第1話 有るはずのないもの
ーAD300ー
この時代、まだ人類は実りある大地の上で人々は生活をしていた。この頃地上には彼らの生活の上で欠かせないプリズマというものが存在していた。
プリズマとは太古に存在していた精霊達の成れの果てであり、今はもう存在しない精霊達の代わりに大地に恵みを与え水を清く保ち、火を起こしたりなど様々な形で地上にいる生命の助けとなっているものであった。
「ふぅ、やっぱり自分が育った時代の空気が一番だなぁ!」
両手を高々と上げ背伸びをしながらこう話すのはアルドという青年だ。彼は普段仲間と共にいくつもの時代を駆け巡り旅をしている。
この日は久しぶりに村に帰る為仲間達と王都ユニガンへ立ち寄っていた。
「ふふっ、アルドは村に顔出すんでしたっけ? 折角だし出発する前にご飯でも食べに行きましょうよ! もうお腹すいちゃったわ。」
彼女の名前はエイミ、アルドが初めて時空を超えた先のAD1100の未来で最初に出会った人物だ。普段はハンターとして活動していると同時に父の経営するイシャール堂という武器屋の看板娘でもある。男性陣にも負けず劣らずの気迫の持ち主であり頼れる仲間の一人だ。
「ハイ、エイミさんに賛成デス! ワタシの空腹センサーがすでにアラームを鳴らしておりマス ノデ!」
彼女はリィカ、エイミと同じく未来で出会ったヘルパー用アンドロイドだ。彼女はアンドロイドという利点を活かし独自の情報網から様々なサポートをしてくれる優秀な仲間である。
「またあなた変な機能付けたわね? 私たちに食事は要らないけど、とりあえず付いていくわね。」
そして彼女は合成人間のヘレナだ。アルド達とは以前は敵対関係にあったが、巨大地震から世界を救うという同じ目的から協力関係になり、それ以降もアルドの旅の仲間として活躍してくれている。
「よし! それじゃユニガンの酒場にでも行くか! 」
アルド達は酒場に入り席に着くと早速ステーキを注文した。
頼んだステーキが来るとアルドは満面の笑みで食べ始めた。
「やっぱりユニガンのステーキは一番美味しいな!」
アルドがそう言うとエイミも
「確かにこの時代のステーキは美味しいわね! やっぱり天然のプリズマがあるから動物達も生き生きしているのかしら?」
「そうか、未来には天然のプリズマはもう無いんだよな…でもさ、人々はあんなに力強く生きてるんだから動物達も同じなんじゃないか?」
「ふふっ、そうかもね! それじゃあ今度は私の時代でステーキを食べましょ? エルジオンのステーキも負けてないんだから!」
「それはいいな! ステーキならいつの時代も大歓迎だ! 」
アルドの言葉にエイミは笑みを浮かべた。しかしどうもアルドの食べ方にエイミは疑問を感じて始めていた。
「ところでなんだけどアルド、こっちの時代だとステーキにトマトソースは普通なの?」
「ん? どうだろうなぁ、以外と合うしみんなやってるんじゃないか?」
「以外な組み合わせデス! コレは新しいデータを更新しないといけマセン!」
「やめときなさいリィカ、おそらくイレギュラーよ。」
すかさずヘレナがリィカを制止した。
「うーん、昔からよくダルニスが狩りで取ってきた肉に村で取れたトマトのソースをかけて食べてたから、これが普通なんだよなぁ。」
「ま、まぁ良いんじゃないの? 好みは人それぞれよね! 」
エイミは内心では絶対におかしいと思っていたが、やや天然のアルドに対しツッコンでも仕方がないと、この時は大人の対応を見せた。
そして四人は店を出ると各々がそれぞれの目的の為別行動をとる事となる。
「それじゃ俺は村に戻って久々に警備の仕事の手伝いに行ってくるよ! みんなも用事が済んだらまたユニガンに集合でいいか?」
「ええ、いいわよ! それじゃあねアルド!」
アルドはエイミ達を背にバルオキーへ向かった。
「えっと、リィカとヘレナはセレナ海岸へ行くのよね? この時代であなた達だけだと何かと不安だからあたしも付いて行くわ! だから悪いんだけど、あたしの用事終わるまで待っててくれる? 時間かからないから!」
「ハイ、ワタシはノープロブレムデス ノデ!」
リィカの返事にヘレナも賛同する。
「ええ、構わないわ。あなたの用事って武器屋に行くんでしたっけ?」
「うん、そうなの! この時代の武器や防具は装飾が独特な物が多くて勉強になるのよね!」
「流石デスね! 旅の合間でもオシゴトの事を考えているトハ!」
「だって、最近は性能よりもデザインにこだわるお客さんが増えてきてるみたいなのよねぇ、だから看板娘として色々考えてるのよ。」
実際エルジオンには貴族と呼ばれる人たちがおり、純粋に性能を求めるハンター達とは違いデザインを優先して買っていくもの達もいるのだ。
「お客サンのニーズに合わせるというやつデスね! トコロデその武器屋さんには釣竿は売ってマスカ?」
突然リィカは釣竿が欲しいと突拍子も無い事を言い出した。話を聞いてみると実は前々から釣りをやってみたかったのだと言う。
「実は、一度コーダイな海で釣りというモノを試してみたかったんデス!」
「そ、そうだったの…だんだんアルドに似てきたわね。もしかしてヘレナも?」
まさかとは思うが一応聞いてみたエイミだったがヘレナは力強く否定する。
「違うわよ! ワタシはただ地上の海を見ようと思っただけよ!」
そう言うヘレナであったが普段は合成鬼龍というアルド達が時空を超える際に使う戦艦の中にいる為、久しぶりに外を歩く彼女はわりと楽しんでいる様にも見えた。
「流石にそうよね。じゃリィカの釣竿も探しちゃうから一緒に行きましょっか!」
こうして三人はユニガンの商店街へと向かって行った。
時は経ち、外が少し暗くなってきた頃バルオキー村での仕事を終えたアルドは先にユニガンへと戻っており、宿屋の前で少しウトウトしながら待っていると遠くからエイミ達らしき人影が見えた。
よく見るとリィカは何やら長い棒のような物をもちヘレナは大きな袋を持ち移動しているように見える。
「おーい! みんなここだー!」
アルドは三人の方へ駆け寄って行く。
近くで見るとリィカが持っているのは完全に釣竿だと言うことがわかる。そしてヘレナの持つ袋は何やらガサゴソと動いていた。
「釣りをしてたのか!? って事はヘレナの持ってる袋の中身って…」
「ハイ、魚です! デモ ワタシでは無くヘレナさんがほとんど釣った魚デス! このような才能があったトハ、またデータベースに追加しなくてはナリマセン!」
「そんな情報更新しなくていいわよ! …でも、やってみると案外楽しかったわね。」
アルドは少々呆気にとられた顔をしていたが次第に笑みが浮かんでいった。
「ははっ、今日の夕食は魚料理で決まりだな! じゃ日も暮れてきたし今日はユニガンの宿に泊まろうか!」
こうしてこの日の夜は大量の魚を食べてから眠りについた。
翌朝、エイミの要望によりAD1100のエルジオンへ向かう事となった。
ーAD1100ー
ヘレナは一旦合成鬼龍へ帰りアルド達三人でガンマ区画を歩いていた。
「悪いわね、付き合わせちゃって。折角綺麗な防具を見つけたから早くお父さんのとこに持って行きたくってね!」
「俺は別に構わないぞ? 久々にエイミの親父さんにも会っておきたいしな!」
そう話しているうちにイシャール堂の前へと着き、中へ入るとタンクトップ姿の屈強な身体をした男が立っていた。
彼がエイミの父親のザオルだ。エイミは母親を合成人間との戦いで亡くしており、それ以降ザオルが一人で育ててきた。エイミがここまで逞しい女性に育ったのも彼のおかげと言っても過言ではない。
「おう、エイミじゃねぇか! 元気にやってんのか?」
「ええもちろんよ! それでね、お父さんこの前お客さんのデザインの注文が細かいとか言って困ってたじゃない? だから参考になるかと思って装飾の凝った防具買ってきたんだけど…」
「お? また珍しいもん持って来たじゃねぇか! ありがとよ! 流石は俺の娘ってとこだ!はははっ!」
「喜んでくれて良かったわ! あたし達はもう行くけど、お父さんも体に気をつけてね!」
「おう!アルド君も娘の事頼んだぞ!」
突然のフリにアルドは困惑しつつ
「えっ、ああ、もちろんだ!」
「ちょっと、お父さん余計な事は言わなくていいわよ!」
エイミはアルドの腕をひっぱり強引に店を出ようとした時、ザオルは突然何かを思い出したようでエイミ達を引き止める。
「ちょっと待ってくれ! 言い忘れてたが最近また合成人間がエルジオンの近くをちらほらしてるらしいからお前らも気を付けろよ!」
「えっ!? ガリアードが居なくなってから目立つ動きは無かったのに、今更どうなってんのよ?」
「俺も詳しくは知らないが、こないだもエアポートの方でKMS社の作業用マシンが襲われたみたいでなぁ」
「そうだったの…わかった、気をつけるわ! 教えてくれてありがとね!」
店を出たアルド達は歩きながらザオルの言っていた事について話し合っていた。
「合成人間が今更わざわざエルジオンまで来て暴れ出すなんてなんか変だと思わないアルド?」
「うーん、そうだなぁ。たまたまエアポートに来ちゃってって事もあるかも知れないけど、危険な事に変わりはないからな、少し様子を見に行ってみよう!」
「ええ、もし街まで来ちゃったら大変だもの!」
三人は合成人間が現れたというエアポート付近まで行き、あたりを見回しながら歩いていると作業服を着た男が走ってこちらに向かって来た。
「おーい! 助けてくれ! 合成人間が出たんだ!」
男は息を切らしながらそう言うと自分が走って来た方に指をさした。
「あっちで…俺がマシンを使ってコンテナを運んでたら急に奴ら現れやがって…」
「おい、落ち着いてくれ! 俺たちが行ってくるからあんたはここで待っててくれ!」
そう言ってアルド達は彼の指差した方へ走っていくと大破した作業用マシンがあった。
そしてすぐ横に立っているのは間違いなく合成人間だった。
「出たな! 一体だけならどうって事ない! いくぞエイミ!リィカ!」
三人は武器を構え合成人間を囲む様に移動し、隙を伺っていると合成人間は持っている斧の様な武器を振り上げた。
「なに? そんなとこからじゃ当たらないわよ!」
エイミがそう言うと、合成人間の武器が淡い緑色の光を放った。
「!! エイミさん逃げて下サイ!!」
リィカが叫んだ次の瞬間、合成人間が武器を振り下ろしたのと同時に凄まじい勢いで風が吹いた。
エイミはリィカの掛け声で素早く体を捻りながら横に飛び、直撃は受けずに済んだ。
放たれた風は大破した作業用マシンに当たると轟音と共に散開していった。
「な、なんて威力だ! 武器の風圧なんてもんじゃなかったぞ!」
アルドは合成人間の見たこともない攻撃に戸惑っていると合成人間は次にアルドの方を向き武器を振り上げる。
「くっ、あんな攻撃受けきれないぞ…どうすればいいんだ…!」
合成人間が武器を振り下ろそうとしたその時、何かが空から降って来る。
ガシャーン!!
それは合成人間の体を貫いた。
「!? なんだ? …これは…槍か?」
突然の出来事にアルド達は驚いていると一人の男が近づいて来た。
「どうにか間に合ったみてぇだな! 大丈夫かお前ら?」
真っ赤な髪とズボンに白いジャケットとという個性的な格好をした男はそう言いながら倒れているエイミの方へ向かい手を差し伸べた。
「お嬢さんもいい動きだったぜ!」
「えっ、あ、どうも…」
エイミは少し戸惑いながら彼の手を取り立ち上がった。
「ありがとう、助かったよ! 正直危ない所だった…ところであんたは誰なんだ?」
「俺か? 俺はエッジってんだ! COAの捜査官をやってる。ここらで合成人間の目撃情報があったってんで捜査に来たら早速ドンパチやってやがるからヒヤッとしたぜ。」
COAとはエルジオン司政官直属の捜査機関であり主に事件性のある案件や、警備機関であるEGPDだけでは対応しきれない案件などの時に活動している。
「COAですって!? こうゆうのって普通EGPDが来るんじなかったかしら?」
「いや今回は特別でな、どうも奴らが変な武器を使ってるらしくてよ。んで俺たちが駆り出される事になったってわけだ。」
エッジの言葉を聞いてアルドは倒れた合成人間の元へ歩いて行き、その武器を手に取ってみた。
「見た目は他の合成人間が使ってるのとそんなに変わらない気が。………!! これって?!」
アルドが驚くのもそのはず、その武器にはプリズマが装着されていたのだ。
「おっと、ニイちゃん! 危ねぇからそれに触んないでくれねぇか? 」
「あ、あぁ、わるい。」
アルドはエッジに武器を渡す。
「こんなモンからあれ程の威力の攻撃がねぇ……にしてもお前らが奴の気を引いてなかったらヤバかったぜ。俺一人だったらどうなってたか。」
「いや、あんたの実力も相当じゃないか?」
「へっ、ありがとよ! まぁ今は危険だからあんまウロウロすんじゃねぇぞ! 」
エッジは少し照れながらそう言った。
「ところでその武器はどうするんだ?」
「こいつを本部に持ち帰るのが今日の俺の仕事だからこのまま預からせてもらう。それじゃ、こいつらの後処理をEGPDに頼まなくちゃいけねーからそろそろ行くぜ!」
そう言ってエッジは武器を担ぎ去っていった。
「まさかCOAまで動いてるなんて思わなかったわね。」
「あぁそうだな。あ、それより二人とも聞いてくれ! さっき合成人間の使ってた武器を見てみたんだけど、プリズマが装着されてたんだ!」
「プリズマ!? ゼノプリズマなんて、奴ら一体どうやって…」
「いや、違うんだ! あれはゼノ・プリズマじゃなくて天然のプリズマだった! 間違いない!」
「デハ、ワタシが感じたエネルギーはプリズマの物だったんデスネ!
「えっ!? 天然のプリズマって、もうこの時代には無いはずじゃない? それともどっかにまだ残ってたって事!?」
「うーん、どうだろうな。前に次元が裂けた時にこっちの時代に飛んで来ちゃったとか?」
「ソノ可能性はなくは無いデスガ、エルジオンで天然のプリズマが発見されたという記録はまだ何処にもありマセン ノデ。」
「うーん、今あれこれ考えてもしょうがないから、一旦エルジオンへ戻ろう!」
アルド達はいくつかの疑問を抱きつつエルジオンへ戻っていった。
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