6.雑談
遠野が三人目になる……。確かにそれが出来れば俺が所属しても何ら問題はないだろう。
それどころか、俺も気兼ねなく部活に参加することが出来る。しかしだ。
「そもそもお前既に空手部に入部してんだろ。それも主将か何かじゃなかったか?」
「大丈夫大丈夫。校則上は兼部オッケーのはずだし、親父に稽古つけて貰ってるから多少部活に参加出来なくても何ら悪影響は出ねぇよ」
遠野は笑いながら俺の肩をビシバシ叩いてくる。まぁ、そう言われるとそうなのかもしれないな。
コイツの親父さんは空手の師範で、べらぼうに強いのだ。俺もある一件があるまでは親父さんの所で修行させてもらっていた。
「……て、親父さんフルコンだろ?」
「細かいことは気にすんな!」
「細かくねぇよ!」
全くもってこの男は。楽観的というかなんというか。間違いなくコイツのいい所であるのだが。
それにしてもだ。ただでさえ兼部なのに、遠野は更に生徒会まで兼任していたはずだ。そんな奴に、これ以上の負担をかけるのは流石に気が引けるのだが。
そもそも、別に俺は部に所属する気なんて毛頭無い。
「俺ってば生徒会役員だから、二人の役に立つと思うよォ?」
「あ、ありがとうございます……!遠野先輩」
「よし!なら楓ちゃんは何部作りたい?」
「その……私、本が好きなので文芸部……」
「オッケー!文芸部ね!湊は?それで……」
俺は二人を置いて校門をくぐった。悪いがあいつらに付き合う義理はない。
全く。こんなことをして大変な思いをするのは俺ではなくあいつらなのに。
不良と仲良くしている危ない連中、俺に脅されているに違いない。可哀想。周りの連中は必ずこんな言葉を二人に投げかける。いや、もしかするともっと酷いことに遭うかもしれない。
俺は慣れているから別に構わない。だが、二人がそれに巻き込まれる必要はない。
席に座って窓の外を眺める。快晴で、雲一つない澄み切った青。
その景色がなんだか白々しく感じてしまい、嫌気が差す。
「月崎君、よね?少し話があるから生徒指導室に来てくれないかしら?」
呼ばれた方に顔を向けると、見覚えの無い女性の姿があった。
短いショートヘアーの女性で、元気一杯といった雰囲気が漂っている。制服を着ていないので教員だと言うことは理解できるが、こんな人記憶に無い。
「えっと……。誰ですか?」
「世界史担当、
そう言って花江先生は無理やりに俺のことを連れていった。
マジで呼ばれる理由が分からない。そもそもだが、俺は理系選択で世界史は受講していない。つまりこの人とは一切関係が無いはずだ。
にも関わらず呼び出されるとは、一体どういうことだ。
「で、何のようですか?」
「貴方、昨夜暴力事件を起こしたそうね?」
ようやく呼ばれた理由が分かった。だが、何故この人が話をするのか。普通こういうのは担任や校長なんかがするべき話だろう。
いや、あの担任はこういうことしないか。
「何でその……花江先生が話を?」
「何か問題でも?」
「暴力事件起こした奴が、関わりの無い教員、ましてや存在すら知らなかった人に話すと思いますか?」
花江先生はあからさまに絶望をした顔をこちらに向けてきた。
どうやら存在すら知らなかったというのがショックだったらしい。先程から小さく何かブツブツと呟いては乾いた笑みを溢している。
ここにいても時間を無駄に喰うだけなので、早めに抜けることにした。
この感じから見るに、恐らく今回の呼び出しはこの人の独断だろう。
「そういうことです。では」
「……!待ちなさい!まだ話は!」
花江先生の言葉を最後まで聞かずに、俺は生徒指導室を後にした。
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