story 12 -leisure-
昼には窓から差し込む陽光で体がほんのりと温まり、体が休まりこの一時のもやもやすらも温めてくれる。
『落ち着いたらここを出るよ』
そう言って快く迎え入れてくれた粋なコーヒー屋から一週間を待たない五日間ぐらいで私は悲しい宣告を受けた。
『働かない者、喰うべからずです。そろそろ退店願いますよ。あなたは客です。』
と怒って、私はうなだれた。世の中にできるだけ長く楽に過ごせる所があるわけがない。
と言い放った、借りてきたあの安値DVDで見たテレビドラマでの一言が脳裏をよぎった。旧作ながら良かった気もする、もちろんタイトルまでは覚えていない。
『ならば余暇について語ろう、議題には一番定番だ。』
『高校生扱いしないで下さい。』
『余暇は謳歌したもの勝ちで時に断続制を所望される。それは人によって断線されうる危ういものである。それを君は今、邪推にもその一線を裁とうとしている。』
『大学生扱いしながら、子供扱いもやめて下さい。叩き出しますよ。』
そうしたら横でカップを困ったようにカップを拭く。
マスターは寡黙だった。だが陰気でもなく堅物でもなく、気さくでもない。
趣深いクラシカルなコーヒー屋のらしい良いスーツを着ていて。身のこなしが丁寧であった。
話は掛けないで顔つきで語る。そんな爺さんであった。
『では仕事を頼んでみたらどうだい?』
マスターは言う。
『仕事ですか。おつかいくらいしかありませんよ。』
『それでいいじゃないか、カップと皿を持っておいで。』
そうすると彼女は笑みを浮かべて私の座っていた、席に向かい食べかけのシフォンケーキの皿と一口は残っているコーヒーを持って行こうとした。
『わかった。それを聞こうではないか。仕事を私に欲しい、そうすれば私も店員として認めてくれるかい?』
『そうです。これは何処か遊びに行くお金では無いですからね。』
そうやって私にウィンドウを開かせ、自分もまたウィンドウを開き、子供におこづいかいを与えるように5000enを入金した。
『大人の依頼なのだからまとまった金が欲しい』
『大層な大人ですね。自分で稼げるでしょうその口なら。』
『これで何か、ゲーム内アプリケーションを買ってみるか』
『頭の悪い人にはいらないんですよ』
『頭は悪くないほうだ』
『今週分のお支払いどうします?』
『ああ、行ってくるよ』
私はこうして外へと出かけた。
仕事内容はおつかい。束の間の余暇はもろくも崩れた。
ウィンドウを暇つぶしにサッと開く。これもどうしたものか。
何かアプリケーションを買ってみるかとも思ったがやめた。
アテが無いのにむやみに交友を断つ行為はやめたほうがいい。
私はこの5000enでおつかいをしに行かなければならない。
フィルターと紙ナプキンとストローである。備品ぐらい自分たちで発送して貰えればいいものを、それだけ余裕はないが余裕があるのはあそこの店に何か秘密があるのだろう。どうでもいいと思えばどうでもいいが、クエスト依頼みたいな形ではないらしい。ただのパシリではないか、店員ですらないのだから。
そういうゲームを思い当たったふしもあるがやめておこう。
どうやら私を拾ってきた迷い猫のような世間知らずの女の子にしたいらしい。
私は首を振って事態ののくだらない深刻さに頷けた。
私はそうして今、雑貨屋へと向かっていく。
そして、陽気な足取りは明日へと続く。
DEXTER 群青 塩湖 @enco-gunjo
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