なんとなく忠誠を誓おう・5

 そ、そんなにひどかったのか、魔王の性格は……。

 きっと言葉では言い尽くせない苦労をしたのだろう。そりゃソフィラテも部下やめて当然だ……。


 見れば、サラとカルスト、ニコが何だか目頭を押さえている。


「同情するわ……さすがに同情するわ。本当に大変だったでしょうね……!」 とサラ。

「付き合い短い僕らでさえ、ペース乱されて振り回されっぱなしですしね……」 しみじみとニコ。

「そもそも出会い方から微塵の威厳も無かったしな……」 つぶやくカルスト。


 何だか俺も涙が出てきた……。ソフィラテ、部下だから毎日一緒だっただろうしな、苦労したんだろう。

 うずくまっていた魔王が、言われっぷりにさすがにびっくりしたのか、戸惑ったように言う。


「ワシ、そ、そんなにひどい?」

「「「ひどいです」」」


 全員が声を揃えた。確実に心は一つになっていた。魔王はまたうずくまるとしくしく泣き始めた……。


「……またお泣きになるのですか。本当にいくじなしでございますね。魔王たる者がみっともないでしょう」

「だ、だってだってだってぇぇぇ………!!」

「だってではございません。そんな事ではワタクシ以外の部下がついて参りませんよ、魔王様」


 ぐずぐず泣いていた魔王が、ふと顔を上げて、そこに浮かぶソフィラテを見た。


 えっと……あれ、それってつまり……?


「ソフィラテ、まさか……まさか、戻ってきてくれるのか……!?」

「あら、喜んで下さる余裕がおありなのですか? 昔以上に、毎日ビシバシとやらせて頂きますが」

「ひっ、ひいいいいい!!! や、やだっ! 頼むからもうちょっとマイルドにしてくれぇぇい!!」


 ガタガタ震えだす魔王。二人の過去の日常が激しく気になるところではあるが、知らないほうが良さそうだ。


「やったじゃない魔っちゃん! やれやれ、どうなるかと思ったわね!」

「本当に死ぬかと思ったな……。そういやサラ、俺達がピンチの時に何してたんだ」

「魔っちゃん励まし倒してたわ。いやー名場面だったわよ、魔っちゃんが拳握り締めて立ち上がるシーンは」

「おかげで上手い事行きましたね。僕は帰ったら女神様に幸運を感謝しまくっておきますよ」


 俺達もホッと一安心。ああ良かった。このままだと報酬がどうなるかと思った。いや、魔王も大事だが報酬はもっと大事だ。

 魔王はつい今まで泣いていたのをすっかり忘れてしまった様子で、嬉しそうに顔をほころばせている。

 おぞましい顔をしているのにも関わらず、魔王の嬉しそうな顔って何だか愛嬌あるんだよな。何なんだ、これ。


「おお、皆、巻き込んでしまって済まなかったのう! ワシはもう少し、ソフィラテと話をしていくから、皆は先に帰そうか」

「魔王様、貴方……まさかこのためだけに、このニンゲン達をお呼びになったのですか?」

「ひっ! だ、だってソフィーが怖かったんじゃもん!! お前のせいじゃもん!!」

「……なるほど。良いでしょう、あの者達が去ってから、じっくりお話を聞かせていただきます」


 ソフィラテの翼が不気味な色にゆらめいている……おお、怖え……。

 これ以上いると、ソフィラテのお叱りを俺達まで食らってしまいそうだ。早々に退散するとしよう。

 一時はホントどうなるかと思ったが、最終的に上手くいったんだし、仲直りできたし良かったという事かな。

 そして俺達四人は無事、魔王の作り出した移動魔法で、フェスの街へと帰還したのであった。



 そういえばどうやって報酬って送ってくれるんだろう? と思っていたら。

 その事件から数日後の夜。報酬を届けるためにやってきたのは、なんとソフィラテ本人であった。


「また魔物手が足らないのでございます。ですから、ワタクシが気配を殺してお持ちしましたよ」

「あのなあ……カーテン開けたらそこにウィスプバードがいるってな、心臓止まるかと思ったぞ」

「ああ申し訳ありません、ニンゲンの文化はよく存じ上げないのでございます」 


 泊まっている宿屋『サラマンダー』の俺の部屋に、開いた窓からするりと入り込むソフィラテ。

 彼? 彼女? 性別がよくわからないけれど、まあ奴の尾はけっこう自在に動くらしく、器用に袋を提げていた。

 報酬として渡された大量の宝石に俺はちょっとはしゃいで、それから我に返った時、ソフィラテに訊いてみた。


「なあ。何で魔王にもう一度つく事にしたんだ? この前はあんな事言ったけど、正直、本当に嫌ならやめても、誰も批判しないと思うぞ。アンタの言ってる事、間違ってなかったし」

「貴方たちだって、どうしてニンゲンですのに、魔王様に協力していらっしゃるのですか。知り合った経緯は魔王様からうかがいましたが、どうにも理由が解りかねていたのです」


 そう言われると回答に困る。なんとなく、というのが一番正しい気もするんだが……。

 俺は頭をかきながら、とりあえず思いつくがままに話してみた。


「いや……だってなんか、どう見ても悪い奴じゃないしな。なんとなく助けたくなっちゃうんだよなあ、あの魔王って」

「ええ、それはワタクシが保証致します。魔王様ほど、"悪くない"魔物はおりませんよ」


 宙に浮いたままそう話すソフィラテは、何だか誇らしそうだった。


「いつも、なるべく敵にも味方にも被害の少ない作戦を提案するよう我々に要求されますし、捕らえた捕虜は丁重に扱うようご命じになります。魔王様が戦場に向かおうとされればワタクシは全力で止めます。何せ、傷ついた魔物を全て助けようとされるのですから、魔王様とてお命がいくつあっても足りません」


 そうだったのか……意外だ。いくじなし魔王の事だから、全部見捨てて自己保身に走るかと思っていた。

 そういえば先日もソフィラテを守ろうと必死だったな。やっぱり悪い魔王じゃなかったらしい。何だこの矛盾は。


「まあ、そのせいでワタクシは、振り回されたり悩まされたりしているのでございますが……。結局、ワタクシも魔王様に負けず劣らず、馬鹿なのでございましょう」


 ソフィラテはふと微笑んだ、ように俺には見えた。あんまり表情わかんないけど、何となく。


「それなら俺達も自信を持って言える。冒険者は馬鹿が武器みたいなもんだからな」

「……ワタクシは、ニンゲンを信用しておりません。ですから、まだ貴方たちを信じた訳ではございませんが……。貴方たちは信じられそうな気がしておりますよ。何となく、ですがね」


 俺が言葉を返す前に、ソフィラテは尾をひらりと振って、窓から夜の世界へと飛び立っていってしまった。

 夜空を遠ざかる青紫の光を見ながら俺は、次はいつ頃魔王に泣きつかれるんだろうなあと、なんとなく考えたのだった。

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なんとなく冒険者 空飛ぶ魚 @Soratobu_fish

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