其の肆 四人組

「四人組が揃ったぁ?」

 

 その四人組達がきょとんとした顔で、喜色を満面にたたえた美彩みどりを見ている。確かに奈津美なつみ皐月さつきかなで敦子あつこは仲の良い四人である。家も近所の幼馴染。趣味も同じ釣り。だが、同中出身の生徒なら分かるが、今日、転校して来たばかりの美彩がなぜそれを知っているのだろう。

 

「ねぇ、私達の事ば知っとるん?」

 

 抱きしめている敦子を引き剥がそうとしている奏が美彩へと尋ねた。

 

「うん、知っとるよ?鳥栖とりす奏さんに宮原みやはら敦子さん、それに佐原さわら奈津美さんと神崎かんざき皐月さんっ!!」

 

 名前をを呼びながら一人ずつ指差していく。苗字だけじゃなくフルネームで呼ばれた四人が呆気に取られている。

 

「えぇ……私や皐月は同じクラスやけん分かるとしてんさ、なして奏とか敦ちゃんまで?」

 

「ふふん」

 

 驚く四人を楽しそうに見ていた美彩が更にびっくりする事を口にした。

 

「しかも、四人とも釣り好きやんねっ」

 

 開いた口が塞がらない。その言葉通りの表情。妙齢の女子四人がぽかんと口をだらしなく開けている。

 

 もしかして……クラスの誰かから聞いたのか?そんな考えが皐月の頭に浮かんだ。しかし、それだけでは、四人の顔と名前が一致した事の説明がつかない。こと細かく皐月達の説明を誰かがしたならべつだが。誰がそんな暇な事をするだろうか。美彩を取り囲んだクラスメイト達はそんな話題よりも、F市の話題の方が最優先であるはずだから。

 

 にこにこと微笑んでいる美彩を自分よりも小さな奏の影に隠れていた敦子が、何かを思い出したかの様な表情となった。だが、それでもはっきりと思い出せないのか、美彩を頭のてっぺんからつま先までじろじろと舐め回す様に見始めた。

 

「なんね、宮原さん?私ばそげん見詰めとるばってん」

 

 つっと敦子へと一歩よると、ぐっと顔を近づけた。

 

「はわっ!!」

 

 少し間抜けな声を出した敦子が奏の後ろへと身を隠した。それを楽しそうに追う美彩。ぐるぐると奏の周りを回りだした二人。

 

「逃げんでん良かやんねぇ♡」

 

「追いかけてこんでぇ」

 

「良かやんねぇ♡取って食うわけじゃなかけんでぇ♡」

 

「いやぁぁぁぁ」

 

 ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる……

 

 自分の周りをドタバタと走り回られている奏の顔が引き攣ってきている。いい加減、うんざりしてきたのだろう。ぴくぴくと震えていた奏の堪忍袋の緒が切れた。

 

「せからしかったいっ!!なんば私ん周りば走りよっとかっ!!」

 

 怒り心頭。小さな体の奏が精一杯、両手を上げて二人を追いかけ始めた。

 

 その様子を眺めている奈津美と皐月。皐月が大きなため息を一つ吐くとつかつかと廊下を走り回っている三人を止めた。

 

「なぁんばしよっとね……他ん生徒達の邪魔になろうもん」

 

 半べそをかいている敦子に楽しそうに笑っている美彩。そして、怒っている奏が皐月を見た。そして、三人が示し合わせたかの様に辺りを見回す。明らかに迷惑そうな顔をして三人を見ている通りすがりの生徒達。三人がその生徒達へぺこぺこと頭を下げている。

 

「それはそうと……若田部さんはなして敦ちゃんば追いかけるん?うちらん事も随分と知っとる様やし」

 

 流石は皐月である。四人の中のリーダー的存在の彼女。今度は美彩がきょとんとしている。

 

「なしてって?そりゃぁ、宮原さんが愛らしかけんやろ?それに私、ずっと前から皆の事、知っとったばってんが?」

 

「えぇっ!!ずっと前からぁ?!」

 

「うん、そうばい」

 

 驚く皐月へ、そう言いにこりと微笑む美彩。

 

「あっ!!」

 

 すると、やっぱり何かを思い出した敦子が小さく声を上げた。その声に皆の注目が集まった事に気が付いた敦子がまた、奏の後ろへと隠れそうになる。それを奏がそうはさせまいと前へと押しやった。

 

「なんね、どげんしたとね、敦ちゃん?」

 

 奈津美が心配そうに敦子へと尋ねた。それにおずおずと敦子が驚くべき事を口にしたのだ。

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