story 6 -city-
いざ、そこに着地をすると、私は軽く転倒しそうになったところ、前転気味に受け身を取って、大の字に未練無く広がって地面にへばりついた。
目で探るように空を見ると、まわりには神に摩天楼から見下ろされている気分になった。
幾ばくかの息苦しいくらいの高層ビルや何らかの機能的からほど遠く外れた建物が密集したり、古くさい木造平屋の棟があったりアンティークで模型にありそうな西洋風建築だったり、荒野の指が何本か無いならず者の集まるバーみたいなところから。
色々と目に止まる物があって、私の好奇心を必要以上に鼓舞させた。
このゲームを作ったクリエイターは何を考えているのだろうか。
統一感がまるでない。
ただ、私は何をしていいか解っていた。
綺麗に公園は、ほんわかと賑わっていた。天気良く太陽光が当たる。
先ほどの転落スタートの精神的疲れもあいまって心地良く、私はそのまま大の字に伸びていた。
なんだかこの公園の空気に飲まれるようにまったりとしていた。
柔らかいバニラの香りが右から左へと流れていった。
その甘い匂いのするそよ風は私の首を横に向けるにはふつうの理由になった。
向いてみるとその匂いとは違う方向性のチョコレート色のコートを来た、お洒落な女性が立ち止まっていた。初対面ながら整合性の無い女性である。運命の出会いだろうか。ゲームOPとしては幸先の良い演出でしかないとも感じる。
「大丈夫ですか。生きてますか。」
なんでまたこの人に、こんな会って始めての見ず知らずのネットゲームプレイヤーである私の事を心配して貰えるのだろうか、贅沢な悩みを抱えられる自分の天運に感謝である。
ただ何故、そこまで心配されるのだろうか、VRになれていないのだろうか、アバターを見れば解る。中級者と見られるくらいな服装はしている。であるが、現実的なファッションセンスだ。
チュートリアルは受けてきたはずだろう。ノンプレイヤーキャラだろうか。
なんだ、高揚した気分はまた収めるとして、何か答えてみるとしよう。
「生きてますよ、この通り。」
起き上がってみると、難なく私は脚を付いて二足歩行して見せた。
これでこの街について紹介してくれるだろうか。不案内だからと言っても無愛想に返答するような応対はあるまい。
こんな不親切にも出会い、御親切にもほど遠いゲームバランス。素晴らしいと言えばいいのだろうか。
「大丈夫なら安心した。それでは。さようなら」
なかなか温かいようで冷たいノンプレイヤーキャラだ。
この軽く弱ってるときに優しくされると惚れてしまう。そんな弱気なエフェクト表現が自分のアバターから出てきそうだが、フラれれてしまった。これは寂しい限りではないか。
これから小一時間は傷心ながら苦悩する時間がどのくらいと言わないばかりに必要かもしれない。
見知らぬ人間的な意味で彼女からもう一言手厚い言葉を貰う。
「あと、ここは公園です、椅子に座っていないとおかしく見えますよ。」
彼女の指さす方向には普通に公園にある長ベンチであった。
これの何が面白いのだろう。幾らか面白くなかった。何かを差しているのだろうか。
私にはもちろん、常識的に言えば公園のド真ん中で仰向けに大の字になっているのはおかしくも思うが、その位の常識的な子供より優れた頭脳はある。子供。
そう言えば、あの雪原に大の字に突っ込んで寝転んでいた彼女を思い出す。
「ああ見れば解るさ。このゲームはベンチで過ごすのが得策のようだね、まだ不慣れなもので、仕方ないのさ」
今居るその子は面白くない顔をして、私を楽しませたが、その違和感の無い反感を涌かせる顔は私にとってそれはごく自然に見えた。
「そうならば仕方がないですが、このゲームで初心者を明かすのはやめた方がいいですよ。それでは」
つれなく彼女はそう言い残す。
私はこの街のあり方について感慨深くなり、半目を閉じて呆れて首を振り。そこで首を二往復振ったところで、そこから一つの事に考えを始めて一つの考えに陥った。
それは今、私の着ている服は現実での私服である。
目が点になったのは言うまでも無い。
このゲームは親切な設計である。初心者にも優しい。
ただ全てが自己責任。納得が行く。
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