9.禁止
紗也はお洒落なコートを着ており、冷めたような目でこちらの方を見てきた。俺も久し振りに見るその姿をただ呆然と眺めていたが、海藤さんの目線に気付き視線を海藤さんに戻した。
「あの……用事ってもしかして……」
「そ。明日から紗也がお前の学校に行くから。その挨拶にな」
煙草を吹かしながら俺にそう言ってくる。そうか、紗也が。
俺と紗也と遠野。小さい頃は三人でよく遊んでいたものだ。
小学三年生の頃海藤さんとその両親の仲が険悪になったのが影響で海藤さんをおいて引っ越したのだが、どうやら帰ってきたようだ。
「そんじゃ行くぞ。湊、前歩け」
海藤さんの命令通りに俺は二人を先導しながら、学校に向かった。
アレを起こした後なので少し気が引ける。
だが、海藤さんがいるのなら問題はないか。一応親代わりだし。
「……てことなんで、悪いのは全部ウチの馬鹿共なんすよ。だからコイツのことは許してやってください」
「話は分かりました。こちらも先程助けられたという生徒からの事情を聞きましたので、信じさせていただきます」
海藤さんが話すと、花江先生はやけにアッサリと引いてくれた。どうやら星宮が話してくれていたようだ。
だが、花江先生の顔色は曇っている。まだなにか納得できていないようだ。
「……紗也さんの入学手続き完了しましたよー」
「ありがとよ、灰島センセ。じゃ、帰るわ」
隣の部屋で入学手続きを行っていた灰島と紗也が出てきた。海藤さんは灰島にお礼を言った後、そのまま帰る準備を進め始めた。
「待ってください、その前に質問があります」
帰ろうとする海藤さんを花江先生が制止する。海藤さんは一瞬メンチを切っていたが、すぐに営業スマイルを取り戻して花江先生を見た。
「何故、貴方のような方と月崎君が関わっているのですか?」
「小さい頃家近かったからですよ」
何言ってんだ?と言わんばかりの表情を浮かべながら海藤さんは答える。だが、花江先生は納得していない。
一体この人は何を引き出したいんだ。
「質問を変えます。現在月崎君にはお父様が一……!」
言いきる前に海藤さんが机を殴り、机に穴が開く。俺も拳が震えていた。花江先生は血の気が引いたように真っ青な表情になり、灰島と紗也は呆れたような表情になっていた。
「スンマセン先生。この金でコイツが壊した分も含めて机買っといてといて下さい。残った分は学校に寄付します。あと、今後二度とコイツの前で父親の話をしないで下さい。では。」
海藤さんは50万と書かれた小切手を渡し、そのまま帰っていった。
「ウチの馬鹿兄貴がお騒がせしました。では。じゃあ湊、またね」
紗也は一礼をしてから海藤さんの後を追っていった。花江先生はぐったりとしてしまい、動かなくなった。
灰島は呆れたように溜め息を吐くと、こちらの方に歩いてきた。
「お前はどうするんだ?流石に今から授業に合流はしんどいだろ。帰るか?一年と二年の奴がお前に話しあるって言ってたけど」
遠野と星宮か。恐らく部活の話だろう。
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