8.不良

フラフラと歩き回っていると、気が付いたら昨日チンピラと喧嘩したところにたどり着いた。

そこにはヤンキーが数人たむろしており、その中には例の二人もいた。

二人はこちらに気が付いたのか、恐怖のあまりにか尻餅をついていた。周りの奴らもヒソヒソと何かを話している。

面倒だし、放置しておくか。


「……お、久しい顔だな」


無視して通り過ぎようとすると、後ろから声をかけられる。振り返ると、そこには久しく会っていなかった男の姿があった。


海藤かいどうさん……」


「ほう。俺の名前忘れてなかったみてェだな」


海藤誠かいどうまこと。この地域一帯のヤンキー集団をまとめている男で、巷では『青龍』の呼び名で畏れられている。

日本人離れした蒼い髪の毛に鋭く紅い瞳、高身長で細マッチョの男だ。

一時期俺はこの人の元で世話になっていた。


海藤さんはポケットから煙草を取り出して火を点ける。俺の方にも差し出して来たが、それは断らせてもらった。


「いつぶりだ?」


「……高一の秋ですね」


「お、もう半月も経ったのか。早いな。あの時のクソガキが、こんなにデカくなりやがって」


そう言って海藤さんはカッカと笑う。周りのヤンキーどもはそんな俺達を怯えたような、驚いたような何とも言えぬ表情でしばらくこちらを凝視していた。

痺れを切らしたのか、凝視していた中から一人の男がこちらに歩み寄ってきた。いや、正確には海藤さんの元にだ。


「海藤さん。実はあそこにいる二人が昨夜コイツにのされちまったらしく……」


なるほど。先程のヒソヒソ話は俺に報復するかどうかの話し合いをしていたのか。そして、丁度良いタイミングで海藤さんが来たから報復しようと。


「それで?」


「このままじゃあウチが舐められちまいやす。だから、海藤さんのお力で威厳を回復して欲しく……!」


男が言いきる前に、海藤さんの鋭い蹴りが炸裂する。男は堪らずに吹き飛び、壁に激突した。

海藤さんはそのままヤンキー達の元に近寄る。ヤンキー達は怯えたように後ろへ下がるが、壁のせいでそれ以上下がることが出来ない。


「おい、ゴミども。勘違いすんじゃねぇぞ。ウチが舐められるのは、下らねぇこと勝手にして、ガキなんぞにのされちまったテメェらの責任だ。責任ぐれェ自分で取れよ。それも無理な雑魚、ここにいる資格はねェ!消えろ!」


静かな声とドスの効いた声上手く使い分けて威圧する。ヤンキーどもは縮こまってしまった。

海藤さんはその姿を見て静かに舌打ちし、こちらに戻ってきた。


「で?お前は何でこんなとこいるんだ?」


俺は昨日今朝あったことを海藤さんに話した。この人は信用できる人だし、第一歯向かおうとしても半殺しにされるだけだ。

一部始終を聞いて、海藤さんは大きな溜め息を吐いた。


「女子襲おうとした挙げ句に学校にクレームたぁー、ホント情けねェな」


そう言って例のチンピラ達にデコピンを放つ。この人のデコピンは恐怖で、一発喰らうだけで一日激痛が伴うのだ。


「しゃーねぇ、説明するために学校に付いていってやるよ」


「いや、説明するのに付いてくる必要は……」


「馬鹿野郎、俺にも用事があるんだよ。……丁度良いや、おい、こっち来い!」


海藤さんが手招きをすると、一人の制服を着た女性が歩いて来た。


「……久しぶりね。湊」


白く長い髪に蒼く丸い瞳、海藤さんとはおよそ似つかないその人は海藤さんの妹、紗也さやだった。

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