7.指導
全くもって面倒な目に遭った。結局あの人は何がしたかったんだ?
そんなことを考えながらもう一度席に座る。
やっと一人でゆっくりすることが出来る。そう考えふぅーっと溜め息を吐いた。
「おいテメェら席に着けェ。HRの時間だ」
予鈴と共にくたびれたおっさんが教室に入ってくる。
「えーっと?今日の予定は……。まぁ、何でも良いか。てことで、今日も一日頑張ってください。あと月崎、後で俺んとこ来い」
淡々とHRを済ませ、灰島は教室から出ていった。いつもの光景だ。
俺は席から立ち上がって灰島の後を追う。灰島は外で俺のことを待っていたらしく、俺が来るのを見るや否や進み始めた。
「で?何のようだよ」
「敬語使え。そーだなぁ、昨日の件で、あのー。誰だっけ?新任の先生……」
灰島は手をクルクルと回しながら思い出そうとする。この人の癖だ。
というか、教員の癖に同僚の名前覚えてないのかよ。
昨日の件と、新任。俺は今朝呼び出してきた一人の教師を思い出す。
「……花江先生?」
「そーそーそれそれ。その花江先生が、お前に話あるんだよ。全く面倒だぜ」
灰島はぶつくさと文句を呟く。コイツはこんなので何故教師になったのか。
そんなことを考えながら後ろを歩いていると、本日二回目の生徒指導室に案内された。
「月崎君!さっきはどうして勝手に帰ったの!?」
椅子に座って待っていたらしい花江先生が俺の顔を見てすぐにそう言ってきた。
あの状況で律儀に待つ意味も分からないが、取り合えずは灰島に促されて椅子に座った。
「それで?どうして他校の生徒を二人も傷付けたの?」
「別に……。その件は灰島に話すんで」
「え?俺ェ?面倒くせぇなぁ。あー。じゃあ、次から気を付けろよ」
「灰島先生!」
灰島と俺の余りの適当加減に腹が立ったのか、花江先生は声を大にて、立ち上がってしまった。
どうやらこの人は熱血教師らしい。そのため、俺みたいな素行不良の生徒は放っておけないのだろう。身勝手なこった。
「月崎君!先生と本当の、素直な気持ちをぶつけ合わない?昨日の件だけじゃなくって、月崎君がどうして不良になってしまったのかとか、色々さ!」
「だから、今日会ったばかりの先生に話すことなんて何も無いです」
「そんなこと言わないで、ほら?先生何でも受け止めてあげるから」
「花江先生、コイツの好きにさせてやりましょうよ」
「灰島先生は担任なのに何で放っておくんですか!?」
花江先生は熱が入ったのか、感情的に俺との心のぶつかり合いを求めて来た。心底鬱陶しい。
灰島は流石に花江先生を止めようとしていたが、感情的になりすぎて制御が出来ず、半ば諦めていた。
「……別に、アンタに受け止めて欲しかねぇよ」
「え?」
零れた言葉に、花江先生が反応する。驚いたような、何が起こっているのか分かっていないような、そんな表情だった。
「知りもしないくせに軽々しく受け止めるとかほざくんじゃねぇよ。別にお前の救いなんざ求めてねぇんだよ!」
勢いで机を蹴る。机はいとも簡単に壊れてしまった。
俺は花江先生には目もくれず外へ出ていき、そのまま学校をバックレた。
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