4.感謝
一旦状況を整理しよう。
星宮は屋上からいつの間にか帰っていたのだ。
そして、今チンピラに絡まれていた女性を見たらそれも星宮だったと。
ヤバイな。頭が全然回らねぇ。どういう奇跡が重なったらこんなことが起こるんだ?
いや、考えてみればそこまでおかしくはないか。
こんな時間に絡まれていたのも、帰ったのがつい先ほどだったのと時間が一致するな。
「だからと言ってだなぁ……」
俺は小さくため息を吐く。
星宮はこちらを怪訝そうな顔で見つめてくる。何か不安げで、怯えている様子だ。
「あの、月崎先輩……」
そうか。コイツは今知ったんだな。なら、丁度良かったのかも知れない。
俺は巷では不良として有名なのだ。別に俺から喧嘩を吹っ掛けている訳ではない。ただ、ある事情から俺の事を知った不良どもが襲いかかってきて、それを返り討ちにしている内に不良としても有名になったのだ。
恐らくコイツも今回の事で皆と同じ様に怯えてしまっているのだろう。それが正常な反応なのだ。
なんなら俺が喧嘩してる所を直で見たのだから今すぐにでも逃げ出したいはずだ。なのにまだここにいるのだから、それだけでもこちらとしては十分にありがたい。
「怖かったか?」
静かにそれだけ尋ねる。星宮は困惑したような表情を浮かべてから、小さく頷いた。
「で、でも!」
星宮は変に大きな声を出した。星宮の方を見ると、口元を押さえて恥ずかしそうに頬を赤らめながら笑っていた。
「その……月崎先輩、格好良かったです。た、助けてくれて……ありがとう、ございます」
しどろもどろになりながらも感謝の言葉を伝えてくれる。それがはじめての経験だったので、驚いた。その後すぐに、何だか嬉しいような、むず痒いような変な恥ずかしさが込み上げてきた。
「じゃあ、またな」
恥ずかしさの余りにそれだけ言ってテクテクと帰路に進んでいった。
『ありがとう』。あの日以来一度も言われた事がない言葉だ。
俺は今日の出来事を想起しながら、疲れ果てて眠ってしまった。
朝、いつもと同じ時間に学校へ行く。
昨日のことは夢のようにも感じる。色々とありすぎて未だに現実だと認識出来ていない。
登校中、皆が俺を怯えて距離を取る。俺もなるべる皆からは距離を取って歩くようにする。
いつも通りの光景だ。この日常こそがしっくりくる。
「あの、おはようございます!月崎先輩!」
突然、後ろから声が聞こえてくる。振り返ると、そこには星宮の姿があった。
星宮は黒く長い髪に、大きくて丸い瞳をこちらに向けて来ていた。緊張しているのか、小刻みに震えている。
「おう、おはよう。星宮」
それだけ言い、また歩みを進める。その歩みに合わせるように星宮は後ろにくっついて歩く。
俺と関わってもロクなことにならないのではないか?と感じるが、あくまでも本人の意思によるものなので俺からは何も言うつもりはない。
「先輩、その……もしよろしければなんですが」
後ろを歩いていた星宮が小さな声で俺に提案を持ちかけてきた。
何かは分からないが、「何だ?」とだけ言い、そのまま歩みを続ける。
「一緒に部活作りませんか!?」
「……は?」
余りに唐突な提案に、思わず足を止めて星宮の顔を見た。星宮は、緊張しながらも最高の提案だと考えているのか、少し自慢げな様子だった。
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