5.部活
あの、どう……ですか?」
「どうもなにも、まず作ろうと考えた経緯がわからない」
率直に思ったことを伝える。痛いところを突かれたのか、表情を一瞬濁らせる。そして沈黙が走る。
作ろうと思ったのに経緯は分からないとはどういうことだ。突然閃いたにしても、昨日今日会ったばかりの俺を誘う意味がわからない。
それとも、何か言いにくい理由なのだろうか。もしそうなのであれば無理に言わせる必要は無いだろう。こちらとしても、そこまでして聞きたいわけでもないからな。
「……まぁ、言えないのなら別に良い」
「はい……」
星宮は申し訳なさそうに声を落とした。
俺は進行方向に体を戻し、また歩みを進めた。星宮もその後すぐに俺の後ろをテクテクとついてくる。
「その提案に乗ることは出来ない。悪いな」
「ど、どうしてですか!?」
振り返らずに断りの返事を伝えると、愕然とした声音で疑問をぶつけてきた。
どうして、と言われてもだ。俺が入る意味や理由を見出だすことが出来ないのだ。
「そもそも、だ。部活をどうやって作るのか知っているのか?」
「当然……です!あの、確か『部員三人と顧問を一人集めて生徒会に申請する』ですよね」
小さな声ながらも流暢に出てくる。どうやら俺の想像よりしっかりと自身で考えてきたのだろう。余り適当に返事をするのは良くないのかも知れない。
だが、それを考慮した上でも俺はその提案には乗れない。
「その通り。しかし、だ。お前がそれを満たすには重大な問題点があることは分かるか?」
「えっと……?」
星宮は静かになり考え始める。
俺はそれを何も言わず、足を進めながら待っていたが、遂に星宮からの回答は返ってこなかった。
「すみません、分からないです……」
「俺を部員に入れるということだ」
後ろから小さく「え?」と言う声が聞こえてくる。俺の考えが分からないらしい。
俺は周囲を目で見渡す。周囲はあからさまに俺から距離を取り、怯えていたり、ヒソヒソと何かを話していた。
「周囲を見てみろよ」
それだけ言うと、星宮は納得したのか言葉を無くした。
その通りだ。確かに俺が入れば一人分の席は埋めることが出来る。だが、不良生徒と一緒の部活に所属したい!などという物好きはいないだろう。
俺の存在を知るや否や、速攻で逃げてしまうに違いはない。
「そういう訳だ。悪いな」
「おーす!湊ぉ~!……ん?その子……」
断りの返事を入れようとする途中で遠野が向かい側から走ってきた。コイツはまた変なタイミングで。
遠野は最初ノリノリでこちらへ来たが、星宮を見ると変に勘ぐった様子で星宮のことを眺め始めた。
「あ、あの……」
「ん?あぁ!ごめんごめん!いやさ、湊が誰かと一緒にいるなんて珍しいからさ、ついね!」
星宮に呼び掛けられ、遠野はすぐにいつもの調子に戻った。
コイツからしても俺が人と一緒にいる光景は珍しいらしい。
「それで?二人は何の話をしてたんだ?」
「あの、その前に……お二人は、どういう?」
「そうか!自己紹介がまだだったな!」
それから二人はお互いに軽く自己紹介を行う。知っている人同士の自己紹介を見るのは、何とも滑稽で、面白く感じる。
「俺達はなぁ、幼稚園から一緒の幼馴染み、親友ってとこかな!」
「腐れ縁だろ」
「ひでぇ!」
星宮がクスリと笑みを溢す。それにつられてか、遠野もガッハッハと大きく笑い始める。
周りの奴らは俺を囲んで笑う二人に奇妙な視線を送り付ける。
「なに笑ってんだよ?」
「何だかおかしくって……」
「お前にこんな良い子が友達に出来るなんてなぁ!」
そう言ってまた笑い始める。
正直全く理解が出来ないが、何となく嬉しく感じ、笑みが生まれる。
「で、気を取り直して聞くけど、何の話をしてたんだ?」
「あ、あのですね。実は部活を作りたくって……。月崎先輩にも入って欲しいとお願いしたんですが、『俺が入部したらあと一人が来なくなる』と断られてしまって……」
遠野は「あー」と納得したように唸った。流石、ずっと俺と一緒にいるだけはある。
だが、遠野は少し考えた素振りを見せた後、変なことでも思い付いたのか、不敵な笑みをこちらに向けてきた。
「なら、俺が三人目になるよ!」
「え!」
俺と星宮の声が同時に響く。だが、意味は全く違う。
星宮のは喜びの声、俺のは衝撃の声だ。
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