第一章 其の参 転校生
ばたばたと廊下を走る足音。そして、ホームルームの始まりを知らせるチャイムがまさになろうかとしたその時である。
がらりと勢いよく開く教室の扉から少女が一人、まるで野原を駆け回り疲れ果てた犬のように、はっはっはっと息を切らして入ってきた。
肩位まで伸ばした栗色の髪。二箇所ほど跳ねているのが分かる。急いで自分の席に座ると隣の席の少女へ声を掛けた。
「先に行かんでよ、
声を掛けられた皐月はちらりと奈津美の方を見て、あんたが遅いけんたいと一言答えた。その答えに頬を膨らましている奈津美。二人とも良く日焼けした小麦色の……否、それ以上、まるでコッペパンのような肌の色をしている。
「ケチやん……皐月」
「ケチやなか。あんたが釣りに行く前にきちんと準備しときゃ良かっちゃん」
奈津美がぶつぶつと言いながら、カバンからペットボトルを取り出し一口飲んだ。
「生き返るぅ」
ぷるんとした奈津美の唇がペットボトルから離れる。みずみずしいさくらんぼを思わせる唇。その唇を皐月が見ている。
「
「
慌てて奈津美の唇から視線を逸らす皐月を奈津美が、不思議そうに見ていた。
がらり。
今度は担任が教室へと入ってきた。
二十九歳、独身。気の強そうな整った眉に、これまた気の強そうなつり目がちの大きな目。ふわりと軽いパーマを掛けた亜麻色の髪が、歩く度に歩調に合わせ揺れる。だが、揺れるのは髪だけではない。真っ白のブラウスをこれでもかと押し上げている
「おはようございます」
教室を見渡し、奈津美の隣以外に空いている席がない事を確認すると、カッカッカッと黒板に力強く文字を書き始めた。
「入っておいで」
猪塚が教室の外に向かって声を掛けた。一呼吸置いて、一人の女の子が教室へと入ってくる。
長くて艶のある黒い髪。前髪が綺麗に眉の上で切り揃えらている。少し太めの眉の下に垂れ気味の瞳。綺麗な女の子であった。
「若田部美彩です、よろしくお願いします」
美彩は軽く自己紹介するとぺこりと頭を下げた。
「なら、佐原の隣の席に座って」
猪塚の言葉を受け、奈津美の隣の席へと移動した美彩。そして、奈津美へともう一度、ぺこりと頭を下げた。奈津美も同じように頭を下げる。
静かに腰を下ろす美彩。
「よろしくお願いします、佐原さん」
柔らかな微笑み。
「あっ、こちらこそっ!!」
美彩の微笑みに目を奪われていた奈津美は赤面しながら慌てて返事をした。そんな奈津美の姿を面白くなさそうに皐月が見ていた事を誰も気付かなかった。
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