第3話 純白の騎士

翌朝、アルドはここ数日食べ続けたステーキにより胃に違和感を感じているとエイミとリィカが迎えに来る。


「どうしたのよそんなに猫背になって? それより相談なんだけども、あたし達がセバスちゃんから聞いたこと一応COAにも伝えた方が良いかなって思って!」


「確かにその方がいいかもな! でもエッジの居場所なんて分からないぞ?」


「ハイ、ですノデ直接司政官のところマデ行ってしまいまショウ!」


その手があったかと言わんばかりの表情を見せるアルドだった。

実はアルド達はエルジオン司政官とは面識があり、今は特別な許可が無くても会いに行くことができる。


早速司政官室へ向かうとそこには司政官とエッジがいた。


「エッジもいたのか! ちょうど良かった!」


「なんでアルド達がここにいんだ?! ここがどこだか分かってるか!?」


「いいんだよエッジ君、彼らとは以前から知り合いでね。」


興奮したエッジを宥めながらそう話すのはエルジオンの司政官だ。


「知り合い!? アルドおめぇいったい何者なんだよ?」


「ま、まぁいろいろあってな、ハハハ…。それより大事な話があるんだ!」


話をはぐらかすとアルドは司政官に本題を話す。


「なるほど、合成人間達の武器を作っている人物が我々人間側にいると…」


「あぁ、まだ可能性の話なんだけど。一応頭に入れといてもらった方がいいと思ってな。」


「分かった、こちらで調べてみよう。それでなのだが…」


司政官はアルドとエッジを見ながら思わぬ提案を出してくる。


「どうせ君たちも合成人間を追っているなら、エッジ君と共に行ってはくれないかね? ちょうど今新しい任務を与えたところなのでな。」


「えっ、アルド達とですか?!」


「そうだ、彼らの実力は知っている。君の助けになってくれると思うが?」


エッジは渋々といった様子だったが結局一緒に捜査へ行くこととなった。


エッジに従ってルート99へ移動したアルド達。 本格的に協力関係となりお互いのIDを交換しながら廃道を歩いていた。


「そろそろコチラへ到着する時間デス!」


リィカがそう呟くと上空からヘレナが降りてくる。


「お待たせしたわね、それで今日は何をするつもり?」


ヘレナがそう言うとエッジは真剣な面持ちで話し始めた。


「実は今回ルート99を巡回してたドローンが白いボディの合成人間を発見したんだ。見たことのないタイプの奴だったから今回の事件にもきっと関係があると思ってな。直接接触して、あわよくば捕獲しようって訳だ!」


「白い合成人間か…よし、探してみよう!」


しばらく廃道を歩き回りやや脚が疲れてきた頃、ヘレナが何かに気付きアルド達の前へ回り込む。

「あなた達止まって! 上から何か来るわ!」


上空を見ると赤い物体が猛スピードでこちらへ向かってくるのが見えた。そしてあっという間にヘレナの前へ落下する。

漂う土煙の中、その物体は上体を起こし姿を現した。


「あっ、あなたは…リ・ア=バルク!!」


そのリ・ア=バルクと呼ばれた真っ赤なボディの合成人間は元々KMS社で開発された機体でアルド達とも以前刃を交えた事のある人物である。


「なぜ貴方がここにいるの!? 」


「ヘレナか、久しぶりだな。 たまたま通りかかったら見た事のある顔ぶれを見つけちまったんでな、顔を出してやったまでだ!」


ヘレナの問いかけにいい加減な態度で答えるリ・ア=バルク。


「冗談はよして、率直に聞くけど新たに合成人間を率いているのは貴方?」


「なんだと…? 勘違いをするな、そんな面倒な真似するはずがないだろ! まぁ今しがたそいつには会ってきたところだがな。」


「会ってきたですって!? 貴方達は何を企んでいるの?」


「俺はただ仲間にならないかと誘いを受けただけだ。知りたければ直接本人にでも聞きな!」


リ・ア=バルクの言葉にいまだ信憑性を感じないヘレナはさらに質問を続ける。


「それで、その誘いに貴方はなんと答えたの?」


「受けるはずが無いだろ。だが奴らの計画には興味がある。加担する気は無いが高みの見物でもさせてもらうぜ。」


「やっぱり計画を知ってるのね!? さっさと話しないリ・ア=バルク!!」


そのヘレナの言葉にリ・ア=バルクも怒号する。


「くどいぞヘレナ! 本人に聞けと言ってるだろう!! 」


「…なら居場所を教えなさい。それで勘弁してあげるわ。」


ヘレナがそう言うとリ・ア=バルクは不敵に笑う。


「その必要はない、もうこちらに向かってきているからな。お前たちの居場所は奴にバレている様だぞ?」


「えっ!?どうゆうことか説明しなさいリ・ア=バルク!」


リ・ア=バルクはそのままヘレナに耳を傾ける事なく上空へ飛び去って行った。


「俺たちの居場所がバレてる??誰かに見張られているのか?!」


「デスガ、ここへ来るまでは周囲に敵の反応はありマセンでした!」


戸惑うアルドにリィカが冷静に返事を返していると。また上空から何かが飛んでくる音がする。


「来るわっ!!」


その物体は先程のリ・ア=バルクを超えるスピードでアルド達の前へと急降下してきた。

着地の衝撃で発せられた風圧で一同は顔の前に手をかざした。


「こっ、こいつだ!!ドローンの映像に映ってた奴は!」


エッジの声と共にアルドは前に目をやると、そこには白いボディに身を包んだ合成人間が立っている。

その出で立ちは純白の鎧を着た騎士の様であった。


「お前が合成人間の新しい指揮官か!?」


アルドの呼びかけにその合成人間は冷静な声色で返事をする。


「そうとってもらって構いませんよ。先日は私の部下を相手してくれたそうですね?」


おそらく彼が言っているのは以前ルート99でエッジが倒した合成人間の事だろう、そしてその合成人間が最後に言った言葉をアルドは思い出した。


「 ああ、そうだ。じゃあ、あんたがラヴィアンってやつだな?? 」


「ほう? 私の名前もご存知でしたか。いえ、無駄話は結構です。今回は警告をしにあなた達の前へ来させて頂きました。本来あなた達はターゲットでは無いのですが、これ以上邪魔をするなら命の保証は出来ませんよ?」


「なにっ? ならばなぜ人間を攻撃させるんだ! 答えろ!」


アルドのその言葉にラヴィアンは首をかしげる。


「はて、その様な指示は出していませんが? 我々の敵はあくまでKMS社です。 たとえその過程で人が傷ついたとしても、それは事故ですよ。」


「なんだと?! そんな勝手な事あるか! そもそも何故KMS社を狙うんだ?」


「何故あなたにそこまで教えなくては? そろそろ私は戻らなくてはいけませんので、失礼しますよ。」


ラヴィアンが再び飛び立とうとするとエッジが彼へ向かって持っている槍を勢いよく投げつけた。


「逃すかっ!!」


だが次の瞬間ラヴィアンの胸にある水晶のような物が赤く光ると目の前に炎の柱が出現し、エッジの投げた槍を焼き尽くした。


「死にたいのですか? 私の体には無数のプリズマが埋め込まれています、あなた方を消そうと思えばいつでも出来るという事を肝に命じておきなさい!」


ラヴィアンの圧倒的な力にエッジは気圧されるが食い下がる。


「くっ! 一つ教えろ、お前らそのプリズマどこで見つけた? あれは何百年も前にしか存在しないはずのものだぞ!?」


「では何百年も前から取ってきたのではないですか? 実際、私はこれの出所を知りませんよ。 」


そう言うと背中のバーニアが光り出し、そこから勢いよく炎が噴射されるとあっという間に遠くまで飛んで行ってしまった。


「ちっ、テキトーな事言いやがって! 」


「逃しちまったからには今回の任務も失敗だ。俺は先に帰って司政官へ報告に行くからな。」


エッジは一人その場を後にする。

残ったアルド達は少しその場で状況を整理していた。


「ラヴィアンのさっきの能力、やっぱりプリズマの力だよな?」


「ハイ、胸のアタリが光り出した時彼の体内からプリズマのエネルギー反応をキャッチしまシタ!」


「それにラヴィアンが口にした事で気になることもあったんだ。」


「プリズマの出所は知らないってやつ? 」


アルドの言葉にエイミが反応する。


「あぁ、それが本当ならプリズマを取ってきている奴が他にいるって事だろ?」


「そうなるわね、でもまだ彼の言葉を鵜呑みにするべきじゃないわ! 一旦エルジオンへ戻りましょ!」


アルド達は増える謎に蟠りを感じつつもエルジオンへ戻っていった。


アルドは宿屋でしばらく横になり身体を休めていると、ヨツバからもらったケータイが鳴り出した。


「えっと…ここを押せばいいのか?」


ぎこちない手つきで着信を取るとエッジの声が聞こえてきた。


「おう! 今日はお疲れさんな! 早速なんだがな… 」


エッジの話を聞くとどうやらアルド達がルート99へ行っている間に、COAの情報班が例の武器の製作者に関して調べあげていたらしい。

そしてその手がかりを見つけたと言うのだ。


「それでよ、どうやら以前KMS社のエンジニアで、プリズマの力を応用した武器の開発をしようとした人物がいたらしい。」


「KMSの人間がか!? なんだかますます分からなくなってきたぞ?」


「俺たちだってまだ殆ど情報はねぇよ。KMSに直接話を聞こうとしたら、企業秘密だとかで門前払いだ。まったく、気味が悪い会社だぜ!」


「そうか…俺たちでも何か出来ることはないか考えてみるよ!」


そう言ってアルドはケータイをしまい、エイミ達にも今の話を伝えた。


「怪しいわね! ねぇリィカ、KMS社のデータベースにアクセス出来たりしない??」


「丁度ワタシも同じコトを考えてマシタ! これがイシンデンシンとゆうものデスネ! デハ少しお待ちくだサイ! ……ピピピピピ」


リィカはツインテールを勢いよく回転させる。


「……ダメでした…強力なプロテクトがかかっておりワタシではアクセス出来そうにありマセン!」


「何よそれ! ますます怪しいじゃない!うーん、リィカでダメとなると…やっぱりセバスちゃんにお願いしようかしら? 」


「おいおい! セバスちゃんってKMS会長の孫って言ってなかったか? 流石にそんな事してくれないだろ?」


「だって他に頼れる人いないじゃない! ダメ元で聞いてみましょ!」


エイミ達三人は早速セバスちゃんの家まで向かっていった。

事の経緯を説明しエイミがお願いすると予想通りの反応が返ってきた。


「そんな事してバレたらお爺ちゃんから大目玉食らっちゃうわよ!! 第一、少し前にKMSのデータベースに不正アクセスがあったみたいで今はガチガチにプロテクト掛かってるんだから!」


「えっ、そうだったの!? 知らなかったわ…セバスちゃんでもダメとなると…どうしようかしら…」


エイミが落ち込んだ表情をしていると…


「……でも出来ないとは言ってないわよ?」


「えっ?」


「もうこうなったらやってやろうじゃないの! それにあんな技術を考えた人物にも興味があるしね! ちょっと時間が掛かるかもだからどっかでお茶でもして待ってなさい!」


何か吹っ切れたようなセバスちゃんは目の色を変えて作業に取り掛かった。


エイミ達はそのままセバスちゃんの家でしばらく待っていると、突然セバスちゃんが勢いよく立ち上がった。


「成功よっ! 早速エイミに連絡しなきゃ!」


「ちょ、ちょっとセバスちゃん、あたし達ここにいるわよ!」


「あら? もう帰って来てたの?」


「もう、ずっとここにいたわ。どんだけ集中してたのよ…」


エイミはセバスちゃんが操作していたコンピュータのモニターを覗くと様々なファイルが並んでいるがエイミには何が書いてあるのか理解できなかった。


「あっ、実はもう我慢出来なくて先に中身見ちゃったのよね! それでね、例のエンジニアの情報もあったわ! 」


「本当!? やっぱりセバスちゃんは天才よ! それでどんな人なわけ?」


エイミがそう聞くとセバスちゃんは急に歯切れが悪くなる。


「あ、うん! それがね…なんかあたしの知ってる人っぽかったのよねぇ。」


「えっ!? まぁ確かにセバスちゃんの知り合いなら不思議ではないかも知れないけど…その人の名前教えてもらえる?」


「もちろんいいわよ! そのエンジニアの名前は…フタバ・ローズ。あたしと同じスクールにいた子なの!」


「えっ?!?!」


その名前を聞いてエイミは思わず声を上げてしまう。

あのフタバと同じ名前ではあるが本当に彼女の事なのか…


「その人に姉はいなかった!?」


エイミは食い気味に言い放つ。


「えっ? そういえば、いたわね…確かヨツバだったかな?」


「!!……やっぱり。」


「やっぱりって、エイミも知ってるの??」


項垂れているエイミにセバスちゃんは問いかける。


「うん、つい最近友達になったばかりだけど…それよりセバスちゃんも知ってたなんて!」


「いえ、話した事は無いわ! ただ彼女も当時から技術に関しては天才と呼ばれていたから、あたしったらちょっと意識しちゃってたのよね!」


あのセバスちゃんが対抗意識を燃やすほどの人物だったという事はフタバも相当な技能の持ち主であったのだとエイミは思った。


「まぁ噂では、実は姉の方が才能はあったんじゃないかって話もあったけどね! 妹のフタバと違って大人しくて目立たない人だったから、あまり知られてなかったみたいだけど…」


「えっ? (ヨツバさんが…大人しい??)」



「ちなみにフタバ・ローズはもう解雇されてるわ。記録によると彼女がプリズマ武器の案を社内で発表した次の日に一方的に解雇されたみたいね。」


「そんな?! 何があったのよ!?」


「残念ながら理由は明記されてないわね。それより、まだ分かったことがあるから良く聞きなさい!」


そう言うとセバスちゃんはまたコンピュータを操作し始め、何かの設計図のようなものがモニターに映し出される。


「これが彼女の作ったプリズマ武器の設計案よ! それでね、ここに書かれている構造とエイミ達が持って来た武器の構造が全く同じだったの!!」


それを聞いたエイミの表情が少し強張る。


「えっ! って事は…」


「まぁ普通に考えたらあの武器を作れるのは彼女か、そのデータを持つKMS社って事になっちゃうわね。エイミ、フタバ・ローズと友達なら思い切って聞いてみればいいんじゃない??」


「…そうね、それが一番手っ取り早いものね、じゃ早速会ってくるわ!」


「うん! それで今度あたしにも紹介して! 今なら仲良くなれそうな気がするわ!」


「ふふっ、いいわよ! 」


エイミとセバスちゃんの話が終わると、アルドが口を開く。


「俺からも一ついいか? ラヴィアンってゆう合成人間についての情報は無いか見れないか?」


アルドは先程リ・ア=バルクと遭遇した事や彼が敵の指揮官と接触していた事などをセバスちゃんに説明し、セバスちゃんはまた作業に取り掛かる。

ほどなくしてセバスちゃんは手を止めた。


「そのラヴィアンってゆう合成人間に関しては何も無かったわね。ただ、公にはしてない記録があったわ、以前リ・ア=バルクを製造してる時、その過程で出来た廃棄機体の内一体が脱走してたみたいよ!」


「廃棄機体?」


「ええ、つまり失敗作って事!」


「ああ! なるほどな! (じゃあ、その廃棄機体ってゆうのがまさか…?) 」


この時、アルドはラヴィアンの容姿がリ・ア=バルクと酷似していた事を思い出す。


「ありがとなセバスちゃん、本当に助かったよ! 今度何か出来る事があれば手伝うからな!」


「約束だからねー!」


そしてセバスちゃん宅を出たアルド達。


「じゃ、早速フタバちゃんに会いに行ってみましょ!」


エイミがそう言うとアルドのケータイが鳴り出す。


「ん? これは何だ?」


エイミがアルドからケータイを取ると


「これはメッセージって言って文字だけを送ったりする機能よ。ほら、ここを押すと…」


エイミがボタンを押すとメッセージが現れる。


【ルート99にて待つ、奴らの情報が欲しければ今すぐ来い】


「なんだこれ?! 」


見知らぬ人物からのメッセージに驚くアルド。


「匿名での送信になってるわね…奴らの情報って、もしかして。」


「怪しいけど、気になるな…とりあえず行ってみないか?」


アルド達三人は突然送られてきた謎のメッセージに従いルート99へと向かった。










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