのか、魔法は使えるのか、自分たちはこれからどうなるのか……

あれやこれやと、話題は尽きることがない。


衣服はというと、全員向こうの世界と同じ格好でこちらに渡ってきたようだが、それ以外の持ち物はなくなっていた。



「ちょっと待ってくれ」


信征が左手を見ながら皆に話しかける。


「ご丁寧に薬指にはまっていたから気づくのが遅れたが、この指輪は俺のじゃない」


そう言って結婚会見をする芸能人のように指輪をこちらに向けて見せる。


――確かに、シンプルなデザインだが、施されている装飾は見たことがない生物を象ったデザインだ。宝石に至っては、中に銀河系のような光の粒子が渦を巻いている……


どう見ても“こちら側”の意匠だ。

幸司と二人して“勇者枠”はお前かといじると、満更でもないような顔をするのだった。




1時間ほどして――

控室の扉が開き、王が待つ玉座の間へ案内される。


「此度は突然このような形で呼び出してしまい、すまなかった」


50後半から60代位だろうか……

王とおぼしき威厳に満ちた男性から開口一番出たのは、謝罪の言葉だった。

傍らには、同じ位の年齢だろう――王妃とみられる美しく気品に満ちた女性が静かに頭を下げている。


「予はアレナリア王国 11代目国王 オリオルス=アレナリアである。――〈勇者召喚の儀〉によりこの世界に降り立ったそなた等に、助けを乞いたい」


そう言い放つと、低く伸びのある声で続けて説明する。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


・国の東側にある山脈の向こう側には〈魔王〉率いる魔国があり、南側には1600年の歴史を持つ巨大な〈ガルフ帝国〉が君臨している。


・それぞれとの関係は緊張関係にあり、特に魔国からは頻繁に〈魔物〉と〈魔族〉が攻めてくるため国軍は疲弊しきっている。


・このアレナリアがある地域はアルティソル地方と呼ばれ、古来から勇者召喚の儀式が伝わっており、人々に大きな危機が迫る度に異世界から勇者を召喚してきた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


――と、大体こんな感じのことを話していた。


まあ、この手の話としては、ある意味“ありがちな設定”だ。

これが漫画や小説ではなく、現実であるということを除けば……


「日本に……元の世界に戻る方法はないのですか!?」


意を決したようにやや語気を強めて尋ねる竜胆に、静かに王は答える。


「勇者召喚の儀で使われる魔法は、今から5000年以上前に滅んだ〈古代文明〉が残したもの故、現代の技術ではその術式を解明できないのだ」


再び王と王妃は頭を下げる。


「過去に召喚された勇者達も、皆この世界で生涯を終えておる。残念だが戻るのは諦めてもらう他ないだろう……」



しばらくの沈黙の後、装飾が施されたローブを着た荘厳な佇まいの老人が静寂を破る。


「皆さま―― お初にお目にかかります。私はこの国で魔術大臣を務めるコーエンと申します。今後は、私が皆さまのお世話をさせていただくことになりますので、お見知りおき下さい」


そう言って恭しく頭を下げるコーエン。


「さて…… 早速ですが、皆さまに最初にやっていただきたいことがあるのです」


コーエンは傍らに控えていたローブの男に合図をすると、男は通路の奥へと消えていった。


「――この世界で生きていくには、まずは自分の力を正確に知ることが最も需要……我々も皆さまの力を把握することで今後の支援に役立てることができるのです」



しばらくして、先程合図を受けたローブの男が台車のようなものを押しながら戻って来る。その台車には、人の頭ほどの大きさを持った水晶らしきものが載っていた。


“らしきもの”と表現したのは、よく占い師が撫でまわしているような球状のタイプではなく、いくつも角が生えた結晶タイプだったからである。


鉱石を削りだしたような形だが、綺麗に磨かれており美しく光を放っている……

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