かつて見た夢、三傑選

一ノ路道草

空を飛ぶ

 最近では寝ていても、めっきりこれは、という夢を見ることが無くなった。


 そう思うと、以前の自分が見ていた夢はそれなりに変わったものを見ていた気がするので、この場を借りて思い出しながら書けるものを書いていくことにする。



 小学校低学年の頃に見た夢だ。


 両親と三人で近所へ外出中という場面で、ふたりが突然立ち止まって両の手をまっすぐ左右に伸ばし、ぱたぱたと軽い調子で羽ばたき始める。


 すると途端に、ふたりが数メートルほど地面からふわりと浮き上がって、両親はお前も早く来いという様子でこちらへと笑いながら、空中にぴたりと垂直に静止していた。


 自分も遅れてやや躊躇いがちに両手を伸ばし軽く上下させると、ただそれだけであっという間に、ふたりのいる高さまで達してしまった。


 保育園の頃から戦闘機のF-14トムキャットやドラえもんのタケコプターに憧れていた自分は空を飛ぶのが無性に楽しく、三人でのんびりと歩くような速度で、見知った街の上空を夢中で飛び続けた。


 なぜか時折高度が、がくっと一気に何メートルも落ちるので、そのたびに慌てて羽ばたき上昇するのだが、地表へ落下していく感覚が妙にリアルで、夢の中の自分も異様な恐ろしさを感じていたと思う。


 ふと気付けばすっかり夕方になっており、両親の姿がどこにも見えなくなっていたのだが、当時は周りが完全に暗くなり、友達が帰って最後のひとりになっても、自分はそのまま近くの森や公園で、共働きの両親が帰宅する時間まで遊んでいるような子供だった為か、特にそれを気にすることはなかった。


 しかし、その後も暗い空をひとりで飛び続けていると、急に自分はどこを飛んでいるのか、さっぱりと分からなくなっていた。


 一面明かりのほとんど消えた、まるで見覚えが無い平坦な住宅街らしき地上を見渡し、次第にほんのりと不安になりはじめた所で、この夢は終わっている。


 こうして振り返ってみると、少し恐い夢のような気もするのだが、当時の自分はむしろ気分の良い目覚めで、とても楽しい夢を見たと思っており、周囲にも得意げに自慢していた。

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