第2話:狼狽

「なんと愚かな事をしでかしたのだ、大馬鹿者め。

 今までこの国の何を学んできたのだ、愚か者め」


 エドモンド国王はあまりの事に怒り狂っていた。

 この国を滅ぼしかねない愚行に善後策が浮かばずにいた。

 怒りの炎で周囲の家臣達を焼き殺さんばかりだった。

 そこに愚かなウィリアム王太子が火に油を注ぐような事を口にした。


「何を怒っておられるのですか、国王陛下。

 あのような知恵の足りない田舎令嬢など気にされる事もありません。

 辺境伯が文句を言ってきたら知恵遅れだから婚約を破棄したと言えばいいのです。

 それでも文句を言うようなら王国軍を差し向けて滅ぼしてしまえばいいのです。

 何もない辺境のど田舎とはいえ欲しがる貴族がいるかもしれません。

 攻め取っておいても無駄にはならないでしょう」


 怒りを抑えることに必死だったエドモンド国王は何も言えなかった。

 もし今口を開けばたった一人しかいない実子の処刑命令を下しかねなかった。

 それほどの怒りに囚われていた。

 カリュー辺境伯家を敵に回す、それは亡国への道だった。

 先代国王が平身低頭懇願して独立領主だったカリュー家を家臣に迎えたのだ。

 そうしなければ国が亡ぶのが明らかだったからだ。


「ウィリアムの傅役と教育係、側近を全員この場に連れてこい。

 王家への反逆罪で八つ裂きにする。

 だから反逆者に相応しい処遇で連れてこい。

 抵抗するようなら四肢を斬り落としてでも連れてこい。

 ウィリアムをこれほどの愚か者に育てた責任をとらせるのだ」


 エドモンド国王は怒りのあまり目が座っていた。

 顔色は蒼白を超えて真っ白になっていた。

 ウィリアム王太子が今この場で吐いた、レイティア嬢に対する悪口雑言。

 貶められたレイティア嬢の名誉を回復する方法を必死で考えていた。

 それができなければコノリー王国が滅ぶ事は明白な事実だった。


「何を申しておられるのですか、国王陛下。

 まさか乱心されてしまわれたのですか」


「ウィリアムを黙らせろ。

 必要なら舌を斬り落としても構わん。

 お前達も近衛騎士ならカリュー辺境伯家を敵に回す恐ろしさは聞いているだろう。

 カリュー辺境伯家に詫びを入れ、レイティア嬢の名誉を回復するためなら、ウィリアム舌を斬り落として送り届ける事くらいは必要だ。

 余の命令である、ウィリアムを拘束して床に押さえつけておけ。

 次にウィリアムがひと言でも口を開いたら問答無用で舌を斬り落とせ」


 この時になったようやくウィリアム王太子は、自分がとんでもない事をしでかしたのかもしれないと少しだけ考えた。

 だが同時に国王に一人しかいない実子の自分なら、ここで大人しくしておけば、これ以上の処罰がされない事も理解していた。

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