第3話:冷酷非情

 ウィリアム王太子は目の前の光景に震えあがっていた。

 傅役、教育係、側近に激しい拷問が加えられていた。

 普通なら王宮の地下深くで人知れず行われることを表で行っていた。

 それがエドモンド国王のカリュー辺境伯家への詫びだった。

 これほど反省している、もう二度と同じ事はやらせないという誓いだった。

 彼らは今までウィリアム王太子が行ってきた悪業を全て白状した。


 ウィリアム王太子は自分の考えが甘すぎたことにガタガタと震えていた。

 自覚はなかった王宮の床に漏らした尿が広がっていた。

 その情けない姿にエドモンド国王は冷酷な視線を送るだけだった。

 エドモンド国王も苦渋の選択を迫られていた。

 カリュー辺境伯家に本気で詫びるならウィリアム王太子を殺すべきだった。

 だがそれでは自分の血統が絶えてしまう。


「王妃をこの場に連れてこい。

 ウィリアムの愚行を隠蔽した罪で処刑する。

 実家がガタガタ言うようならカリュー辺境伯家への詫びに根絶やしにしてくれる」


 エドモンド国王は身勝手で無責任だった。

 ウィリアム王太子が愚かに育ったのは、確かに王妃の責任も大きい。

 ウィリアム王太子の愚行を隠蔽してきたのは間違いのない事実だ。

 だが、大切な一人息子の教育を、傅役や教育係に任せきっていたエドモンド国王にも大きな責任がある。


 しかしエドモンド国王はそんな事を思いつきもしなかった。

 ウィリアム王太子の父親だけあって愚かで身勝手だった。

 そしてその愚かさと身勝手さが、亡国の不安で暴走していた。

 エドモンド国王は近衛騎士達に王妃を連行させ、ウィリアム王太子の前で首を刎ねさせたのだ。


「ヒッィイイイイイ」


 ウィリアム王太子は恐怖のあまり気を失った。

 だが直ぐに冷たい井戸水をかけられて、強制的に意識を取り戻させられた。

 そして死刑判決に近い言葉を聞かされることになった。


「新しい王妃候補をできるだけたくさん集めろ。

 ウィリアムの首を刎ねてカリュー辺境伯家への詫びにするには、他に王子が必要だ。

 誰でも構わない、王子を生んだ者を王妃に立てる。

 そう言ってできるだけ多くの女を集めろ。

 令嬢でなくてもいい、未亡人でも構わん。

 新しい王子を生めるなら誰だって構わない」


 エドモンド国王は狂気に取り付かれていた。

 エドモンド国王には幻が見えていた。

 魔獣すら片手で捻り潰すカリュー辺境伯家の戦士達が、レイティア嬢とカリュー辺境伯家の受けた恥辱を晴らすために、鬼のような形相で襲い掛かってくる姿を。

 だがそんな幻を見ているのはエドモンド国王だけではなかった。

 カリュー辺境伯騎士団の戦いを目付け役として見届けた老齢の近衛騎士幹部や、引退した父祖から色々な話を聞かされている若い近衛騎士も同じだった。

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